第36話 櫓の弓兵
神京市の外れに、帝の住む屋敷がある。
屋敷の真ん中にある中庭の石畳に、影が集まっていた。
十二の影。それぞれが思い思いの場所に立っている。石の上に座る大柄な影。柱にもたれかかり腕を組む細身の影。庭の端で静かに坐禅を組む小太りの影。釣竿を肩に担いだまま動かない影。拳を鳴らしながら地面を踏む影。
月明かりが庭を照らしても、その顔は判然としない。
パンっ
「集まったか」
襖を堂々と開けて現れたのは、帝だった。
金色の着物が夜風にはためく。手には漆塗りの盃。その笑顔は、いつものように張り付いたように見えた。
帝はゆっくりと庭を見渡し、盃を高く掲げた。
「今宵から始まる宴、存分に楽しむがよい」
十二の影も黙って盃を掲げる。
「この神京市に、より多くの魂を堕とせ。朕の祭りを、血で彩るのじゃ」
盃の中身が、月明かりを受けて赤く輝いた。
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北区は静かだった。
大通りから外れた場所に、巨大な物見櫓が組まれている。祭りの名残で飾り付けられた提灯が、風に揺れていた。
ポーカーは団員たちを連れ、ビルの影を縫うように進んでいた。
「周辺の確認を――」
その瞬間、隣の団員が崩れ落ちた。
「なっ……!」
ポーカーは即座にしゃがみ、倒れた団員に目をやった。
死んでいる。
額に、矢が刺さっていた。
弾丸ではない。古めかしい矢だ。
「あの距離を『弓』で狙撃……」
視線を上げる。
暗闇の中、遠く高い場所に人影があった。
その瞬間、また空気が裂けた。
ポーカーは銃を抜き、飛んでくる矢に向けて撃った。
バァンッッ!
金属音。矢の軌道が逸れ、壁に突き刺さる。
「散れ!!」
叫んだ瞬間、矢が連続して降り注いだ。
団員たちが走り散る。だが、反応できなかった数名が次々と倒れた。
「チっ……!」
ポーカーは舌打ちをしながら、櫓へと向けて走り出した。
櫓の上で、人影が動いた。
顔を布で覆い、頭に『うさぎの耳』を付けている。手には弓。矢を数えながら、眼下を見渡していた。
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「弓を弾くとは」
低い声が、夜風に乗った。
「何者だ」
小さな影が猛スピードで近づいてくるのが見えた。
「……ほう」
ヒュンヒュンヒュンっ!
弓兵は矢を連続で放った。
軌道が変わる。真っ直ぐ飛んでいたはずの矢が、途中で曲がり、角度を変えて迫ってくる。
距離が、一気に縮まった。
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「……太古の魔式『弓兵』(アーチャー)か。昔、アルカナと一緒にいた時に見たような…」
ポーカーは走りながら、低く呟いた。
矢の軌道を自由に操れる。それが弓兵の魔式だ。
だが。
『魔式 追跡者』
ポーカーの目が、鋭く輝いた。
次の動き、軌道、全てが見えた。
曲がる矢を、紙一重で躱す。
もう一本。また躱す。
弓兵が眉をひそめた。
「なぜ当たらない……!」
「全て、見えている」
ポーカーは櫓の柱を蹴り、一気に跳躍した。
弓兵が至近距離で矢を放つ。
躱し、懐へ潜り込む。
一瞬の空白。
蹴りが、弓兵の胴体に叩き込まれた。
「がっ……!」
弓兵の身体が、櫓から宙へと飛び出す。
地面に叩きつけられ、動かなくなった。
ポーカーは地上に降り、静かに息を吐いた。
団員の被害を確認しながら、無線を入れる。
「アルカナ、北区で一体だ」
『了解。被害は』
「団員三名がやられた。そっちも気をつけて」
短い沈黙の後、アルカナの声が返ってきた。
『そうか。引き続き頼む』
通信が切れる。
ポーカーは倒れた弓兵を見下ろし、銃口を向ける。
「私達がさっさと対処しないとマズイな…」
夜風が、提灯を大きく揺らした。
その時。
上空から、巨大な影が降りてきた。




