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双面人生  作者: 名のないりんご
第一章 紅き月編
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第28話 夢の終わり

魔式『夢創者』の光が、アルカナの全身に満ちていた。


魔泉士の魔素が体内で湧き続け、ガリアの略奪を完全に無効化している。いくら吸い取ろうとしても、追いつかない。


ヴォルクの顔が、初めて動揺を見せた。


「ソ、そんなバカな…」


アルカナは鎖を引き千切り、前へ踏み出した。

その瞬間、ヴォルクの塊が大きく膨れ上がった。

肉が裂け、そこから人の形をした何かが這い出してくる。


一体。二体。五体。十体。

テラーの合成によって生み出された合成人間たちが、次々と塊の表面から溢れ出した。


それぞれの目は虚ろで、意志を持たない操り人形のように四方からアルカナへと迫ってくる。


「数で押そうにも弱いんだよ」


アルカナは静かに息を吸い、リヴェルダの医者を発動させた。


緑色の治癒の魔素が、全体に解き放たれる。

リヴェルダが合成獣にやったのと同じだ。構造を知れば、壊すことができる。


縫合された部位が、接合された組織が、一つ一つ解れるように崩れていく。

合成人間たちが、次々と膝をついた。


「……っ、ツカエ無い奴ラだ!」


ヴォルクの顔が歪んだ。


「ならば」


今度は、姿が変わり始めた。

合成人間とは違う。より大きく、より禍々しい。狼の毛に覆われた四肢、人の形を保ちながらも明らかに異質な速度で動く合成狼人たちが、肉塊から這い出してきた。


そして、それぞれの身体は残像を出すほどの速度で動いている。


「魔式『残像者』か」

アルカナが低く言った。


「オマエを…コろす」


十体の合成狼人が、それぞれ複数の残像を展開しながら四方から迫ってくる。


同時に、支配者の鎖が地を這い、空中を縦横無尽に走り回った。


鎖と残像が絡み合い、アルカナの逃げ場を完全に塞ごうとしている。


「……行くぜ、ポーカー。魔式『追跡者』」


アルカナは目を閉じた。

ポーカーの魔式が、全ての動きを捕捉する。


残像の奥の実体。鎖の軌道。突っ込んでくる合成狼人それぞれの次の一手。全てが、手に取るように分かった。


目を開く。


一体目の実体が右から迫ってきた瞬間、アルカナは半歩だけ左へずれた。爪が空を切る。その勢いを利用し、背後に現れた鎖を跳躍で躱す。


二体目、三体目が同時に飛びかかってくる。

躱し、受け流し、最小限の動きで全てをいなす。


鎖が足元を狙った瞬間、それを踏み台にして跳ぶ。


四体目の実体を捕捉し、すれ違いざまに魔素を込めたナイフで斬り伏せる。


五体目、六体目…七体…十体……と。


一つ一つが精密に読まれ、一手ずつ確実に潰されていく。


「ナゼ……キサマは邪魔ヲスル……!?」

「嫌な夢を見せようとしてくるからだ」


七体目を躱し、八体目を斬る。

鎖が束になって叩きつけられた瞬間、アルカナはその束ごと掴み、引き寄せた。


ヴォルクの核へ、距離が縮まる。


さらに飛んできた鎖をナイフと銃で同時に受け流し、アルカナはついにヴォルクの核の目前に立った。


「……ここだ」


肉の塊の中心。魔式『追跡者』で既に見えていた。


ルナがいる。


アルカナは魔素を両手に集中させた。膨大な量が、手の平から溢れ出しそうになる。


「ヤ…やめろォォ、アルカナぁあぁぁあ!!」


ヴォルクの声が、断末魔のように響き渡る。


「終わりだ」


魔素が、刃のように凝縮された。


一閃。


肉が裂け、内部に光が差し込む。


もう一閃。


さらに深く、慎重に、ルナ以外を傷つけないように切り開いていく。


「……悪夢は」


闇の中に、手が見えた。


「もう終わりだッ!」


アルカナはその手を掴み、全力で引き抜いた。


「ルナ!」


光の中に、小さな身体が飛び出してきた。

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