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波の音が消える前に  作者: 音香(Otoca )


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24/82

24話

一花は皆と別れた場所から歩き始めていた。


振り返っても、もうゲートはない。


さっきまで皆がいた場所には黒く淀んだ空間だけが広がっていた。


「 …… 」


一花はしばらくその場所を見つめたあと前を向いた。


(さっきオルンさんが住居拠点を作ってたって言ってた……まだ残ってるかな……)


そう思い、オルンと再会した場所まで戻ることにした。


どれくらい歩いたのか分からない。


朝も昼も夜も存在しないこの場所では時間の感覚すらなくなっていく。


ようやく辿り着き辺りを探してみる。


しかし、そんな簡単に見つけられるはずもなかった。


「無いか……」


一花は一人で呟いた。


さらに歩き回っていると、岩陰に小さな洞窟を見つけた。


中を確認すると魔物の気配はない。


「疲れた…… 」


一花は洞窟の中へ入り、壁に背中を預けた。


外には黒く淀んだ空と重苦しい空気が纏う、音すらほとんどしない世界。


「一人で耐えられるかな…… 」


ぽつりと声が漏れた。


その声もすぐに闇へ溶けて消えていく。


(大丈夫……今までだってずっと一人で耐えてきたんだから変わらないはずだよね……)


一花は自分に言い聞かせるように頷いた。


空間ポーチからペットボトルの水を取り出すと蓋を開けて一口飲んだ。


冷たい水が喉を通る。


そのままペットボトルを両手で握り締め、ふと思い出す。


『水分もちゃんと取らないと』

呆れたようなため息。

でも蓋を開けて渡してくれた優しい手。


(レイさん……態度が冷たいこともあったけど、お菓子食べさせてくれたり……不意に頭撫でてくれたな……)


一花は少しだけ笑った。


怖そうに見えるのに、誰よりも周りを見ていた人。

冷たい言葉の奥に優しさがあった。


ペットボトルを空間ポーチへ戻す。


その時、ポーチへ視線が落ちた。


(サーシャさんに貰えて良かったな……)


指先でそっと撫でる。


いつも丁寧で、誰よりも私の変化に一番に気づいてくれた。

ご飯を食べていないこと。

無理して笑っていること。

何も言わなくても気づいてくれた。


「私も写真あればよかったな……」


ぽつりと呟き、オルンのスマホケースに入っていた写真を思い出した。


皆が笑い幸せそうだった。


自分には一枚もない。


皆と過ごした証は何も残っていない。


一花は空間ポーチへ手を入れると大きなアザラシのぬいぐるみを取り出した。


ふにゃっと柔らかい感触をぎゅっと抱きしめる。


『一花ちゃんにそっくりだろ』

そう言って笑ったアラン。

頭を撫でてくれた手。


そして水族館へ連れて行ってくれたヒロ。


(ご飯、美味しかったな……)


(アランさんもヒロさんも……オルンさんに会えて喜んでるんだろうな……)


それでいい。


そのために皆頑張っていたのだから。


私のいる場所ではない。


分かっているのに胸の奥が少しだけ苦しかった。


一花はアザラシのぬいぐるみに顔を埋める。


「私も誰かに思い出してもらえるかな……」


小さな声で呟いたが答えてくれる人はもういない。


一花はぬいぐるみを抱き締めたまま膝を抱える。


そして暗闇の中、静かに眠りについた。


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