第21話 夢の依頼
「……なんで」
ルナの声は掠れていた。
「なんで、来てくれたんだ。幹部のみんなに止められてたんじゃ」
アルカナは答えるまでに、少し間を置いた。
「俺たちはドリームメイトだ」
優しい声だった。
「夢を叶えてほしいのだろ? ならもう一度、大声で言ってくれ。自分の夢を……」
ルナは目を見開いた。
さっき叫んだばかりだ。落ちながら、夜空に向かって。
恥ずかしいとか、みっともないとか、そんな気持ちが頭を過ぎった。
でも。
アルカナの目が、真っ直ぐこちらを見ていた。
ルナは息を吸った。
「狼族も人間も関係ない……みんなが笑って暮らせる街を作りたい! それがあたしの夢だ!!」
夜風が吹いた。
アルカナは笑みを浮かべて立ち上がる。
「その夢、確かに聞き取った」
そして、赤い月が上る夜に向かって声を張り上げた。
「ドリームメイト全団員――いくぞ!!」
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次の瞬間、街を囲む高層ビルの屋上に、一つ一つ光が灯った。
赤い月の下、闇の中に浮かび上がるシルエット。
一人、また一人と、横並びに立つ影たち。
その後ろには、無数の団員たちが続いていた。
「……なっ」
ルナは息を呑んだ。
最初に声を上げたのは、一番端のビルからだった。
「皆者、怪我はほどほどにするだぞ」
白衣を風にはためかせた『第六夢』リヴェルダが、にっこりとした笑顔で言う。
「後で治すのはワシなので……」
次は、その隣。
槍を肩に乗せた黒い犬が、獰猛に笑う。
「狼狩りか」
『第五夢』ジャックは槍を突き立て、拳を鳴らした。
「悪くねぇ夜だ」
続いて、軽やかな声が響く。
「ハードモードはキツいんだけどなぁ」
端末を片手に持ったまま、『第四夢』ネロがため息交じりに言った。
「……まあ、クリア報酬がルナだからいいか」
その隣。
黒い道着を着てあんぱんを加えた少女が、静かに前を向いた。
「モゴモゴ(主君のためとあれば)」
『第三夢』ハーツは木刀ではなく真剣を手を添え、一言だけ言った。
「モゴガモ!(全力で参る!)」
次。
尖った声が、夜に溶ける。
「汚い獣ばっかりですね。早く潰してしまいたいです」
『第二夢』ソリティアは静かに目を細め、口元に薄い笑みを浮かべた。
そして最後。
二丁の銃を腰に、無表情のまま立つ影。
長い沈黙の後、『第一夢』ポーカーは短く言い放った。
「……はぁ、やるしか無いか」
それだけだった。
それだけで、十分だった。
ルナは気づいたら、目が熱くなっていた。
「アンタら……」
「泣くのは後だ」
アルカナが静かに言い、ヴォルクへと向き直った。
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地上では、紅月の幹部たちが動きを止めていた。
ビルの屋上に灯る光を見上げ、ガリアが舌打ちをする。
「……チッ、ドリームメイトの野郎ども」
テラーは眼鏡を押し上げ、静かに口を開いた。
「想定の範囲内です。各自、対応してください」
黒瀬直哉は無言のまま、視線だけを上へ向けた。
ゴンザは牙を剥き、唸り声を上げる。
「ガハハッ! 来るなら来い!!」
その言葉が合図だった。
ドリームメイトの幹部たちが、一斉に地上へと降りていく。
リヴェルダはテラーへ。
ジャックはゴンザへ。
ネロは解析を続けながら後方支援へ。
ハーツはその場で地を蹴り、素早く狼族の集団の中へ入る。
ソリティアは、冷静に状況を見極める。
ポーカーは二丁の銃を抜き、黒瀬を真っ直ぐに見据えた。
街全体が、戦場になった。
屋上に残ったのは、アルカナとルナ、そしてヴォルクの三人だけ。
ヴォルクは眼下の戦場を一瞥し、ゆっくりとアルカナへ視線を戻した。
「……来たか、ドリームメイトの主よ」
低く、ザラついた声だった。
「茶番だな。夢だと? そんなもので、世界は変わらん」
「これから変えられるんだよ」
アルカナは静かに答えた。
「お前の支配じゃなく、ルナの夢で」
ヴォルクは鼻を鳴らし、魔素を滲み出させた。
黒い鎖が、空間に浮かび上がる。
「ならば証明してみろ」
ルナはアルカナの隣に並び、前を向いた。
震えは、もうなかった。
「行くぞ、ルナ」
「ああ」
夜風が、二人の間を吹き抜けた。




