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47話 ラストバトル

 廃墟に激しく吹き抜ける風。 

 巨大なケンタウロスと相対し見据える巨大な漆黒の獅子バッシュノード。

 そしてその額の上にギターを構えてチョコンと乗っているボク。

 その脇隣に大声で何やらわめいている暁斗とレイラさん。


 「おおおおいッ! アメリア、なにやってんだァァァ! これからバッシュ破壊光線で撃ち合いをするんだろう! 発射元の前に立つヤツがあるかァァァァ!!」


 「そうよ、お姉ちゃんの体でなにしてんのよォ!」


 「大丈夫。星宮獣の攻撃はそのマスターを傷つけない。このルールがあるから、ボクには破壊光線は効かない」


 「そういう問題じゃねぇ!」


 まぁ、暁斗とレイラさんが怒るのもわからる。

 バッシュ破壊光線は効かなくても、相手の攻撃にはさらされる。


 こんな十字砲火のド真ん中のような場所に立つなんて正気じゃない。

 それでもボクは、アイツに直接向き合って、このステージにのぞみたいんだ。


 ボクの、この世界最後の敵。そして、ただ一人の観客。

 裏切りのケンタウロス。人馬宮(サジタリアス)の星宮獣。 


 「こうしてここに立つと、よくわかるよ。アイオライドローア。君はそんな顔をしていたんだね」


 距離にして二百メートルほど離れていて、体のサイズも大きく違う。

 それでも星宮獣同士の意思疎通能力のおかげで、ボクとアイツは言葉をかわせる。


 「フフフ、面白いマスターだ。わかっているのか? 私には、ここから君だけを正確に射貫くことなど、雑作もないのだぞ」


 「ボクは君を楽しませるって決めたんだ。だったら、命くらい懸けなきゃ」


 エンターティナーは客を楽しませるために、あらゆる努力をする。

 誰しもが観客に恋焦がれ、その瞬間のために生きている。


 ある者は、面白い物語を考えるために頭を絞りいくつもの取材と経験を重ね。

 またある者は膨大な練習を積み上げ、己を賭ける場所へとのぞむ。


 客に認められること。それがエンターティナーの存在証明。

 自分の芸にすべてを託し、浮くか沈むかの結末を問う。


 「ま、それでも自分と他人の命まで賭けるのはやりすぎだけど。戦いの中でおかしくなったのかな、ボクは」


 命の懸かった緊張。それでも指はなめらかに弦を弾き始める。

 それに合わせバッシュノードは「グルル」と、うなりを上げる。


 「フ……バッシュノードのマスターよ、名を聞かせろ。オマエに興味がわいた」


 アイオライドローアも、立ち位置を探すようゆっくりと横すべりに動きながら、魔弓を引き絞る。

 矢じりの先をピタリ正中線にボクに合わせながら。

 バッシュノードもそれに合わせてゆっくり体の位置をかえてゆく。それは必殺の兆しを探す本能か。


 「アメリア。覚えてファンになってくれると嬉しいな」


 「もうファンだ。そのイカレ具合、それだけで少し楽しい」


 そんなやりとりで、仲の良い友達になった気分になる。

 一瞬後にどちらかが消える運命だとしても。


 ああ、怖いな。まるでプロのステージに立ったみたいだ。


 いや、違う。


 今ここは、まさにプロのステージ。


 「そしてボクは、今だけは、プロのギタリストだ!!」


 一瞬、激しくかわいた風がボクらの間を吹き抜ける。

 それが開幕の合図。


 ギャアアアアアアアアアアアアンッ


 オープニングにいきなりクライマックスを持ってくるように、激しく弦をかき鳴らす。


 バッシュノードの金のたてがみが、破壊光線の前兆に眩しく輝く。


 アイオライドローアの魔弓も雷をまとい、今まさに放たれんとす!


 刹那――



 「グウウウウウオオオオオオオウッ!!!」


 バッシュノードの咆哮が響いた。


 大気を震わせ大地を揺らし、あらゆるものに畏怖をあたえる百獣の王の雄叫び。


 それはアイオライドローアの意識すらも一瞬うばった。


 驚愕に目を見開き、硬直するアイオライドローア。


 魔弓は放たれず、破壊光線は放たれた!


 カアアアアアアアアアアアアアッ


 ギター演奏で最大限に威力を高めた破壊光線。

 その直撃を受けたアイオライドローアに生き延びるすべはない。


 「やった…………」


 高熱にさらされ、黒いケシズミとなったアイオライドローア。

 それは崩れることなく、その場に立ったまま残っていた。


 「アイオライドローア、ボクたちの勝ち………ハッ!? バッシュ!」


 ビュオオオオウッ


 ケシズミになったはずのアイオライドローアから、矢が飛んできた!

 一瞬早くその兆候に気づいたボクは、わずかに位置をずらすことに成功。


 ズバシュゥッ


 矢はガードしたバッシュノードの前足に深々と突き刺さった。


 「まだ生きていたんですか、アイオライドローア。体の半分は黒焦げなのに」


 「フ……フフ。楽しませてくれる。だが私にも矜持はある。バッシュノード、そしてそのマスターよ。ふたたびの封印の前に、お前たちも連れてゆく」


 「お断りです。この体は借り物だから。レイラさんの元へちゃんと返さないといけないんだ」


 ふたたびギターの弦を弾く。


 「最後の勝負をしよう。その記憶をもってまた封印されてください」


 「よかろう。この勝負こそ、私が勝つ」


 ピタリ付けるやじりの殺意の鋭さは、先ほど以上。


 相手はさっきまでの傲慢も余裕も消え、ただ弓手のプライドひとつでボクを狙っている。


 ああ、死ぬな。


 なんとなく分かる。この矢はかわせない。


 それでも――


 「グルルルルルルルル」


 ボクはギターを弾く。


 ギタリストは、立ち止まらない。ギタリストは、弾き続ける。


 誰かがこの音に楽しさをおぼえ、この姿に希望を託すなら。


 ボクは死ぬ瞬間まで全力だ!



 「グオオオオオオオンッ」

 バシュウウウウウッ


 咆哮と斉射。同時にそれは、交差する。


 結果は――


 矢は深々とバッシュノードの首筋に突き刺さった。


 されど、完全破壊にはほど遠い。


 相手がボクを確実に狙ってくるのを逆利用して、ほんの少し位置をズラしたのだ。


 「フ………これで終わりか。ああ、悔しいな……これほどのパワーをもってしても、バッシュノードを超えられないとは………」


 ピシリ………


 アイオライドローアの体に亀裂が走る。

 バッシュ破壊光線でもろくなっていたヤツの体は、咆哮の振動によって完全に崩されたのだ。


 「だが………楽しかった。長い永遠の中で………一番…………」


 「ありがとう、アイオライドローア。アンコールだ。これで君を送るよ」


 またふたたび弦を弾く。


 今度は優しく、軽いメロディーのように。


 「ウオオオオオオオオオッ」


 それに合わせ、バッシュは吼える。遠吠えのように。


 アイオライドローアはその声に合わせ、

 静かに、まるで砂の彫像のように崩れていった。


 


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