08
お昼を少し過ぎると、待っていた三人の来客がやって来た。来客は女性が一人、男性が二人だった。
リーシャと共に出迎えた芽衣は、とてもソワソワしていた。
「今日はわざわざ来てもらってすまないね」
その言葉を聞いて、まるで娘の友達が遊びに来たのでわざわざ挨拶をしに出向いた父のようだと芽衣は思った。
「いいえ。こちらこそお邪魔してよろしかったんですか?」
女性が訊ねるとリーシャは頷いた。
「事情が事情だからね。それにあまり人の多いところでは話せないことも多いだろうし…」
異世界からやって来た芽衣たちを気遣い、リーシャは交流の場に自分の屋敷を提供してくれた。
昨日案内された応接室へ入り、暫らくするとメイドたちが軽食と紅茶を用意してくれた。
「それじゃ僕は仕事があるから。ごゆっくり」
そう云い残してリーシャは去って行った。リーシャがいなくなると、部屋の中はシンッと静まり返り、全員が何を話そうかと考えているようだった。
目の前の紅茶を一口飲んで、気持ちを落ち着つかせたらしい女性が口を開いた。
「まずは自己紹介ね。私は桐山美月。22歳。こっちには2年前に来たの。今は冒険者ギルドの受付で仕事してるわ」
美月が話し始めると、それに続くように男性も口を開いた。
「僕は里村航太。20歳。こっちに来てもうすぐ1年。まだ料理人見習いで、大通りの食堂で働いているんだ」
「俺は坂下優真17歳。半年前自転車に乗ってたから自転車ごとこっちに。それを活かして配達員をしてる」
「小日向芽衣です。19歳です。よろしくお願いします」
それぞれ自己紹介を終えると、早速美月が話しかけてきた。
「ねぇ昨日来たんでしょ? 分からないことがあったら何でも聞いてね」
「ありがとうございます」
同じ女性だからか、それとも同じ日本人だからか、芽衣はホッと安心する。
「それにしてもいきなり異世界とか、それも自分が対象だなんて本当にビックリするよね」
「僕もマンガとかゲームの世界だと思ってたから余計にね」
美月の言葉に航太も苦笑している。
「あの、スマホって使えるんですか?」
芽衣が思い切って質問すると、全員が頷いた。
「使えるって云えば使える。ただ、スキルとアラームとカレンダーとメモ帳それにカメラとアルバム機能ぐらい。他のはデーターが消されてて、何も出来ない」
優真が答えると他の二人もうんうんと頷いている。どうやら条件は皆同じようだ。
「それに写真撮るのは何故か枚数が決まってるみたい。景色とか食事とか気軽に撮ることが出来ないのはSNSやってた人からすれば辛いわ」
美月の言葉に航太も頷く。
「僕も先輩が作った料理の盛り付け写真とか撮って参考にしたいんだけど、そうすると他のお店に行った時に珍しい料理の写真が撮れなくなるから困る」
「データーを移行したり、印刷も出来ないのに、なんで制限?って疑問なんだよな」
どうやら1ヶ月に数枚撮れるらしいが、どのタイミングで使うのかが微妙らしい。何故制限までしてカメラ機能があるのか、不思議だと口にした。
スマホ関連で、今度はスキルの情報交換となった。
美月は録音アプリ、航太はレシピアプリ、優真は地図アプリだと云う。録音アプリは今のところ使う機会もなく、美月自身もどう使うのかさっぱり分からないという。
「俺は手紙や荷物を配達してるから、スキルの地図アプリが役立ってる」
優真の地図アプリは便利そうだと思った。それがあれば見知らぬ地でも迷子にならなくて済む。
航太のレシピアプリは何故かこっちの世界のレシピしか載っていないらしい。和食とか洋食とか、日本で食べたようなレシピが載っていれば便利そうだが、こっちでは調味料が高価なので、使う調味料が少ないこちらのレシピしか載っていないのでは?と航太は云った。
全体的に味が薄いと感じるのは、調理の際に少しだけ塩を使っているのでそう感じるそうだ。調理法も素材にただ塩を振って焼くか、煮込む際に少量の塩を入れるのが一般的らしい。そういったことから濃い味に慣れていた人たちからすると、こっちの世界は全体的に味が薄く感じるので、物足りなく思ってしまう。
だから自分で店を持つ時には日本で食べていた料理などをこちら風にアレンジして出してみたい、と云った。
「で、芽衣ちゃんのスキルは?」
三人のスキルを聞いた後、美月に訊かれた。
「私のスキルは日本の商品を取り寄せ出来ることです」
