18話
五人がホテルへ戻るとロビーの空気がどこか騒がしかった。
「アランさん、大変です」
レイと湊が駆け寄ってくる。
二人の表情は珍しく真剣だった。
「ゲートが開きました。恐らくSランクかと思います」
レイの言葉にその場の空気が一気に張り詰める。
「場所は?」
「ホテル裏の山間です」
アランはすぐに向かい、皆も後を追った。
ホテルの裏側。
山道を少し登った先に黒い裂け目のような巨大なゲートが空間を歪ませていた。
禍々しい空気が周囲へ広がっている。
一花は思わず息を呑んだ。
今まで見たどのゲートよりも圧迫感が強かった。
「これなら俺一人でいいだろ」
アランはそれだけ告げると一人で迷いなくゲートの中へ入って行った。
約一時間後。
ゲートの裂け目が揺らぎ、アランが戻ってきた。
同時にゲートも静かに閉じていく。
アランの手には一台のスマホが握られていた。
ヒロはそれを見た瞬間、目を見開いた。
「アランさん……それ……」
アランはゆっくり皆にスマホを見せた。
「オルンのだ」
その言葉に男性陣が固まる。
透明なスマホケースの裏には、一枚の写真が挟まれていた。
今より少し若いアラン達と一人の女性。
茶色の柔らかなロングヘアに優しそうに笑う大きな瞳。
一花は初めて“オルン”の顔を見た。
(皆が探してる人…… )
「今のゲートも二重ゲートだった。これが落ちていたってことは先のゲート内にいる可能性が高い」
アランが静かに告げる。
「でもゲート閉じちゃいましたよ……」
湊が戸惑ったように言う。
「核は回収した。もう一度開くことはできるだろう」
そう説明した直後だった。
アランが突然片手で目元を覆うようにしてその場へしゃがみ込む。
「アランさん!」
愛菜が慌てて駆け寄った。
アランの金色の瞳が鋭く光を帯び、空気が重く沈み込み一気に威圧感が増した。
「レイ、悪いが愛菜ちゃんを部屋まで送ってくれ」
「ガイディングしないと暴走しますよ」
愛菜がアランの腕へ触れようとした瞬間。
「逆ガイディングで死にたくなければ大人しく部屋へ帰れ」
その一言だけで空気が凍りついた。
愛菜は恐怖で顔を強張らせ、レイに支えられながら去っていき、その後を湊も追いかける。
アランはヒロに肩を支えられながら立ち上がった。
「今日は俺の部屋を使ってください」
「悪いな」
アランは息が荒く額には汗が滲んでいた。
一花は何もできず、ただその背中を見ていた。
皆でエレベーターへ乗り込むとアランがふいに一花へ視線を向けた。
一花から漂う甘い匂いを感じ取った瞬間、アランの瞳がさらに濃く光を帯びる。
エレベーターを降り、サーシャが部屋の鍵を開けた瞬間、アランが突然一花の腕を掴んだ。
「っ……!」
強引に壁へ押し当てられ、そのまま唇を塞がれた。
一花は一瞬で身体から力が奪われていく感覚に襲われる。
暴走寸前のSランクエスパーの逆ガイディングは、一花の許容量を遥かに超えていた。
「アランさん……っ」
ヒロとサーシャが止めようと駆け寄るが重力のような力が二人を弾き飛ばした。
「うわっ!」
「っ……!」
扉が閉まり、鍵がかかる。
「いってぇ……」
ヒロが舌打ちをする。
「一花ちゃん…… 大丈夫ですかね」
サーシャが心配そうな顔で呟く。
「ヤバイだろ…… 俺らじゃ何もできねぇよ」
二人は結局、レイ達の部屋へ身を寄せるしかなかった。
アランは荒い呼吸のまま一花をベッドへ押し倒した。
「アランさん…… 止めてください…… 」
「ガイディングしてくれるって言ってたじゃないか」
その声は冷たく金色の瞳だけが異様に光っている。
「この甘い匂い…… やばいな…… 」
「甘い匂い?」
「自分では気づいてないのか」
一花は頭がぼんやりしていた。
身体の奥へ毒素が流れ込み、それと同時に熱が流れ込む感覚に視界も定まらない。
アランは一花の服をあっという間に脱がすとほとんど行為をしないまま一花の中へ入った。
逆ガイディングの影響で感覚が麻痺しているため、一花は痛みは無かった。
「……ん……あっ……あ…ん……」
一花は何も考えられなかったがアランが辛そうに見え、手を伸ばしできる限りのガイディングをした。
アランは苦しそうに息を吐きながら縋るように触れ、暴走寸前の毒素が一花を通して少しずつ抜けていく。
「……っ……ぁ……」
一花は震える指でアランの服を掴んだ。
オルンがいなくなってからこんな感覚は久しくなかった。
愛菜にガイディングしてもらっても数日楽になる程度だったのに、一花のガイディングは身体中を蝕んでいた重苦しさが消え、壊れそうだった脳や神経が静かに癒されていく。
アランはその感覚に溺れた。
「アラン……さん……」
一花は掠れた声で呼んだ。
「今だけでも……好きになってくれますか……」
それは願いだった。
せめて今だけでも自分を必要としてほしかった。
しかしアランは冷たく嘲笑う。
「冗談だろ。使えるから傍に置いてやってるだけだ。お前なんて何も役に立たないだろ」
その言葉が胸へ突き刺さる。
一花はゆっくり目を閉じると涙だけが静かに零れていく。
どれくらい時間が経ったのか分からない。
アランはようやく落ち着きを取り戻すと、隣のベッドへ腰掛け煙草へ火をつけると薄暗い部屋に煙が広がった。
煙草を吸い終わるとアランはそのまま眠りへ落ちた。
一花はようやく解放されたものの、身体に力が入らず震える手でシーツだけを引き寄せる。
そのまま小さく身体を丸め眠りについた。




