第32話 巡回パトロール
神京市第三特殊課のオフィスは、二課とは空気が違った。
デスクの上に余計なものがない。書類は整頓して積まれ、ミナのケツタッキーのゴミや城田の馬券のゴミなどの私物らしいものがほとんど見当たらない。壁に貼られた地図や資料も、定規で引いたように真っ直ぐ並んでいる。
「……綺麗だな」
思わず呟くと、隣でミナが小声で返してきた。
「二課と大違いですね」
「聞こえてるわよ。主に貴方のせいだけどね」
ナツメが冷静に刺してくる。
城田は退屈そうにあくびをして、アランは余計なものに触れないよう両手をポケットに突っ込んでいる。
「よく来たな」
奥のデスクから立ち上がったのは、髪無鶴吉だった。
完全に髪のない頭。見事な雷親父顔に、感情の読めない目をしている。背筋は真っ直ぐで、立っているだけで場が引き締まるような存在感があった。
「特殊二課副課長、佐藤蓮です!戦闘は不得意ですので頼らないようにお願いしゃす!」
「鶴吉だ。挨拶は不要。噂に聞いた通り、メリッサのガキだな」
そう言いながら、鶴吉は二課の面々を一人ずつ眺めた。
「……うちと比べて思ったより個性的だな」
「褒め言葉として受け取っておくよ。そっちはその…普通のメンツだね」
メリッサが軽い口調で返した。
三課側からも二人が立ち上がった。
「瓜山大介だ。仲良くしてくれ」
がっしりとした体格の男が、大きな手を差し出してきた。握手すると、分厚い拳だこが伝わってくる。
「私は鞭打ミカ。……まあ、これからよろしく」
もう一人は、少し距離を置いたまま軽く手を上げた。目つきは鋭いが、どこか気怠げな雰囲気がある。
「さて」
鶴吉が地図を広げた。
「今日は市内の巡回を分担する。祭りの期間中、不審な動きをしている者がいれば即報告。戦闘は原則禁止だが、やむを得ない場合はこちらの判断に任せる」
「了解です」「はーい」
三課と二課では返事も違っていた。
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巡回は午後から始まった。
二課と三課は別々のルートを担当していたが、ニ課の面々は交流会のような雰囲気になっていた。
最初の一時間は、真面目にパトロールをしていた。
「……暑いな」
城田が首を鳴らしながら、屋台の前で足を止めた。
「よし少し休憩するか」
「いいね城田君。賛成」
メリッサがグッチョブと頷く。
「いや、まだ30分しか経ってないですよ」
ナツメが眼鏡を押し上げながら言った。
「わかるかナツメ。人間、人生でも休憩が大事なんだ」
「城田さんの言う休憩は大体サボりですよね」
「黙れ減給にするぞ」
アーランがすでに屋台の焼きそばを注文していた。
「アーランまで」
「だって美味しそうだし、気配察知機能使ってるけどなんも変わらないよ」
ミナは尻尾を揺らしながら、隣の金魚すくいの屋台に吸い寄せられていく。
「ミナさん、それ完全に遊んでますよね」
「大丈夫大丈夫!これも身辺調査だから!」
「どういう理屈ですか」
蓮は苦笑しながら、わたあめを齧っていると、鞭打ミカの声が割り込んできた。
「おい二課のサボり魔ども、何してる?」
「あ、調査の……一環でして」
「調査じゃなくて祭りを楽しんでるだろ。お前ら、、人の話をしてる時くらい食べるのを辞めろ!」
全員が一瞬固まった。
「鶴吉課長には言わないでおいてやる。その代わり、北区画の全ての巡回を引き受けろ」
「……了解です」「うーす」「はいはい」
全員が覇気のない返事をする。
ミカが何処かに行くのを確認すると、城田が焼きそばをズゾゾゾッと頬張りながら言った。
「なかなかやるな、あの娘。前のパチ屋に居た店員と同じ目をしてやがる…」
「お昼過ぎても来なかった理由パチンコですか」
ナツメが深くため息をついた。




