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双面人生  作者: 名のないりんご
第一章 紅き月編
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第22話 満ち欠ける紅月

地上は、修羅場だった。


強化された紅月の団員たちが警察の防衛ラインを次々と突き崩し、街は悲鳴と爆発音に包まれていた。


その中心で、アランが限界を迎えつつあった。


「くそっ……まだ立つのかよ!!」


ゴンザの巨腕がビュートの胴体を掴み、そのまま地面へと叩きつける。

金属が悲鳴を上げ、フレームに亀裂が走った。操縦席の中でアランは歯を食いしばる。


「ガハハッ! どうした!?もう終わりか!?」


ビュートが起き上がろうとするが、ゴンザはその首根っこを掴んで再び地面に叩きつけた。


「こいつ……暴走に慣れて更に強化されてる!?」

「当たり前だろうがァ!! 俺はヴォルク様の期待に応えるために強くなったんだからなァ!!」


──あの日のことを、ゴンザは今でも覚えている。

路地裏の不良グループ。ガリアと二人で毎日誰かに喧嘩を売って、それだけが自分たちの存在証明だった。強ければ全てが手に入ると思っていた。

だが、ヴォルクを見た瞬間に分かった。

自分たちの「強さ」など、子供の遊びに過ぎなかったと。

ヴォルクから放たれる圧倒的な重圧。言葉も要らない。ただそこにいるだけで、逆らうことなど考えられなくなる。

これが本物の力だと思った。


恐怖が人を支配する。それがこの世の真理だと思った。


だから従った。力を手に入れるために。


「さぁ〜て、これで終わりだァ!!」


ゴンザの拳がビュートに迫った、その瞬間。


「おいゴリラ」


低い声が、横から割り込んだ。

ゴンザの拳が止まる。


路地の影から、ゆっくりと歩み出てきたのは槍を持った犬型の獣人だった。


薄汚れたジャケット、傷だらけの拳。目だけが、獰猛に輝いている。


「俺の獲物に手を出すなよ」


『第五夢』ジャックだった。


「あぁ? なんだお前」

「ドリームメイトのもんだ。お前には俺が相手をしてやる」


ゴンザはボロボロの期待を投げ捨て、ジャックへと向き直った。


「ガハハッ! ちょうどいい、腕試しといこうか!!」


___________________


少し離れた場所では、ミナが壁際まで追い詰められていた。


テラーが生み出した合成獣。

人間と獣人を混ぜ合わせた異形の存在が、四方から迫ってくる。


ミナの嗅覚には、その異臭が本能的な恐怖を刻み込んでいた。


「なんなんだよこいつら……臭いがおかしい……!」

「面白いでしょう」


テラーは白衣のポケットに手を入れたまま、無感情に言った。


「紅月団員と獣人の良いところを掛け合わせた。私の最高傑作です」


「最高傑作ぅ……? 気持ち悪いな……!!」


合成獣の爪がミナの頬を掠める。

鋭い痛みが走り、膝が揺らいだ。


(やばいなぁ……数が多すぎる。魔式を使ってもいいけどここじゃ……)


暴走したら終わり。それだけは分かっていた。


「さあ、これにて終演です!」


テラーが静かに手を上げた。

合成獣が、一斉に飛びかかろうとした。

その瞬間。


「おい待て小童」


穏やかな声が、夜を切り裂いた。

合成獣の動きが、ぴたりと止まった。


「……だれ?」


ミナが顔を上げると、合成獣の一体が内側から崩れ落ちていた。


接合部が溶けるように、構造そのものが分解されている。


白衣を羽織った小柄な人影が、静かに着地した。


「遅れてしまったな。怪我はないか?治してやるぞ」


『第六夢』リヴェルダだった。

見た目は十代の子供にしか見えない。だが、その口調はどこかの老人のようだった。


「ドリーム・メイト……!?」

「うむ。後はワシに任せるがよい」


テラーは頭をかいて、リヴェルダを静かに観察した。


「……確か魔式「医者」(ドクター)。世界最高峰の治癒系の能力ですね」

「よう知っておるのう」


リヴェルダは穏やかに微笑んだ。


「じゃが、知っておるからといって対処できるとは限らんぞ」

「興味深い」


テラーは合成獣を追加展開し、リヴェルダへと向けた。


「では、試させてもらいましょう」


合成獣が四方から迫る。

リヴェルダは動じず、自分の周囲に魔素をゆっくりと広げた。


「治す為には、構造を知るのが大切ということじゃ」


合成獣の一体が飛びかかった瞬間、リヴェルダの魔素が弾けた。

内側から崩れていく。


「構造が分かれば……」


残る合成獣も、次々と同じように崩れ落ちていく。


「壊すことも、わしには容易いのじゃ」


テラーは初めて、表情を僅かに動かした。


「……なるほど。逆方向への応用ですか」

「お主の研究は、ここで終わりにしてもらうぞ」


リヴェルダの声は穏やかなまま、一歩も引かなかった。

テラーは少しの間、リヴェルダを観察してから静かに言った。


「……面白い。では、本気で相手をしましょう」


白衣を脱ぎ捨て、両腕に魔素を惑わせた。

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