第25話 沈まない月
ソリティアとガリアの戦闘は、一方的になっていた。
「オラっ……くそっ……!!」
ガリアは奪った魔素を使い、次々と攻撃を繰り出す。
だが、ソリティアには全て読まれていた。
「あら?また同じパターンでやるの?」
躱し、躱し、また躱す。
「なんで当たらないんだよ!!」
「当たる気がしないから」
ソリティアは淡々と言い返し、反撃に転じた。
ソリティアの魔素のこもった小さな手がガリアを吹き飛ばす。
壁に叩きつけられ、ガリアは崩れ落ちた。
「ぐっ……」
立ち上がろうとする。だが、身体が言うことを聞かない。
「……なんで」
「貴方が奪った魔素は、私の魔素よ」
ソリティアは腕を組み、倒れたガリアを見下ろした。
「私の魔素の動きは、全部私が把握してる。貴方が奪って使おうとしても、私が邪魔しようと思えばできる」
「そんな……反則だろ」
「文句は自分の魔式に言いなさい」
ガリアは力尽き、地面に伏した。
ソリティアは一度だけ周囲を見渡し、小さく息を吐いた。
「……終わり」
その言葉が静かに夜に溶けた頃、街の各所で同じような光景が広がっていた。
全身骨折で倒れるゴンザ。
両足を撃ち抜かれ、動けなくなった黒瀬。
合成獣を全て失ったテラー。
紅月の幹部たちが、次々と地に伏していく。
だが、夜はまだ終わっていなかった。
屋上では、全てを見届けたヴォルクが静かに通信機を取り出していた。
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屋上に、風が吹いた。
ヴォルクは通信機をしまい、アルカナへと向き直った。
「……行くぞ」
黒い鎖が空間に展開される。
縦横無尽に伸び、屋上全体を覆い尽くすように広がった。
「この空間は既に俺の支配下だ」
「戦法が古臭いな」
アルカナは武器すら抜かなかった。
魔式も使わない。
ただ、真っ直ぐ前へ歩み出た。
「……魔式を使わないつもりか?」
「必要ないよ。勝敗は分かってるから」
鎖が一斉に迫った。
アルカナは足を止めず、鎖と鎖の隙間を縫うように走った。
速い。
ヴォルクが密度を上げても、常に一手先を動いている。
「っ……!」
鎖の網が完成する前に、アルカナはその中心へと踏み込んだ。
拳が、ヴォルクの胴体に叩き込まれた。
「ぐっ……!」
衝撃で屋上の床が陥没し、ヴォルクの身体が大きく吹き飛ぶ。
縁ギリギリで体勢を立て直し、ヴォルクは歯を食いしばった。
「……まだだ」
鎖を再展開。
今度は空間ごと押し潰すように、四方八方から叩きつける。
アルカナは鎖を一本掴み、そのままヴォルクへと引き寄せた。
距離が詰まる。
「速い上にしっかり実力もあるとは……!」
もう一発。
脇腹に蹴りが入り、ヴォルクの身体が再び吹き飛んだ。
壁に激突し、崩れ落ちる。
「……ぐ」
立ち上がろうとする。
だが、腕が震えていた。
ルナはその光景を息を呑んで見ていた。
魔式も使わず、武器も使わず。
アルカナはただの拳と脚だけで、ヴォルクを圧倒していた。
(……ついて行けない)
アルカナの周囲に流れる魔素の圧だけで、ルナの身体が本能的に竦む。
自分が割り込める戦いではない。それだけは、はっきりと分かった。
アルカナはヴォルクの前に静かに立った。
「お前の企みもここまで…」
ヴォルクは項垂れたまま、しばらく動かなかった。
やがて、低く笑い声が漏れた。
「……終わり、か」
顔を上げると、その目にはまだ光があった。
「15年間、ここまで準備してきたんだ。まだ俺の支配を続けさせてもらうぞ……!」
ヴォルクは通信機を取り出し、一言だけ告げた。
「テラー…始めろ」




