第24話 幹部の実力
路地裏に、静寂が満ちていた。
ガリアは警察の防衛ラインを一人で蹂躙していた。
「はははっ! 弱すぎんだろお前ら!!」
警官の一人に手を触れると、魔素がごっそりと抜け落ちる。
魔式「略奪者」(ルーター)。触れた相手の魔素を根こそぎ奪い、自分のものにする。
奪えば奪うほど、力が満ちていく。
「もっとよこせよ、もっと!!」
警官が次々と膝をつく。魔素を抜かれた身体は、まるで人形のように動かなくなった。
「見ろ! これが実力の差ってやつだ!!魔式を持っていると持っていないじゃ話にならねぇ!」
ガリアは高笑いしながら、次の獲物へと手を伸ばした。
その瞬間。
「随分と楽しそうね」
冷たい声が、背後から降ってきた。
ガリアが振り返ると、街灯の下に一人の少女が立っていた。
長い髪、涼しい目。どこか退屈そうな表情で、腕を組んでいる。
「なんだあ? あぁ、ドリームメイト幹部か」
「そうよ。ソリテ…まぁ名乗らなくてもいいかしら」
ソリティアは一歩前に出て、ガリアを上から下まで一瞥した。
「警官から魔素を奪って喜んでるの? 雑魚相手に必死ねぇ」
ガリアの目が血走った。
「あぁ? 今、なんつった?」
「聞こえなかった? 雑魚、って言ったの」
ガリアの額に青筋が立つ。
「……ぶっ飛ばすぞ」
「口だけは嫌いよ」
ガリアは地を蹴り、ソリティアの腕を掴もうとした。
魔素を奪えば終わりだ。どんな強がりも、魔素を失えば只の人間に成り下がる。
指先がソリティアの腕に触れた。
「もらった!」
魔素が流れ込んでくる。
だが。
「……あ?」
止まらない。
奪っても、奪っても、ソリティアの魔素が尽きない。
まるで底なし沼に手を突っ込んでいるような感覚。
「なんで……!?」
「魔式「魔泉士」」
ソリティアは涼しい顔のまま言った。
「私の魔素は勝手に湧き続ける。奪っても意味がないわ」
「んなっ……!」
「それに」
ソリティアはガリアの手を払いのけ、一歩引いた。
「奪った魔素の扱い方も知らないくせに、よく警官相手に威張れるわね。本当に弱い」
「うるっさい!!」
ガリアは奪った魔素を全て解放し、拳に集中させ、周囲を浮き飛ばす威力の爪攻撃を繰り出した。
「じゃあこれでどうだ!!」
「……動きが見え見えじゃない」
ソリティアは小さくため息をついて、半歩だけ横にずれた。
拳が空を切る。
「次の動きもね」
「なんで!?」
「だから雑魚って言ってるのよ」
ガリアの顔が、真っ赤に染まった。
ドリーム・メイトの幹部は所詮、肩書だけだと思っていた。だが、魔式を持っていてもここまで差があるとは思わなかった。
ガリアは、ヴォルク以来の恐怖という差を味わった。
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一方、街の別の一角。
夜の静寂の中で、ポーカーと黒瀬直哉は向き合っていた。
「……」
黒瀬は無言のまま、ポーカーを見据えていた。
感情の読めない目。どれだけの命を奪ってきたのか。
昔の私にそっくりだ。
ポーカーは二丁の銃を構え、静かに言った。
「出し惜しみは嫌いだ。魔式発動、「追跡者」。対象はお前に絞った」
次の動き、体力、位置、全てが手に取るように分かる。
「さあ、どこからでも来い」
黒瀬が先に動いた。
音も気配も消して、一瞬で死角へと消える。
「右、三メートル」
ポーカーは振り返りもせず、右後方へ銃を向けた。
銃声が響く。
黒瀬は躱そうとしたが、弾丸は実体を正確に捉えていた。
肩を掠め、黒瀬の動きが僅かに乱れる。
「……」
距離を取り、黒瀬は再び闇の中に消える。
今度は、先ほどよりも早く黒い影が無数に動く。
「全部分かる」
ポーカーは迷わず、自分の背後の位置へ銃口を向けた。
銃声が一つ。
今度は脇腹を掠め、黒瀬が僅かによろめいた。
「……っ」
黒瀬の目に、初めて動揺が宿った。
どれだけ速く動いても、位置を変えても、この女の銃口は常に自分を捉えている。
長い殺し屋人生の中で、こんな経験は初めてだった。
逃げ場がない。
隠れ場もない。
次の動きを、全て読まれている。
黒瀬は動きを止め、真正面からポーカーを見据えた。
「……何故、俺の動きが見えている?」」
掠れた声だった。
長年使っていなかった声帯が、錆びついたように震えている。
ポーカーは銃を構えたまま、僅かに目を細めた。
「声が出るんだな」
「……久しぶりに、出したよ」
黒瀬は静かに言った。
「これだけ追い詰められたのは、初めてだ」
「そうか。では、声が出た記念に教えてやろう」
銃弾を込めながら話を続ける。
「私の魔式で、君の魔式は把握しているんだ。『残像を出して高速で移動する』だろ。これで満足かな?」
ポーカーは表情を変えず、引き金に指をかけた。
「この6発で終わりにしよう」
黒瀬は目を閉じ、全ての残像を解放した。
「俺の全てをぶつけたくなった……最高速でいかせてもらう」
次の瞬間、連続した銃声が夜を切り裂いた。




