21話
あれから数日が経過した。
一花の目は見えるようになり声も出るようになったので通常業務に戻っていた。
そんな中、アランは国家特務保安管理局の本部を訪れていた。
重厚な扉を開けギルドマスター室のソファーへ腰を下ろす。
向かいには国家特務保安管理局ギルドマスターの黒川誠一
が座っていた。
「今月分だ」
アランは机の上へ小さな袋を差し出した。
黒川は袋を受け取り中身を確認すると赤く輝く核が大量に入っている。
「ああ、確かに」
部屋にはしばらく静寂が流れた後、アランが口を開いた。
「黒川、頼みがある」
「お前が俺に頼みなんて珍しいな」
黒川は少し驚いたように眉を上げた。
アランが自分から頼み事をすることは滅多になかったからだ。
「オルンの手掛かりを見つけた」
「ほんとか」
黒川の表情が変わる。
「ああ。明日にでもゲートをもう一度開き中へ入りたい」
その声には迷いがなかった。
黒川は椅子へ深く背を預ける。
「知ってるとは思うが、ゲートを開けられるのは核一つにつき一度だけだ。時間は二十四時間のみ。次に何かあっても同じゲートは開けられなくなる。それでもやるか?」
「ああ。頼む」
即答だった。
五年間探し続けてきて、ようやく掴んだ手掛かりを見逃すつもりはなかった。
黒川は大きく息を吐く。
「分かった。明日十九時に開放区画に来い」
「悪いな」
「生きて戻れよ」
その言葉にアランは微笑んだ。
「そのつもりだ」
黒川も呆れたように笑い、昔から変わらない返事だった。
アランと黒川は幼馴染みだった。
アランが日系アメリカ人のハーフだという理由で幼稚園でいじめられていた時、助けたのが黒川だった。
それをきっかけに仲良くなり、小中高と同じ学校へ通った。
性格は正反対だったが不思議と気が合った。
高校二年のある日、アランにSランクエスパーとしての能力が覚醒した。
異常なほど強力なその力を管理するため、両親はアランをアメリカの専門機関へ連れて行ってしまった。
突然の別れだった。
そして半年後、今度は黒川がSSランクエスパーとして覚醒する。
黒川もまた国に保護され、その後は国家特務保安管理局のギルドへ所属した。
それぞれ別の道を歩いたが、縁が切れることはなかった。
だからこそ黒川は知っている。
アランがどれだけオルネアを探し続けてきたのかを。
五年間、一度も諦めなかったことを。
黒川は窓の外を見ながら呟いた。
「今度こそ見つかるといいな」
アランは立ち上がり扉へ向かう。
「ああ」
短い返事だった。
だがその声には今までにない確かな希望が宿っていた。
アランは事務所に戻ると皆を集めた。
「明日、管理局の特殊ゲート開放区画を使う」
その言葉に部屋の空気が変わった。
ヒロが顔を上げる。
「まさか…… 」
「ああ」
アランは短く答えた。
「先日ホテル裏で開いた二重ゲートを再接続する」
レイが思わず立ち上がる。
「本当にやるんですか」
「黒川の許可は取った」
アランの金色の瞳は真っ直ぐだった。
「制限時間は一日。核一つにつき一度だけだ」
誰も口を挟まない。
それだけ重い意味を持つことを全員理解していた。
「今回の目的は核の回収じゃない」
アランは拳を握る。
「オルンの捜索だ」
全員が待ち続け、五年間探し続けた人。
その名前を聞くだけで空気が張り詰める。
「生存している可能性が高い」
アランはゲート内で回収したスマホを机の上へ置いた。
透明なケースの中には皆で撮った写真が挟まれている。
「これがあった場所はゲートの最奥部だ。オルンを見つけたら全てを優先して帰還する」
ヒロとレイは互いに顔を見合わせると興奮を抑えられなかった。
湊も珍しく真面目な顔をしている。
「出発は十八時」
アランは全員を見回した。
「参加は自由だ」
その言葉にレイが呆れたように笑う。
「行かないわけないでしょ」
「私も行きます」
サーシャも続く。
「俺も」
ヒロが短く答えた。
湊も当然のように頷く。
アランは少しだけ表情を緩めた。
「分かった」
そして視線を一花へ向けると身体を強張らせていた。
「一花ちゃんには悪いが一緒に来てもらう」
その言葉の意味を一花は理解していた。
胸の奥が鈍い音をたてて痛む。
それでも一花は俯いたまま答えた。
「はい……」
ついにこの日が来てしまった。
分かっていた。
最初から自分はその為にここにいるのだと。
優しくしてもらった時間も。
笑いかけてもらったことも。
全部、本当の居場所ではなかったと反論する資格なんてない。
一花はぎゅっと手を握り締めた。
アラン達には救いたい人がいる。
皆がずっと待ち続けた大切な人。
だったら、自分にできることは一つだけだった。




