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死神と呼ばれた少年は光を求める  作者: 夕凪砂々
第一章 目覚める死神
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奴隷の身へ

 黒いローブの人物の口から語られた真実は、周の想像を遥かに超えるものだった。

 まさか勇者の召喚から始まった一連の出来事がすべて仕組まれていたとは。


 自分か青柳のどちらかを殺し、異能覚醒の引き金にする。そして覚醒した異能によって敵を一掃し、勇者の存在を世界に知らしめるという筋書きだったのだろう。


「なんだよ…それ…俺達は殺されるために召喚されたってのか⁉︎」

「それは少し違いますね。召喚されたのが一人だけならまた別のプランになっていたでしょう。ですが二人も召喚されたのは好都合でした。このようなイレギュラー、利用しない手はありません」


 最初から掌の上で踊らされていたことに沸々と怒りが込み上げてくる。


「まあ殺し損ねたのは計算外でしたが、何も問題ありません。ここで殺してもいいですが、せっかく生き残ったのです。さらなる絶望を与えるのも面白い」


 周の中のドス黒い魔力が膨れ上がり、怒りの感情に呼応して無数の黒い腕を生み出し、ローブの人物を壁に叩きつける。


「いいですねぇ。実に心地良い殺気だ。そして、その生意気な顔が絶望に歪むのを見るのは実に最高です」

「黙れ。それ以上喋るなら殺すぞ」


 周は黒い腕でローブの人物の腕と足を壁に固定し、顔面をぶん殴る。


「貴方では私を殺すことなどできませんよ。その程度の力ではとても――」


 言い終わらぬうちに、無数の黒い腕で全身を殴りつける。最後は黒い腕を束ねてひとつの巨大な腕を生み出し、壁をぶち破るほどのパンチをくらわせた。


 しかしこれだけの攻撃をくらっても尚、ローブの人物はピンピンしていた。


「おい、何の音だ⁉︎」


 壁をぶち破った音に気づいた男達が部屋に入ってくる。同時に、異様な雰囲気を纏う周を見た男達はそのドス黒い魔力に慄いた。


 臓腑が冷えるなんてレベルじゃない。自らの死をイメージするほどの恐怖を感じ取った。自分達の理解を超えるそ(・)れ(・)はこちらには目もくれず、ただ目の前の標的を見据えている。


「今のはそれなりに効きましたよ。ですがまだまだ」


 周は巨大な腕を無数の腕に分解し、一斉にパンチを放つ。


「鈍化(スローモーション)」


 しかし急にパンチのスピードが遅くなり、ローブの人物は余裕の表情で躱し、懐へと潜り込む。


「煌炎爆弾(フレアボム)」


 攻撃をまともにくらった周はなぜかゆっくりと吹っ飛んだ…かと思いきやいきなり勢いよく吹っ飛んで壁にぶち当たった。


「今だ!」


 周は男達に取り押さえられ、身動きがとれなくなる。必死に手足をジタバタさせるが、十代前半の少年と屈強な男達では力の差は歴然。


「さて、これ以上妙なことをされる前にさっさと終わらせてしまいましょう」

「…何をする気だ」

「貴方を奴隷にします」

「なっ……」


 奴隷になるとはつまり、あの少女のように人間以下の扱いを受けるということ。

 飼い主の機嫌ひとつで生死を左右されるような、そんな理不尽な生を歩むなんて、とても受け入れられることじゃない。


「ぬぐぐぐぐ……」


 身体強化を使って振り解こうとするが、身体に上手く力が入らない。どうやらまだ体力が回復しきってないらしい。


「無駄な抵抗はやめることです。貴方が奴隷になるのは決定事項なのですから」


 ローブの人物は周の首筋に手を当てる。


「其は汝を縛るものなり。其は汝を支配するものなり。汝は呪いのままに奴僕に身を窶し、逆らう時は命をもって償えよ」


 そう呟くと周の首筋に呪印が浮かび、全身を締め付けられるような痛みに襲われる。

 同時に自分の記憶が少しずつ消えていき、自分が何者なのかわからなくなっていく。


(青柳って……誰だ……?)