そう答えると、三人とも「おお!」と大きな声を上げた。
「そんな凄いスキルなの!?」
「た、例えば味噌とか醤油とかも取り寄せ出来るの?」
「ラーメン食べたい!」
興奮している三人が一斉に話しかけ、芽衣は戸惑う。
「えっと…今はレベルの関係で100円ショップで売っている物しか取り寄せ出来ないんです。調味料やインスタントラーメンは…こだわりがなければ売っているので、それを取り寄せ出来ますよ」
「ちゃんとお金は払うから!」
航太と優真は騒ぐ。航太は料理人らしく調味料が欲しいらしい。優真はラーメンが好きらしく、インスタントでもいいからラーメンが食べたいと騒いでいる。その他にも色々と欲しい商品を挙げていくが、芽衣は申し訳なさそうに話す。
「でも1日に10コしか取り寄せ出来ないんです。すみません」
制限数を聞いて三人はシュンッと落ち込み、そしてすぐに芽衣を気遣う。
「確かに凄いスキルだから魔力をいっぱい使いそう。これからも無理しちゃダメよ」
「魔力切れは怖いって聞くし。こっちこそ我が儘云ってごめん」
「もし助けが必要な時は遠慮なく声かけて。何か異変があれば、医者とか治癒魔術師を呼んでくるから」
三人の言葉にジーンと胸が熱くなる。
「ありがとうございます」
芽衣にとっては昨日まで当たり前だった、けれど三人にとっては久々の日本の商品。それが手に入ると聞いたら、懐かしさと共に興奮するのも無理は無い。
忙しい中こうして芽衣のために集まってくれて、親切に情報をくれたり気遣ってくれたり…。そんな彼らに是非プレゼントしたい!と思った。
「でもこうして知り合えたんですから、ひとり1つなら取り寄せしますよ」
芽衣の言葉に三人とも瞳を輝かせて「いいの?」と声が重なった。
「本当にいいの?」
美月の問いに芽衣は頷く。
「はい。少しだったら大丈夫なので」
三人は互いに顔を見合わせて、そして芽衣を見て頷いた。
「それじゃ…私は石鹸!」
「僕は醤油!」
「俺はインスタントラーメン!」
三人の言葉に芽衣は素早く異世界商店を起動させ、商品を購入する。今回の支払いは魔力にした。リーシャから硬貨を借りているが、それは店のために使うと決めていた。
今回は買った物が3コなので、肩の力が抜けたぐらいにしか感じなかった。支払いを終えると、マジックバッグから買ったばかりの商品を取り出し、テーブルの上に置く。
「わっ! 本当に石鹸だ。生活魔法あるけど、あれだと手を洗った!って感じがしないのよ」
「わわっ! 1Lも!? 本当にありがとう」
「ラーメンが食べられる!」
それぞれ欲しかった商品を目にして、三人は喜ぶ。そして懐かしい商品を手にしてうっすらと涙を浮かべていた。
気持ちが落ち着いた頃に支払いのために硬貨を取り出そうとしていたが、硬貨よりもこの世界のことをもっと教えて欲しいと云うと、「それはそれ。これはこれ」と押し問答になったが、最終的には分かっていることを全部話すということで落ち着いた。
次に気になっていた鑑定やマジックバッグについて訊いてみると、やはり全員が持っていて、荷物なしでこちらに着た場合は空間収納というスキルが使えるようになっているという話を聞いた。
「俺は自転車ごとこっちに来たけど、こっちには自転車なんてないからこれって凄いチートだと思う」
話を聞くと過去にも優真のように何か持ってきた人もいるようだ。
云われてみれば芽衣も買った品を持ってきているので、その時に持っていた物はスキルに関連するのでは?という話になった。
そういった珍しい物は狙われやすいので、マジックバッグに入れたり、失くさないようにしっかり手元に置いておくそうだ。それでも万が一紛失・盗難のようなことがあれば、時間はかかるが自動的に手元に戻ってくるらしい。
その便利なマジックバッグは稀にダンジョンで手に入ったり、2kgまでの物を入れる袋なら市場でも売っているが、芽衣たちのような容量無制限や時間停止、手元に戻るといった機能はないらしい。
「凄いチートだけど、バッグ取られた時は本当に助かるよね」
一度バッグを取られたことがあるらしい美月は、異世界人専用のマジックバッグは本人にしか出し入れ出来ないと云っていた。市場で売られている物だと誰にでも取り出せるので、いくら持ち運びに便利とはいえ大事な物は入れないという。
「す、凄い便利ですね」
芽衣が云えたのはこれだけだった。




