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双面人生  作者: 名のないりんご
第一章 紅き月編
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第26話 再び満ちる悪夢

地上に、光が満ちた。


テラーの魔素が膨張し、倒れていた幹部たちを包み込んでいく。


「全員、下がれ!!」


アルカナの声が屋上から響いた。

地上では、ドリームメイトの幹部たちが距離を取った。


「なんだこれ……!」


ジャックが舌打ちをし、倒れていたゴンザを見た。

意識を失っていたはずのゴンザの身体が、魔素の渦に飲み込まれていく。


「ゴンザが……!」


ミナが思わず駆け寄ろうとした。


「動くな」


ポーカーが冷静に制した。


「近づいたら危険だ」


黒い渦が、次々と幹部たちを飲み込んでいく。

黒瀬が。

ガリアが。

テラーが。

渦はどんどん膨れ上がり、禍々しい形を取り始めた。


「うげぇ、気持ち悪……」

ネロが端末を握り締めたまま、その光景を見つめた。


屋上では、アルカナがヴォルクを見据えていた。


「……これが最後の悪あがきか」

「ああ」


ヴォルクは立ち上がり、渦へと歩み寄った。


「十五年、待ち続けた。完璧な狼族の力を手に入れるために」


一歩、また一歩。


「お前には悪いが、ここで止めさせてもらう」

その瞬間だった。


ヴォルクの腕から、黒い鎖が一本だけ伸びた。

アルカナではなく、別の方向へ。


「……っ!」


ルナが気づいた時には、鎖は既に足首に巻きついていた。


「な……!? なんで!」

「狼族の血が濃いお前がいれば、完璧になる」


引きずられる。


「やめろ……! 離せっ!!」

「アルカナ!!」


アルカナは即座に跳んだ。

手が、届きそうになった。

だが、渦がルナを飲み込む方が、一瞬だけ速かった。


「ルナ!!」


手が、空を切った。

渦の中に、ルナの姿が消えた。


__________________


沈黙が、屋上に落ちた。


アルカナは空を切った手を、ゆっくりと下ろした。


渦が収縮し、一つの塊へと変わっていく。


それは、人とは呼べないものだった。


巨大な肉の塊。

表面には狼族の灰色の毛が所々に生え、テラーの鉄の腕が複数本飛び出している。ガリアの鋭い爪が、皮膚を突き破るように伸び、黒瀬のような細い脚が不規則に生えていた。

肉が蠢き、骨が軋む音が屋上に響く。


その中心に、一つだけ人間の顔があった。

ヴォルクの顔だった。


「……ぎぎ」


低い唸り声。

自我をギリギリ保っているのが分かった。理性の糸が今にも切れそうな、獣と人間の狭間。


「これが……」


アルカナは静かに呟いた。


「お前の言う、完璧な力か」

「……あぁあ」


ヴォルクの声は、歪んでいた。


「これが……おれぇだぢの……力だ」


巨大な腕が、屋上の縁を掴んだ。

そのままビルの壁面を、引き剥がすように叩き壊した。


轟音。

瓦礫が夜空へと舞い上がり、地上へと降り注ぐ。


「全員、散れ!!」


地上でポーカーが叫んだ。

ドリームメイトの団員たちが、瓦礫を避けながら怪我人を抱えて走り散る。


「やばいやばいやばい!!全員逃げて!」


中継を見ていたネロは無線をハックして全員に怪我人の救出と退避を促す。


「アルカナ様……!」


ソリティアが屋上を見上げ、眉をひそめた。

ヴォルクの塊が動くたびに、周囲のビルが揺れた。


巨大な肉の腕が隣のビルの壁面を殴りつけ、窓ガラスが一斉に砕け散る。


「……ルナが中にいる」


アルカナは静かに、しかし確かにそう呟いた。


ナイフや銃弾などの中途半端な攻撃では、完璧な狼族の力で再生してしまう。


それに、ルナが取り込まれている以上、力任せに叩き潰すことはできない。


「……どうするんだ、アルカナ」

ポーカーは少し深刻な顔をしている。魔式『追跡者』で中の状況がわかるのだろう。


ヴォルクの顔が、歪んだ笑みを浮かべた。

「……ジジ…ギギ………」


次の瞬間、肉の塊の巨体が高速で移動し、あたりに衝撃波が起こった。


アルカナは軌道を読み、紙一重で躱す。

避ける際、地上ではバタバタと倒れていく市民、団員達が視界に入った。


ソリティアはその状況を見て一瞬で理解した。

「まさかあいつ、周りの魔力を吸い取って……て、ガリアの魔式が使えるの!?」


黒瀬の魔式『残像』、ガリアの魔式『略奪者』、そしてテラーの『闇科学者』によってあの身体は作られているのだ。


そして、どこかに、まだルナがいる。

「依頼は受けた。だから絶対にお前をあの悪魔から解き放ってやる」


夜風が、アルカナは魔力を込め、全身に力を込める。


そして、静かに呟く。

    「魔式 夢創者(アルカナ)」と。

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