 この世界に召喚されてから常に行動を共にしていた彼女のことも忘れてしまう。


(俺は……誰だ……?)


 自分の名前さえも忘却の彼方へと追いやられ、なぜ自分が奴隷になったのか、自分が今までどこで何をしていたのか、すべてが白く塗り潰されていった。




 光井周という人間は、今この瞬間をもって名もなき奴隷となった。




 ◇  ◇  ◇  ◇




「入れ!」


 勇者だったはずの少年は奴隷達が収容されている部屋へと押し込められた。

 そこにはオッドアイの少女もいた。


 捕まっている奴隷は自分と同じ年代か少し上くらいの人間ばかりだった。

 より正確に言えば普通の人間ではないのもいる。その奴隷は頭からネコの耳が生えており、室内が薄暗くて見えづらいが尻尾も生えている。


 全員が死んだ魚のような目をしており、誰も何も話さずただ俯いて黙ったままだ。

 沈黙が支配するこの空間で居た堪れなくなった少年は少女の隣に座る。


「キミは、あの時の……」

「覚えてくれてたのか」


 自分が何者なのかも、大切な人の顔ももう思い出せないけど、何故か彼女のことは覚えていた。


「キミも、奴隷になったんだね……」

「ああ……」


 これから自分達がどうなるのか。

 主に逆らうことも逃げることもできない以上、ここから脱出する術はない。

 かといって、一生飼い殺しにされるのもごめんだ。


 どうすれば奴隷の身から抜け出せるのか、現状では何も浮かばない。

 自由の身になれば胸に空いた穴が埋まるかもしれないが、仮定の話をいくらしたところで何も変わらない。


 今はただ、チャンスを伺うしかない。


「……キミは、自由になりたいって思うの?」

「どうしたんだ? 急に」

「キミの目はまだ、諦めてないから」

「――そうだな。どうにかしてここを出たいって思うけど、どうすればいいかわかんねぇ」

「そうなんだ。……キミは強いね」

「強い?」

「だって、キミはまだ自由になれるって思ってる。わたしはもう、諦めちゃった」


 どことなく沈んだ声でそう呟く彼女はずっと奴隷として生きてきたのだろう。

 どれだけ希望を抱いてもそれが淡いものだとわかってしまい、いつしか救いを望まなくなった。


 それが自分の運命だと言い聞かせて。


 主の機嫌を損ねなければ危害を加えられることはない。感情を殺し、ただ淡々と日々の雑務を熟していく。

 そんな変わり映えしない生活を一生続けていくことに何の疑問も持たなかった。


 自分にとってはそれが当たり前だったから。今更違う生き方をしろと言われても、そんなことを考える余裕なんてなかったし、想像もできない。


 周りの奴隷達も皆一様に感情のない顔をしている。彼等はいったいいつから奴隷として過ごしているのだろう。

 理不尽を理不尽と思うことも許されず、ただ命令されるままに生きる。

 それがどれほどの苦痛か、彼には想像もつかない。


「本当にあいつらを倒すことはできないのか?」

「反抗しようとするだけでも呪印の効果が発動するから、無理だと思うよ」

「――だったら、それより速くぶっ倒すまでだ」


 そう言うと少年は身体強化を施し、扉を蹴り飛ばす。


 しかし駆けつけた男達に攻撃を加えようとした瞬間、全身を締め付けられるような痛みが襲う。


「ぐっ…ああああああ‼︎」


 それでも気力で痛みに耐え、拳を繰り出そうとするがさらに痛みが増したことで動きが止まり、その隙を見逃さなかった男達によって痣ができるほどの暴行を受けた。


「……だから言ったのに」


 ボロボロになった少年に少女は冷ややかな視線を向ける。

 こうやって逆らったり、機嫌を損ねて死んだ奴隷を何人も見てきた。何もしなければ生きられるのに、なぜ死に急ぐような真似をするのか。彼女には理解できなかった。


 それから一週間、ほぼ毎日少年は男達に挑み、その都度半殺しにされた。

