表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/168

第五十七話 真を告げる彼女の願い。

 トリストロイに接近しようとした瞬間、俺は地面に打ちつけられた。


 攻撃をされたわけではない、体が自由を失って自ら倒れてしまったんだ。


 何が起きたのか。全身に引き裂かれるかのような痛みが走り、どこが痛いのかもわからないまま、呼吸すらままならずにもだえ苦しむ。



「がっ、はっ……あぐっ、ぎっ……!」


「ニオさま!? これは……いけない……!」



 すぐにアエカが駆け寄ってくるも、視界はぼやけ、深海に沈んでしまったかのように苦しいばかりで、彼女の心配しているだろう顔すら見えない。



「ニオさま!? 何が!?」


「ニオ姫さま!? どうなされた!?」


「な、なんでぇっ!? すぐに≪光癒(lux)≫を!」


「皆さんはトリストロイを押さえて! ニオさまには近づかせないで!」


「くっ……。ん、わかった……!」


「し、然り! 追撃をさせるわけにはいかぬ!」


「る、≪光癒(lux)≫は……?」


「ニオさまは、傷を負ったわけではありませんから……。ツキウミさんも、ベルクさんとイースラさんの支援に、ここは任せてください」


「は、はいぃ……」



 ベルクとツキウミとイースラはトリストロイと対峙し続ける。


 決定力に欠けたまま、俺に近づけまいと自らを盾となし、すでに再生している触手だろうと背に跳びつき根本を押さえ――。




 痛い――。




 魂が引き裂かれるかのように、痛い――。




 痛みだけで体が形づくられているかのように、ただ痛い――。




 痛みのなか、それでも俺は考えることをやめない――。




 もしかしたら、これが“死”の痛みなのか――。





 俺は、ここで――再び――。





「どうして……Psycheが剥離しかけている……」



 アエカは俺の胸に手を当て、よく聞き取れない単語を口にした。


 彼女の顔を見上げるも、ぼやけた視界ではやはりその表情は見えない。


 最初に倒れた時も、抱きかかえられて同じ状況だったのだろうか……。


 あの時のことは覚えていないけど、その再現がこのタイミングで行われているのだとするなら、運命とやらはなんて意地が悪い……。


 おそらく、二度目はない……。


 死にたくない……まだ、死にたくない……。



「あぅ、あぅえ……」


「ニオさま、大丈夫です……。すぐに整えますから、二度とこんなことにならないよう強固に結びつけ、もう苦しまなくても済むように……」


「ぐぅ……ううぅ……」


「負けないで……。運命の強制力からは私が守ります……」



 アエカはそう告げると、手のひらから黄金色の光を放った。


 金光は帯となり俺の全身を包み込み、途端に痛みも和らいでいく。


 心が安らぐあたたかな光……彼女の慈愛が込められた、そんな光……。



「あなたを“―――”としてしまう私を、許してくれますか……?」



 視界を取り戻すとともに、アエカのやさしく微笑んだ表情が見えた。


 最後に彼女がなぜ許しを願ったのか、何を言ったのかは、わからない。



「アエ……カ……」


「まだ動かないでください……。ツキウミさん、いまなら治癒が可能です! ニオさまに≪光癒(lux)≫をかけてもらえますか!」


「はっ、はいぃっ! すぐにぃっ!」



 ツキウミが駆け寄ってくる。


 結局、アエカが何をしたのかはわからないけど、少なくとも痛みは消え、まだ体は動かせないものの、感じた“死”の気配もどこかへと消えていた。


 いったいなんだったのか、いまはまず戦線に復帰しなければならない。


 アエカの隠し事(・・・)に触れるのは、事が終わったあと……。



「星霊樹より紡ぎし理の糸、聖錬、拝礼、万霊心癒、邪気神滅、ウル アイハディ レ ルクステラ ヴィ ナーダ、癒しの秘蹟をもって彼の者を癒せぇ、≪光癒(lux)≫!」



 そうして、ツキウミが星霊樹より力を借り受ける“星唱”を唱えると、杖からはやはり金色の光が放たれた。


 ただ、アエカのものとは違う、傷を治すだけの属性スキル(回復魔法)の光。


 俺の状態は傷を負ったわけではないけど、いまだ喋れないほどに体力を消耗したらしく、実際に冷たくなった体に熱が戻ってくるのを感じる。


 本当に何が起こったのか……見当もつかない……。



「ぐはっ!?」


「ベルク!? あっ……」



 まだ治癒を受けている最中、視界の端に吹き飛ばされたベルクが見えた。


 柱を倒壊させるほどの勢いで転がり、その先にいたイースラも巻き込みながら、外周の壁に激突してようやく止まる。



「ぐぅ……がはっ……! な、なんのこれ……しき……」



 ベルクはよろめきながらすぐに体を起こしたものの、傍らに倒れたイースラは床に伏せたままピクリともしない。



【ゲヘェッ、エヘッ、じゃ邪魔スるのがイケ、ケ、いけナイ! オデとぉ、いとトしの女ぁっ、ソ、添い遂げルゥ、サダメェッ、エヘッ!】



 トリストロイは歪に笑い、急激に呂律が回るようにもなっている。


 語彙も増え、その体もさらに引き締まって人に近づいているようだから、この瞬間もニトグアの影響を受け進化しているんだ。



「ぐっ……治癒は、もういい……。余でなく、ベルクとイースラに……」


「ニオさま、無理をなさらないでください! あなたの受けたダメージは……」


「体でなく、魂に……とでも言うのか……?」


「……っ!!」


「どうしようとも、うっ、ぐっ……トリストロイが執着するのは、余だ……」



 俺は抱えられたアエカの腕を離れ、ゆっくりと体を起こしていく。


 体はまだ上手く動かないけど、悠長に休んでいるわけにもいかない。



「ニ、ニオさまぁ……」


「ツキウミ、行け……! 奴は、余が引きつける……!」


「う、うあぁああぁぁぁぁっ!」



 ツキウミは泣きながら俺のもとを離れていく。

 庭園の外周を沿い、トリストロイからも遠く離れて。



「くっ、クソッ……! 体……動け……! 動けぇっ……!」


「ニオさまはこのまま、私が時間を稼ぎます……!」



 まだ立ち上がれない俺の前に立ち塞がったのは、当然アエカだ。


 小銃を構え、だけどベルクと違って攻撃を受ければ大ダメージを受けてしまうことは確実。彼女はあくまでもアタッカーで守ることには秀でていない。


 阻む者を排除し、ゆっくりとこちらへと歩み寄ってくるトリストロイ。



【いヒィッ! いイッ、愛しのおまエッ、お、オデとまぐワえぇぇぇぇっ!!】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