第20話 宴の支配者
告白の言葉が、夜風に溶けた。
ルナは動けなかった。
膝が震え、拳が震え、視界が滲んだ。
「……お前がッ!!!」
声が掠れた。
胸の奥で何かが弾けた。
「ううっ……!」
気づけば、身体が変化し始めていた。
夜空に浮かぶ赤い月が、ルナの身体に染み込んでくるような感覚。
血が沸騰するように熱くなり、視界の端が赤く染まる。
狼族の本能が、理性の縁を削っていく。
「あぁ……っ、くそ」
暴走しかける意識を、歯を食いしばって押さえ込む。
それでも変化は止まらなかった。
爪が伸び、耳が鋭くなる。
獣の唸り声が、喉の奥から漏れた。
ルナの全身から、不安定な魔素が溢れ出す。
形を保てず、霧のように揺らぎながら、それでも確かな力として空気を震わせた。
ギリギリのところで理性を保ち、踏ん張るように立つ。
「私だって……魔式を……」
完全ではない。
制御もできていない。
それでも、これはルナの力だった。
ヴォルクは静かに目を細めた。
「面白い。さあ、かかってこい」
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ルナは地面を蹴った。
爪を振り上げ、全力で叩きつける。
ヴォルクは一歩も動かず、片手を軽く上げた。
次の瞬間。
ヴォルクの腕から、黒い鎖が伸びた。
魔素が凝縮された、重厚な鎖。
それがルナの腕に巻きつき、動きを強制的に止める。
「っ……!」
「これが私の魔式『支配者』(ルーラー)だ」
低い音が、静かに響いた。
鎖が引っ張られ、ルナの身体が地面に叩きつけられる。
屋上のコンクリートが割れ、粉塵が舞い上がった。
「がっ……!」
立ち上がろうとする。
だが、鎖はさらに伸び、今度は両足にも絡みついた。
「この空間は、既に俺の支配下にある」
ヴォルクはゆっくりと歩み寄りながら、無感情に言った。
「お前の力は荒削りすぎる。制御できていない魔素など、鎖一本で十分だ」
「はぁ…はぁ、うるさい……!」
魔素を爆発させるように放出し、鎖を引き千切ろうとする。
だが、鎖は千切れるどころか、さらに締め付けを強めた。
「もがくほど締まる。それが支配者の鎖だ」
ルナは床に押さえつけられたまま、歯を食いしばった。
「なんで……なんでお前は、犯罪者の癖に偉そうなんだ……!」
「偉そう?」
ヴォルクは足を止め、ルナを見下ろした。
「俺はただ、弱者には弱者の立場を教えているだけだ。それは、アルカナも似たようなものだ」
「なんだと……!?」
「お前の両親も弱者だった。力があったのに、それを使わなかった。だから死んで当然だ」
「黙れ……!」
「対話で世界が変わると信じていた愚か者たちだ。その娘も同じ目をしている」
「黙れっ!!」
魔素が爆発的に膨れ上がった。
鎖が軋み、一瞬だけ緩む。
だが、ヴォルクは表情一つ変えず、鎖を再び引き絞り、静かに告げた。
「強者だけが、この世で『正しさ』を作れる。アルカナもそれに気づいた1人だ」
ルナの身体が、屋上の縁ギリギリまで吹き飛ばされる。
後ろを振り返ると、地上に広がる地獄の光景が、目に飛び込んできた。
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地上では、戦闘が続いていた。
しかし、状況は悪化する一方だった。
「くそっ……数が多いし、一体一体が強い!」
アランのロボ『ビュート』が、三体の敵を同時に抑え込もうとしたが、逆に押し返された。
「ミナ!右から来るぞ!」
「分かってる!でも、こっちも限界……!」
皆んなの攻撃も既に限界だ。
「……避難は?」
蓮が歯を食いしばりながら問う。
「半径二ブロックの民間人は誘導完了。でも、それ以上は……」
ナツメの声が途切れた。
「それ以上は……もう助けられない」
蓮は拳を握り締めた。
(くそ……一体、どうすれば……)




