07
途中で視点が変わります。
「他には何かある?」
魔力のことは聞けたので、思い切って硬貨のことを聞いてみようと思った。
「えっと…いつまでもお世話になる訳にはいかないので、お金を稼ぎたいんですけど、どうすればいいですか?」
「そんなこと気にしなくていいのに…と云いたいところだけど、メイちゃんだって欲しい物があるだろうし、ここだとメイちゃんが落ち着かないかもしれないね」
出会って一日しか経っていないが、芽衣が出て行くことが淋しいらしい。
「そうだね、この世界でお金を手に入れるには、冒険者、商人、城や貴族に仕えるのが一般的かな」
冒険者にはなれるだろうが、実際に魔物と遭遇した時に戦えるのか不安になる。
「冒険者になるなら冒険者ギルドに登録。既存のお店で働くのは手続きはいらないけれど、新しくお店を開いたり、行商をするなら商業ギルドに登録しないといけない。城や貴族に仕えるには、働く場所によるけど推薦状が必要だったりする」
(この中ですぐに実行できそうなのは既存のお店で働くことかな)
ぼんやりと考えていると、リーシャは優しく微笑んだ。
「でもメイちゃんのように異世界から来た人は何らかの特殊スキルを持っていて、それを活かした職業に就く人が多い。詳しくは午後に来る彼らに聞いてみた方がいい」
「分かりました」
リーシャは芽衣が特殊スキルを持っていることを知っているようだが、そのスキルを聞き出すようなことはしない。
(多分リーシャさんには教えても大丈夫だと思う)
何も知らない芽衣にこの世界のことを教えてくれたり、屋敷に置いてくれたりととてもよくしてくれる。
芽衣は思い切ってリーシャにスキルのことを話す。
「リーシャさん、私のスキルのことなんですけど」
そう切り出すと、察したリーシャは興味津々とばかりに瞳を輝かせた。
「どんなスキルなんだい?」
「どうやら私のスキルは異世界の…私のいた日本の商品を取り寄せることが出来るみたいです」
そう告げると、リーシャはとても驚いていた。
「え? 異世界の品を取り寄せる?」
「はい。これが昨日実際に取り寄せた物です」
マジックバッグから昨日買った品を取り出してリーシャに見せる。梅干や佃煮といった食品に驚き、ボディーシートやメイク落としの使用方法を聞いて驚き…と、今まで見たことも体験したこともない物たちにリーシャは驚いてばかりだった。
「こんな物は見たことがない! これは凄いよ!」
商品を見て興奮していた。
* リーシャ視点 *
芽衣が取り出した商品にリーシャはただ驚く。
(この商品に似た物はこの世界には存在しない。辛うじて海苔は港町で作られているが、色もこんなに黒くないし、梅干?とやらは果実のようだが…。それに今まで異世界人が色々と求めて、それらしい物を造ろうとしていたが、材料が足りなかったり知識が足りなかったりで実現出来ていない物が多い。今でも話を基に時間を費やして実験・検証しているというのに、メイちゃんはそれらを簡単にやってしまう…)
芽衣のスキルに驚くと同時に、念のため王にも報告することを決めた。
「でもこれだと使う魔力も相当使うんじゃないの?」
リーシャはこのスキルがあるから魔力のことを聞いてきたのかもしれない…と思った。
「初めてのことで残り魔力もあったので大丈夫かと思っていたんですけど、気付いたら朝になっていました」
苦笑している芽衣に対し、昨日のうちに魔力について説明しておけば…と少し後悔した。
「それで? 身体は大丈夫?」
「はい。朝起きたら魔力もちゃんと回復していました」
「そう…。でも無理はしちゃいけないよ」
「はい」
何事もなかったというので、リーシャはホッと息を吐き出して安心した。
「それでいずれはこの商品たちを使って、お店を開きたいと思っています」
芽衣の言葉にリーシャは頷いた。確かにこの商品たちは生活の役に立つはずだ。
(うちの国だけじゃなくて、他国にもこの商品が行き渡れば生活も楽しくなると思う)
これらの商品はいずれレベルの関係で魔法ではどうしても出来ないことや食事などの改善にも繋がっていくだろう。
今より少し豊かな未来を想像しているリーシャに、芽衣は申し訳なさそうにスキルの詳細を口にした。
「でも今のレベルだと1日10コまでしか買えない状態で、更には魔力か硬貨で支払わないといけないんです。だからお店を開きたいと思っていても、中々商品が集まらないかもしれなくて…」
制限があるので、ある程度数が揃わないと店を開くのは難しいだろう。そう思っていると、スキルで消費するのが魔力だけではないと聞き、更に驚く。
「ん? そのスキルは魔力だけじゃなくて硬貨を消費してもいいの?」
「はい」
(…そんな話は聞いたことがない。今まで出会った異世界人たちも皆スキルを使うと魔力を消費すると云っていた。不思議な商品を取り寄せるスキルといい、硬貨での消費といい、メイちゃんは特殊なのか?)
思わず考え込んでしまう。
「…スキルに関しては、当分は魔力を使うのを半分ぐらいにして、残りは硬貨支払いがいいと思う」
「分かりました」
毎回商品を買う度に気を失ってしまうのはあまりにも可哀想だ。
リーシャは机の引き出しから袋を取り出し、それを芽衣に手渡す。反射的に受け取った芽衣の手からは、チャリチャリと音がしていた。
「これは?」
「これはメイちゃんへの投資ということで受け取って欲しい」
「中を確認しても?」
頷くと芽衣は袋を開けて確認する。するとそこには金貨が何枚か入っていた。
「お金?」
突然硬貨を手にした芽衣は驚いていた。
「少ないけれど、僕からメイちゃんへ。本当はメイちゃんにあげてもいいんだけど、それだとメイちゃんは受け取ってくれなさそうだから、投資という形で。いずれメイちゃんがお店を持って、そのお店が軌道に乗ったら返してくれればいいから。勿論、返さなくてもいいよ」
「…」
芽衣の負担にならないような言葉を選び、それを告げる。すると芽衣は少し困ったような顔をしていたが、魔力のことや店を持つ資金のことを考えた末、ようやく受け取ってくれた。
「…分かりました。このお金はお借りします。時間はかかると思いますが、ちゃんとお返します」
「いつでもいいよ。それと…もしメイちゃんに少し余裕があるのなら、ソマリに何かプレゼントしてやってくれないかな? 僕は家を空けることが多くて、ソマリには淋しい思いをさせていると思うから」
家を空けることが多いリーシャは、ソマリと一緒にいる時間が短い。そんなリーシャに文句も云わず、いつもニコニコ微笑んでいるソマリに何かしてあげたいとは思っていた。
芽衣が取り寄せる商品ならとても珍しいし、ソマリも喜んでくれるだろうと思い、負担になることを知りつつもつい頼んでしまった。
「分かりました。ソマリさんが喜んでくれるような物をプレゼントします」
ニコッと芽衣は笑った。そして硬貨をバッグに入れた。
それと大事なことを…とリーシャは真剣な顔になる。
「メイちゃんのスキルのことは今日来る三人とソマリ以外には絶対に話しちゃダメだよ」
芽衣もスキルのことを噂されて、見知らぬ人たちに珍しい物が買えると押し寄せられても困ると思ったのか素直に頷いた。




