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45話  斃れゆくマスターたち【暁斗視点】

 アメリアは、ゆっくり背を起こした。

 まだ周囲の様子がよくわかっていないのか、当たりをキョロキョロ見回す。 

 そしてレイラさんを見て視線が止まる。

 

 「アメリア、起きたの?」


 「アメリア? なにを行っているの、レイラ。私はマリーベルよ」


 え?


 「お姉ちゃん…………なの?」


 「そうよ。どうやら戻ってこられたみたい」


 花のように笑う彼女。姿は同じでもアメリアはあんな表情はしない。

 そうか……彼女の体にマリーベルさんが戻ってきたということは。

 本当にアメリアは行っちまったんだな。


 「マリベル………お帰り」


 俺の後ろにいたメフィストが優しい顔で彼女に言う。


 「夏音さん。ええ、ありがとう」


 そういや、この二人は婚約した恋人同士だったか。

 しかし一方がアメリアの顔をしてるんで、複雑な気分だ。

 

 「マリベル。帰ってきていきなりだが、この車を運転してどこか遠くへ避難しててくれ。私たちは今からアレと戦わなければならない」


 「え?」


 「お姉ちゃん、お願い。できるなら、もっとゆっくり再会を楽しみたかったけど」


 俺たちは最後の強敵と戦わなきゃならない。

 彼女のいる車に背を向け、アイオライドローアとギルスレインの戦っている場所へと向かう。


 「うっ、ヤバイ! ギルスレインが!」


 あらためてギルスレインの姿を見るとひどい有り様だ。

 尾を引きちぎられ、腕をもがれ、満身創痍だ。


 「ミランダ、加勢します。いったんさがって」


 「ハァハァ、おそい……やないか。ウチ一人にこないな、しんどい相手を押し付けてからに」


 バッキャアアアアッ


 だが、距離をとろうとしたギルスレインの首は、一瞬にしてアイオライドローアに掴まれてしまった。しかも軽々と片腕で持ち上げる!


 ――「ククク、ようやくこのパワーに慣れてきた。慣らし運動はそろそろ良かろう。ミランダ、さらばだ」


 ”慣らし運動”だと!? アイツ、ギルスレインとの戦いは、ただの準備運動だったのか?


 「……はっ、次の世界で会おうやないか。ぜったい借りは返したる!」


 「なんだ、知らんのか? 星宮獣マスターが死んだ場合、時間逆行をしようと存在することは出来ない。最初から居ないことになる」


 「な、なんやて!?」


 「まぁ安心しろ。私は誰にも負けるつもりはない。ゆえに時間逆行はおこらず、君の運命は変わらない。ミランダ、弟に逢えるといいな」


 「くっそおおおおおッ、うあああああああッ!!」


 アイオライドローアは易々とギルスレインの体を引き裂き、それとともにミランダは絶命した。

 そしてアイオライドローアはあざ笑うように俺たちを見下ろす。召喚まで待ってくれるということか。

 レイラさん、そしてメフィストは意を決して星宮石を取り出す。


 「星宮より来たれ、双貌の兄弟現身(うつしみ)の半身よ。おお、なぜにそなたは我と瓜二つなりや。同日同刻、同じ腹に二つの命は宿り、もう一人の自分共に生誕す。血縁の呪い、野心の反映、ゆえにいがみ合う。我が内の醜悪なる本性すらその身に宿すなら、喰らい合うは必定の運命(さだめ)なり。セバイラヴィッシュ!」


 メフィストの星宮獣。アイツに瓜二つの姿をしたセバイラヴィッシュを、強化薬を使って四十メートル級にして顕現。

 レイラさんもベーネダリアを顕現させ、聖なる調べ(サンタリカ)を使い俺たちの星宮獣を強化する。

 俺のソーサーと合わせ、これが俺らの全戦闘力。これで通用しなければ、どうしようもない。


 「ククク、来たなカノン。その様子ではバッシュノードの召喚は不可能のようだな。残念だ。この力、ヤツを相手に存分に試してみたかったがな」


 「ロイド。あなたはそんな好戦的な性格ではなかったでしょう。どうやら精神をアイオライドローアに吞み込まれてしまったようですね。いや、そうなる事も想定で、アイオライドローアにそそのかされたのか」


 「ククク、そうかもな。だが、そうであっても一向にかまわん。戦いと蹂躙。それが今の快感だ!!」


 野郎、本当に心を乗っ取られてやがる。元が医療研究者なんて信じられねぇ。

 メフィストは奴の突進をいなしながら縦横無尽に攻撃。

 俺のソーサーもその間の隙を縫うようにヤツに切りつける。

 間断なく攻撃し続け、わずかだが俺たちが押していく。


 「ハーハッハ、やるなカノン! 聖なる調べ(サンタリカ)の加護があるとはいえ、この超攻撃的な戦闘スタイル。少し見くびっていたぞ」


 「フッ、あなたに教えて差し上げます。人を愛することが、いかに強くなるかを!」


 「教えてもらおう。そろそろフルパワーを試してみたくなった。わが走破蹂躙を受けよ!」


 「なにっ、フルパワーだと!?」


 こちらは全力全開で、やっとこのバランスだってのに!


