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双面人生  作者: 名のないりんご
第一章 紅き月編
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第19話 紅月の宴 

ここで、魔式(モード)について説明します!

急に出てきてなんだ?と思う方もいるかもしれないのですが、簡単に言えば「能力(スキル)」です。

これから使うキャラがドンドン出てくるので覚えておいてください!

夜の帳が下りた都市部の中心。

煌びやかなネオンが路面を照らし、スクランブル交差点には帰宅途中の人々が行き交っていた。笑い声、靴音、車のエンジン音。いつもと変わらない、夜の喧騒。


誰も気づいていなかった。

高層ビルの屋上から、それを見下ろす影たちがいることに。


「……綺麗な眺めだ」


紅月幹部の1人、ガリアは鉄柵に腕をかけ、眼下の人波を見下ろした。

血走った目に、嗜虐的な光が宿っている。


「ようやくだぜ。ずっと待ってたんだ」


その隣では別の幹部、黒瀬直哉は無言のまま夜空を見上げていた。

表情一つ変えず、ただ静かに時を待っている。

テラーは白衣のポケットに手を入れ、マスクの奥の目を細めた。


15年前と同じ、ワインのような赤黒い月が空に上がる。


「予定通りだ。各自、準備はいいか」


紅月が雲の隙間から姿を現す。


ガリアの腕に、赤黒い魔素が滲み出す。

他の幹部も不気味なオーラを纏い、雰囲気も一気に恐ろしくなる。

紅月の団員たちも同様だった。


テラーの魔式(モード)「闇科学者」による合成で狼族の血液が身体の中で暴れている。

皮膚の下で何かが蠢くように、全員の身体が微かに震えていた。


「さぁ、踊りましょう!」


テラーの一言が、夜に落ちた。


__________


最初に悲鳴が上がったのは、交差点の南側だった。


「な、なんだ……!?」

「化け物っ!!」


ビルの壁面をトカゲのように駆け下りてきた紅月の団員たちが、人波の中へと飛び込む。

強化された身体能力で車を弾き飛ばし、街灯を引き抜き、片っ端から暴れ回った。


交差点は瞬く間にパニックに包まれた。

悲鳴が連鎖し、人々が四方へ逃げ惑う。

車が衝突し、ガラスが砕け散る。


その混乱の中、幹部だけが地上に降りず、ビルの上から見下ろしていた。


__________


「総員、市民の避難誘導を最優先に!」


蓮の声が、無線に響いた。

都市部の交差点から少し離れた大通りで、特殊二課の面々は必死に動いていた。


「こっちです!早く!」


ミナが人々を地下道へと誘導しながら、耳をぴょこぴょこと動かしている。

嗅覚が拾う血と魔素の匂いに、本能的な恐怖が走った。


「蓮!北側からも来てるよ!数が多すぎる!」

「分かった!アラン、ビュートで北側を抑えろ!」

「オッケー、……でも、こいつら普通じゃない!さっきから全然効いてない!」


アランの声に、焦りが滲んでいた。

ビュートの鉄拳が団員を吹き飛ばしても、強化された紅月はゾンビのようにすぐに立ち上がってくる。


「城田のやっさん!」


アランは市民に襲いかかる狼を跳ね除けながら後方の方にも声を向ける。


「分かってる!」


城田も警棒を使い倒して行くが、赤い波のように噛みついてくる。


「ちっ、化け物め……!」


戦闘ではなく、避難。

今の特殊二課にできるのは、それだけだった。


__________


同じ頃、指揮所として設けられたビルの屋上で、メリッサは無線を握り締めていた。

眼下に広がる混乱が、窓越しに見える。


「……くそ」


珍しく、彼女は小さく悪態をついた。

動けない。

零位としての力を使えば、この程度の混乱など数分で収められる。だが、アルカナとの無許可戦闘が既に一度ある。

現在になっても上層部からの許可は、下りなかった。


『現場の状況は理解している。だが、零位の無許可戦闘はこれ以上認められない。待機してくれ』


その言葉が、耳の奥に残っている。

メリッサは窓の外を見つめ、静かに目を細めた。


「……これだから腐れ上層部は…」


誰にも届かない言葉が、車内に消えた。


__________


都市部の中心を見下ろせるほどの高層ビルの屋上。

夜風が吹き抜ける中、ヴォルクは一人立っていた。


「……来たか」


背後から、重い足音が近づいてくる。

振り返ると、そこにはルナが立っていた。

月明かりが、その紅交じりの髪を照らしている。


「逃げようとは思わなかったのか」

「……思った。でも、お前がいる以上、逃げるわけにはいかない」


ルナは爪を立ててヴォルクに向ける。

「お前をここで倒す!」


街が、混乱に包まれていた。

遠くから悲鳴と爆発音が聞こえ、ネオンの灯りが次々と消えていく。


「見ろ」


ヴォルクが静かに言った。


「十五年前も、こうだった。狼族が暴走し、人間が逃げ惑い、街が燃えた」

「……それが、お前たちの目的か。あんな光景をもう一度作り出すことが」

「違う」


ヴォルクは首を振った。

「あの夜、狼族がどれほどの力を持っているか、世界は思い知った。だが、それで何かが変わったか?迫害は続き、差別は残り、狼族は今も隅に追いやられて、社会に出てくることすら許されない」


ルナは黙って聞いていた。


「力を示すだけでは足りない。支配しなければ、何も変わらない」


「……それが、あんたの考えか」


「そうだ」


ヴォルクはゆっくりとルナに向き直り、その目を真っ直ぐに見た。

「お前の両親も、同じことを考えていた時期があった」


ルナの身体が、僅かに固まった。

「……何?」

「リベラ協会。お前の両親が立ち上げた団体だ。私も、かつてはそこにいた」

「……お前が?」

「ああ。当時は警察官でありながら、狼族の解放のために動いていた。お前の両親とも、共に戦った仲だ」


ルナは言葉を失った。

「でも、考え方が違った。お前の両親は対話と平和的な抵抗を選んだ。私は、力による変革が必要だと主張した。そして、意見は割れた」


ヴォルクの声が、低く落ちた。


「十五年前の、あの夜」


ルナの胸が、冷えていく。


「紅い月の夜、私はお前の両親に最後の説得を試みた。力を使うべきだと。しかし、彼らは首を縦に振らなかった」


「……」


「だから、混乱に紛れて、私が撃ち殺した」


静かな告白だった。

感情もなく、言い訳もなく、ただ事実だけが夜風に乗った。

ルナの中で、何かが音を立てて崩れた。


「……お前が」


声が、震えた。


「お前が、殺したのか。お父さんとお母さんを」


手の隙間から見えた笑みが疑問の答えだった。

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