第18話 落ちた月
朝が来ても、ルナは姿を現さなかった。
リヴェルダが医療室を確認し、ネロが拠点内の監視カメラを洗い、ポーカーが外部の情報を当たった。
答えは、一つだった。
「深夜2時5分。正面ではなく非常出口から出てる」
ネロがパソコン端末を操作しながら、珍しく表情を消して言った。
「追跡は?」
「途中まで。多分、追跡は無理」
アルカナは無言のまま、椅子から立ち上がり部屋から出ようとする。
「待て」
声を上げたのは、ポーカーだった。
アルカナは足を止めず、扉へと向かう。
「待てと言っている」
今度は、ポーカーが前に立ちふさがった。
珍しいことだった。普段、真正面からアルカナを止めようとするものはいない。
「……どけ、ポーカー」
「答えはNOだ」
短い返答。
感情を乗せない、ポーカーらしい言い方だった。
「ルナが自分で戻った。それがどういう意味か分かるだろう」
「分かってる。だから行く」
「それは違う」
ポーカーは一歩も引かなかった。
「あの娘は自分の意志で出て行った。私たちは依頼を受けたわけじゃない。ドリーム・メイトは誰でも助ける組織だと思うなら、それは間違いだ」
アルカナはゆっくりとポーカーを見た。
ポーカーの目は、昔の目をしていた。
「……他の皆んなもそうなのか?」
いつもなら軽口で返ってくるはずの声が、今日は静かだった。
「……ごめん、アルカナ。今回はポーカーと同じ意見」
ハーツも壁から離れず、視線を床に落としたまま口を開いた。
「私もです。主君の気持ちは分かります。ですが、ドリーム・メイトには守るべき筋があります」
ジャックが腕を組み、珍しく真剣な顔で頷く。
「俺も反対だ。ボス、落ち着いてくれ」
リヴェルダだけが、申し訳なさそうに目を伏せていた。
「アルカナ様……私は、ルナさんのことが心配です。でも、皆の言う通りだと思います」
全員だった。
アルカナは動かなかった。
コートを握る手に、力が入る。
「……お前たちの言いたいことは分かった」
低く、静かな声だった。
「ドリームメイトは何でも屋じゃない。夢を持てない者のための組織だ。筋を通さなければ、何のために存在するのか分からなくなる。……そうだな」
誰も答えなかった。
アルカナはゆっくりとコートを置いた。
「……あぁ、分かったよ……」
その言葉が、室内に落ちた。
勝ったはずの幹部たちが、誰も安堵した顔をしていなかった。
ネロが小さく唇を噛む。
リヴェルダが静かに目を伏せる。
ポーカーだけが、真っ直ぐアルカナを見つめていた。
アルカナは椅子に腰を下ろし、目を閉じた。
(……ルナ)
窓の外、空の端がわずかに赤く染まり始めていた。




