第33話 動き出した歯車
別行動になってから、二課はすぐにバラバラになった。
「お主、本当にそれ飲むんか?」
「面白そうだからな。酒だって書いてあるじゃ無いか」
リヴェルダの怪しい屋台の前で、メリッサは小瓶を迷いなく傾けた。
次の瞬間、彼女の口から出てきたのは、地の底から響くような重低音だった。
「……あら。これはいいゲェップっ!」
「あらら、こりゃ、ワシも見たく無い絵面じゃな」
メリッサは自分の声を聞いて、ふふっと笑った。何度か喋るたびに低い声が出るたびに肩を揺らして笑い続けている。
しかし、ふと我に返って尋ねる。
「なぁ…これ何時間続くんだ?」
「さあのう。ワシも知らん!」
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少し離れた射的の屋台では、アランが店主に何かを交渉していた。
「あのー、自前の銃、使っていいですか」
「え? ま、まあ……的に当たれば」
(見た目は小学生っぽいし、どうせ輪ゴム鉄砲とかだろ……)
「ありがとうございます」
アランが取り出したのは、明らかに市販品ではない銃だった。
銃口が異様に太く、側面に魔素変換装置らしき機械が取り付けられており、さらにそこから連鎖するように銃口が飛び出してくる。
「ちょっと待ってぼく、そ、それ何?」
引き金が引かれた。
轟音。
屋台の的が、なんなら屋台自体が跡形もなく焼き尽くされた。
「わーい、当たりました」
「当たった以前の問題だろ!!」
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その頃、城田は露店のくじ引きの前に陣取っていた。
「よし、今度こそ」
「外れ」
「もう一回」
「外れ」
「……もう一回」
「お客さん、もう三十回引いてますよ」
「男はな、諦めない心が大事なんだ」
渾身の勢いで引くッ!
「外れです」
城田は無言でがまぐちの蓋を閉じた。
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「トイレ行ってきま〜す」
蓮は三人を残して、大通りから少し外れた場所にある小さなカフェに入った。
窓際の席に、すでに二人が座っていた。
一人は私服姿のソリティア。いつもの凛とした雰囲気はそのままに、今日は白いワンピースを着ている。もう一人は、見覚えのある青年だった。タクシーを運転していた少年だ。今日は帽子もなく、ごく普通の私服姿で珈琲を飲んでいる。
蓮は向かいの席に腰を下ろした。
店員が先に注文されていたカフェオレを運んでくる。
「状況は?」
ソリティアが静かに口を開いた。
「やはり、帝が動いています。市内各所に部下を配置しているようで、今日だけで三件の目撃情報が上がっています」
「数は」
「把握できているだけで十数名。ただ、氷山の一角だと思います」
タクシーの青年が手帳を開いて続けた。
「実力もバラバラみたいです。さっき北区で二名確認しましたが、弐式程度でした」
「弐式か」
蓮はカフェオレに口をつけた。
一応、実力に応じての等級がある。
参式、弐式、壱式――そして国家戦力として別格に位置する零式。帝が零式である以上、今の神京市で同じ立場に立てるのはメリッサとアルカナ、そしてもう1人だけになる。
「今、把握しているのは特殊三課の課長、髪無鶴吉。それ以外の瓜山大介と鞭打ミカは弍式に当たります」
ソリティアが静かに付け足した。
「帝が本気で動けば、警察だけでは抑えられないな。あいつの事は俺が一番よく知っている」
「そうなのですか?」
蓮は窓の外に視線を向けた。
祭りの喧騒が、ガラス越しに伝わってくる。
「それともう一つ」
タクシーの青年が声を落とした。
蓮は窓の外を見つめたまま、コップをゆっくりと置いた。
その時、向かいのビルの屋上に人影が見えた気がした。
目を細める。
屋上には、誰もいない。
蓮は視線を戻し、静かに息を吐いた。
(……気を抜いてはいけないな)
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北区の路地。
ミナが壁に背をつけ、息を整えていた。
「……多いね」
「六名ですね。全員参式程度ですが」
ナツメが端末を操作しながら、冷静に言った。
帝の部下たちが、じりじりと距離を詰めてくる。
「一つ提案があります。私は戦闘系じゃないので、建物を壊さないと約束できるなら、ご褒美をあげますよ」
ナツメは眼鏡を押し上げ、ミナの好物であるジャーキーを出した。
その瞬間、ジャーキーは姿を消して、帝の部下たちは地面に倒れ込んだ。
「それが出来るなら初めからして下さい」
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向かいのビルの屋上から蓮を見張っている人物がいた。
「危なかった、もうちょいで見つかるところじゃったな」
「帝の部下狩りなんて俺の性分じゃ無いんだが」
「さっさと働いて。一応観察しとかなくちゃいけないんだから」
三課のメンバーが気絶した帝の部下を掴んで見下ろしていた。