 懲りずに反抗する少年に他の奴隷達は呆れ果てた顔で我関せずを貫き、次第に誰も彼と話さなくなっていった。


 ただ一人を除いて。


「…またずいぶん酷くやられたわね」


 オッドアイの少女は少年の手当てをしながら額の汗を拭う。

 いつもこの時期は比較的過ごしやすいのだが、今日はなんだか少し暑い。


 この部屋は窓がないので換気ができない。故に熱がこもって余計に暑く感じる。


 そんな時、勢いよく扉が開いた。


「全員出ろ。出荷だ」


 出荷という単語を聞いた途端、奴隷達の表情が一斉に曇った。

 手当てをしていた少女だけは顔色ひとつ変えずに男達に従い、少年もそれについていく。


 これから自分達は誰かに買われる。

 他人の所有物として扱われ、生かすも殺すも主人の気分次第の何の権利もない存在へと成り下がるのだ。


 そんなこと到底受け入れられない話だが、奴隷に堕ちた以上選択肢などない。

 このまま誰にも知られることなく朽ち果てていくなんて、あまりにも惨めだ。


(どうすれば抜け出せる…考えろ…考えるんだ…)


 奴隷の身から抜け出す算段を考えながら、少年は荷車に乗り込む。

 もしも人間に戻れるチャンスがあるのなら、その時は彼女と一緒に逃げられたらいい。


 でも、その後は別れたほうがいい。

 いつこの力が暴走して、彼女に危害を加えるかわからないから。




 ◇  ◇  ◇  ◇




 時を同じくしてアルディアス王国では、現在勇者を迎える盛大な催しが開かれていた。


「あれが勇者様か」

「結構可愛いな」

「いやいや、キサラギさんが一番だろ」

「殿下ー! こっち向いてー!」


 パレードが行われている大通りでは、初任務を終えた勇者、ツバサ・アオヤギを一目見ようと沿道に詰めかけた人々でごった返していた。

 中には勇者ではなく初花やリチャード目当ての人間もいるが、周囲の歓声が耳に入らないほど青柳の心は曇天のようにどんよりとしている。


 それでも周囲を不安にさせまいと笑顔で手を振り、大通りを進んでいくが、本当なら隣にいるはずだった彼のことを思い出すと胸の奥がズキズキと痛む。


(こんなはずじゃなかったのに……)


 あの後、必死で彼を探した。

 時間も人手も限られていたが、それでも生きているはずだと自分に言い聞かせ、悪い予感を何度も振り払う。 

 立ち止まってしまえば、心が折れてしまう気がしたから。


 だが、数日に渡る捜索も空しく、打ち切られることとなった。

 彼の生死は依然として不明のままだ。


(光井くん…生きてるよね…?)


 彼が本当に生きているなら、一度だけでも会いたい。だが会ってどうするというのか。また突き放されてしまうだけではないのか。

 ただ心配だと伝えても、彼の心にはきっと届かない。


(私じゃ、ダメなのかな……)


 彼の心に巣食う闇は自分が思っている以上に深いのかもしれない。

 今の自分では彼の心を暗闇から引っ張り上げることはできない。こんなか細い光ではとても希望にはなれはしない。


 願わくば、彼が自らの心を照らしてくれる誰かに出会えるように。


(私は……私の光はまだ弱い。でもいつか……)


 もしも再び会うことがあって、彼が未だに闇に囚われていたなら、その時こそ祓ってあげよう。


 二度と拒むことができないくらい、眩しい光で。

この世界における奴隷は千と○尋の従業員達をイメージしました。自分の本当の名前を忘れるところは同じですが、名前の一部を残される向こうとは違ってこちらは名前を失います。

なので奴隷には固有名詞を使いません。ただモブとは違ってオッドアイの少女はちゃんと名前を考えてあるのでもう少ししたら名前を出せると思います。

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