46話 アメリア帰還
うわあああっ、大きなケンタウロスが走り回っている!
戻っていきなりバトルとか急すぎる。
どうやらアレがゾディファナーザが言っていた星宮石の楔を解き放った危険な星宮獣。人馬宮のアイオライドローアとか言うやつか。
レイラさんがボクを不思議なものを見るような目をしながら聞いてくる。
「アメリア……なの?」
「ええ、そうですよ。…………あれ? ボク、泣いている?」
なんとなく頬が濡れているな、と思ったら涙だった。
いったいボクが来る前に何があったんだ。
「さっきまで、あなたはお姉ちゃんだったのよ。マリーベルお姉ちゃん。せっかく夏音さんと再会したのに、彼はさっき亡くなったわ。それでお姉ちゃんは……」
「メフィストは逝ったんですか……そうですか」
「ミランダもだ」
ああ、暁斗もいた。しかしミランダまで死んだって?
「つまり、人馬宮のアイオライドローアはブラック・ゾディアックから離反したということですか。でも、それで味方になったわけじゃないんですよね?」
「ブラゾは、レイラさんの親父さんが時間逆行をして終わろうとしていた。それに待ったをかけたのがブラゾ幹部のロイドという奴だ。しかも自分の星宮獣と一体化している」
「なるほど………しかしメフィストとミランダは死んだんですか。なぜか少しだけ悲しいです」
「俺もだ。ちょいと複雑だが、アイツらのかたき討ちをしたい気分だ」
「そうですね。少しだけこの戦いに、アイツらへの弔いの想いを乗せますか」
「そうだな。で、アメリア。それでお前はどうして――」
何か言いかけた暁斗。
しかし、その言葉は地響きにかき消された。
ボクを、いやバッシュノードを待っていた奴はもう一人いたのだ。
ドドドドドドドドドドドドドド
――「バッシュノードォ、待ちかねたぞぉ! いざ、尋常に戦い合おうではないか!」
うわあ、すっごく熱烈歓迎なファンがラブコールしながら来ちゃったよ。
ならばこちらもファンサで返そうか。
「バッシュノード、行け!」
バッシュノードの最強タックルで迎撃だ!!
ドガアアアアアッ
激突する巨大獅子と巨大ケンタウロス。突進と突進。
結果は――
「なにイイイイッ!?」
なんと、バッシュノードの方が吹き飛ばされた!
バカな! バッシュノードにパワーで勝る星宮獣は金牛宮のロムゾールだけのはず! それを相手にしてさえも、一方的に押し負けるなんて、なかったのに!
「フン……軽い。バッシュノードですらこの程度か。どうやら私は強くなりすぎたようだな」
しかもアイオライドローアは、衝突にもまったくダメージを負っていない!
いったいこれは!?
「いいいいいったい、なんなんです、アレは! どうして、あそこまで規格外なパワーを!?」
「ヤツはメリサストローアが溜め込んだ五体分の星宮獣のパワーを喰らったんだ。そのせいで、メフィストのセバイラヴィッシュもミランダのギルスレインもやられちまった。とんでもなく強いぞ」
「そういうことですか。となると、戦い方を考えなければなりませんね。バッシュ、着地と同時に構えを。追撃はぜったいに避けて」
アイオライドローアはもともとスピードファイター。
それがバッシュノードをはるかに上回るパワーまで身に着けたとなると難しい。
とにかく追撃で押し込まれることだけは、絶対に避けないと。
「…………あれ?」
だがしかし、予想していた追撃は来なかった。
なぜかどういう訳か、アイオライドローアは向かってこない。
ぶつかり合って通り過ぎたその先に、とどまったままだ。
「バッシュノード、そしてそのマスターよ。ひとつ提案がある」
提案だって?
なんなんだ、この星宮獣は。
「私と貴様の勝負、距離を放しての撃ちあいで死合ってみないか? すなわちバッシュ破壊光線と我の魔弓雷迅射。さながら西部劇の決闘のようにな」
なんとも意外なことを提案された。
バッシュノードの最強光線を、あえて撃たせるだって?
「いいんですか? このままパワーとスピードで押し切った方が、そちらの有利と思いますが」
「パワー勝負は格付けがすんだ。別の興を楽しみたいのだ。それにバッシュ破壊光線の威力、この体で受けたくてな」
「イカれていますね」
「クク……戦いと呼べるようなものは、これで最後だろうからな。この先は蹂躙だけであろう」
なんとも最悪な未来予想を立てているようで、世界にはお悔やみ申し上げます。
こっち世界の住人の暁斗とレイラさんにとっては冗談じゃない、いや冗談であってほしいだろうなぁ。
「糞、アイツ、あちこちを踏み潰して回る気か。とんでもない奴だ!」
「すっかり戦いを楽しんでいるわね。ここで倒せないと、世界はとんでもないバケモノにメチャクチャにされるわ」
楽しむ?
そうか。もしかして星宮獣ってのは、長い封印の中で、みんな楽しさに飢えているのかもしれない。
ならばボクも、そのつもりでやろう。
封印から解放されているこのひと時、今までの百倍は楽しませてやる。
「いいよ、やろうか」
少しだけ楽しい。
やっぱり殺し合いなんかより、相手を楽しませる方がボクの本分だ。
「アメリア………大丈夫なのか? アイツ、遊んでいるつもりだぜ」
そうだね。だかこっちも遊びでつき合うつもりだよ。
「その体、お姉ちゃんのなんだから傷つけないでよ」
うーん、それはちょっと約束できないかなぁ。
傷どころか、最悪返却できなくなる場合もあると思うし。
レイラさんとお姉さんには悪いけど、ボクにはボクのやり方でやるしかないんだよ。
「暁斗さん。ボクが弾いたギター、まだあります?」
「ああ、いちおう回収してある。使うのか?」
「ええ。シュラハサとの戦いで、ギターを使った操作が良いことを知りましたから」
暁斗さんにギターを取ってきてもらい受け取ると、それを「ギャギャン」と弦を軽くつまびく。
するとそれに合わせてバッシュは「グルル」と低い唸り声を上げる。
よし、同調は良い感じ。バッシュ破壊光線をボクのタイミングで発射できる。
さてとアイオライドローアを見ると、待ちかねているようにボクらを見ていた。
「準備は出来たか? ならば………」
「いいえ、まだです。ボクのステージはここじゃない」
ボクは「スタスタ」とバッシュノードの元へ歩いていく。
バッシュノードに頭を下げさせると、その上に「チョコン」と乗る。
頭を上げさせ構えをとらせると、ケンタウロスの巨獣を一望できる良い眺め。
「さぁ、準備が出来ました。やりましょうか」
暁斗もレイラさんも、そしてアイオライドローアでさえも、『信じられない』というようにボクを見ていた。