 ドカッドガガガガガガガガッ

 アイオライドローアの地面を駆けるスピードが上がった!

 セバイラヴィッシュも俺のソーサーも追いつけない!


 「糞ッ速い! まるで列車と戦ってるみたいだ。うわあああっ!」


 それは俺たちを中心に円を描くよう、追い詰めるように駆け回る。

 近くを駆けるだけで体が引きちぎられそうな、ものすごい突進!


 「チイッ、地上では不利。ならば空中から!」


 メフィストはセバイラヴィッシュに乗って空中に退避。そこから反撃をしようと試みるも。

 

 「甘いわ! 空に逃げれば、わが魔弓天射のえじきよ!」


 ガガガガガガガッ


 「ぐわあああっ!」


 魔弓の連続射! セバイラヴィッシュたちまち幾本もの矢に貫かれて「ドサリ」と地に堕ちる。完全破壊寸前だ。

 アイオライドローアは破壊寸前のセバイラヴィッシュを見下ろすように立つ。


 「『愛の力』とやらに、少しは面白い戦いを期待していたのだがな。ただ気を大きく持たせるだけの戯言にすぎなかったか」


 「フ……どうやら私も、重ねてきた罪の清算をすべき時が来ましたか」


 糞ッ、メフィストもミランダと同じように!


 「もうやめろ! 勝負はついた!」


 「寝ぼけるな! 星宮獣同士の『勝負をつける』とは、我相手のどちらかの破壊以外にない。貴様のプラーナキアもすぐに破壊してくれるから待っていろ!」


 アイオライドローアは両前足を大きく振り上げ、後ろ足のみで立ち上がり、セバイラヴィシュを踏み潰さんとする。その時――


 ――「夏音さーーん!!」


 処刑の瞬間のさなか、アメリアの、いやマリーベルさんの悲痛な叫びが響いた。

 そちらを見ると、いつの間にかマリーベルさんは車から出てきている。

 こちらを悲しく見ている!


 「お姉ちゃん!」


 「くっ、見るな! やめろぉアイオライドローア!!」


 彼女にメフィストの、いや相良夏音の終わりを見せたくない。

 だけども――


 

 グシャアアアアアアッ


 アイツに、一人の男を愛し叫ぶ女を慮る心なんて、あるはずがない。

 無慈悲に相良夏音の姿をしたセバラヴィッシュを踏み潰し、完全破壊で消滅させた。

 後に残るのは、そのマスターであった相良夏音の亡き骸だけ。


 「いッ………いやあああああああああああッ!!」


 マリーベルさんの絶叫が響き渡る。


 「お姉ちゃん、ごめんなさい。私がいながら……!」


 「最後まで………役立たずだな、俺は。それでも」


 それでもレイラさんだけは守ってみせる。

 アイツと戦って戦って、一秒でも長く生きて、時間を稼ぐ。

 その間にレイラさんとマリーベルさんを………



 ――「星宮より来たれ。猛威の権能、百獣震わす暴虐の獣王」


 え?

 

 ――「金のたてがみ靡かせ、咆哮轟かし」


 振り返ると、さっき泣き崩れていたはずのマリーベルさんが立ち上がっている。

 そして、よくよく聞いた詠唱を唱えている!


 ――「呼べよ嵐、震わせ大地。天地鳴動、驚天動地」


 まさか――


 ――「獅子のほむらを掲げよ、」


 まさかあれは、マリーベルさんじゃなく!?


 ――「バッシュノードォ!!!」


 ゴオォォォォォン


 雷鳴のような音とともに現れたそれ。まさに大地を震わす圧倒的存在感。

 漆黒の巨体と黄金のたてがみを持つ獅子の星宮獣。

 バッシュノード! ここに顕現した。


 そしてその脇に立つ彼女は、さっきまでの弱さは微塵も感じさせない。

 力強く立つその姿は、俺のよく知る彼女そのものであった。

 

 よし、これで十二宮ぜんぶの詠唱は出せたかな。

 …………あ、白羊宮(アリエス)だけ出してねーや。

 序盤に殺しちゃったんで、全員の詠唱を出そうと思いつく前だったんだよね。

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