06
気がついたら朝だった。目を開けて見回すと自室と比べてとても広い部屋だった。家具も必要最低限しか置かれていない部屋を見て、芽衣は「そうだ」と呟いた。
「ここ異世界なんだっけ」
目が覚めたら元居た場所に…なんて淡い期待を抱いたりしたが、やはりそう都合よく戻れたりしないようだ。
芽衣はフーと息を吐き、ベッドから起きて身支度を整える。昨日メイドが芽衣用の服を何着か用意してくれていた。
清潔で動きやすそうな白いブラウスが数枚と薄いピンクの膝下スカートと淡い黄色の膝下スカートがあった。ブラウスとピンクのスカートの組み合わせにし、用意してもらったブーツを履く。
着替て身だしなみを整えると控えめなノックの音が聞こえてきた。
「はい」
「失礼致します」
芽衣が返事をすると、メイドがドアを開けた。
「メイ様おはようございます」
「おはようございます」
「お食事の準備が整いましたので、ご案内させていただきます」
「よろしくお願いします」
まだ屋敷の地図が頭に入っていない芽衣は、今日もメイドが案内してくれることにホッとした。
食堂に着くと既にリーシャが座っていた。ソマリはまだ来ていないようだ。
「おはようございます」
「おはようメイちゃん」
朝の挨拶をして、メイドに案内された席に座る。
「どう? ちゃんと眠れた?」
「はい」
「そう。それは良かった」
リーシャは安心したようだった。
「朝食を終えた後は時間があるから、メイちゃんの知りたいことに答えられる限り答えるよ」
「ありがとうございます」
そう話しているとソマリがやって来て、三人揃ったところで朝食を食べ始めた。昨夜食べた時にも思ったが、どうやらこの世界の料理は全体的に薄味で、少し物足りない気がした。
朝食を終えると、リーシャと共に執務室へと向かう。執務室の壁一面には本棚があり、どの本棚にもぎっしりと本が並んでいた。
机と向かい合うように椅子が用意され、リーシャに促されて椅子に座る。
「今日は午後からメイちゃんと同じ異世界から来た人たちとの顔合わせをするから、それまでの時間だけだけど」
「ありがとうございます」
「その前に何か知りたいことはある?」
芽衣より早くにこの世界に来た人たちからは生活面での情報も得られるだろう。リーシャにはこの世界のこと、魔力のことなどを教えてもらおうと思った。
「魔力のことを教えてもらいたいです」
芽衣が答えると、得意分野が出てきたことにリーシャは嬉しそうに頷いた。
「いい質問だね。魔力は勿論魔法を使う時に使用する。どんな些細な魔法でも、魔力はそれなりに消費する。例えば…こう火をつけるでしょ?」
リーシャの指先にポッと小さな火が点いた。
「こんな小さな火でも魔力を消費する。だから大きな魔法を使うと消費する魔力も大きい」
「魔法が強いと魔力の消費も大きい。それは分かりました。でもどうしたら魔力は増えますか?」
「魔力を増やすにはとにかくレベルを上げること。それに魔力が上がれば魔法の威力も上がる」
ふむふむと相槌を打つ。
「ではレベルはどうすれば上がるか? 一つの方法としては騎士や兵士、冒険者は魔物と戦う機会が多いからレベルが上がりやすい。それは魔物と戦うことによって、その魔物の魔力を自然と吸収していくことで上がると云われている」
やはり早くレベルを上げには魔物と戦った方が効率がいいらしい。
「吸収というのはどうすればいいんですか?」
「う~ん…どう云えばいいのかな…。倒した後に魔力が洩れるんだ。その時に自然と魔力を吸収して…」
「空気を吸うみたいな感じなんですか?」
「そう! 強い魔物を倒せば倒すほど、持っている魔力は大きい。その分レベルは上がる」
訓練された人ならば魔物と戦ってもいいのだろう。
「それだと街に住んでいる人たちはどうなるんですか?」
誰でも使える生活魔法という便利な魔法があるらしい。それを使うという街の人たちのレベルは上がらないのか?
「街に住んでいる人たちは魔物と戦えない人が多い。そうするとレベルは頻繁に上がらない」
今までの説明を聞いた芽衣は頷く。
「魔力が低いので、魔法の威力も小さい。魔力が低いからそんなに魔法も使えない」
「そうだね。でもその小さな魔法を何度も使っていると、ある日突然レベルが上がるんだ。ただそれは早ければ一年、遅くて三年ぐらいでレベルが1つ上がる」
「…」
コツコツと魔法を使っていればレベルが上がっていく。魔物と戦わなくてもレベルが上がるということは、戦いに慣れていない街の人からしてみればその道のりが遠くても、とても嬉しいことなのだろう。
「あと魔法の他にスキルを持っている人がいて、そのスキルを使うと魔法と同じように魔力を消費する。これも魔物を倒すか、地道に使っていくかでレベルが上がっていく」
異世界商店での買い物はスキルになるので、魔法と同じように魔力を消費する。だから昨日はごっそりと消費してしまったようだ。
「もし魔力を使い切ってしまった場合はどうなるんですか?」
質問をしてみるとリーシャの表情が強張る。
「魔力が少なくなると身体が重くなって、そのまま気を失ってしまう」
だから昨日の追加の買い物をした後、気付いたら寝ていたんだと思った。ただ気を失うだけなら、一人の時であれば誰にも迷惑はかからないだろうと考えた。するとそんな芽衣の考えを読んだのか、リーシャは真剣な声で告げてきた。
「それが誰も居ない、もしくは信用のある人の傍で、本当に安全なところならいい。けれどこの世界には魔物もそして悪意のある人間もいる。室内でも万が一奇襲を受けてしまえば、何の抵抗も出来ずこの世を去ってしまう」
「そんな…」
ここはリーシャの屋敷で人も多いので、安全だとは思う。けれど万が一侵入者が来たら…、この先リーシャの屋敷を出て外で暮らすことになったら…と考えてみると怖くなる。
「あと目が覚めるのは残りの魔力によって異なる。数分で起きる人、翌日に回復して起きる人、一週間寝込む人…その時の状況によってまた違ってくる。だから残りの魔力、魔法の威力などはちゃんと考えて使わないと大変なことになる」
昨日は残り魔力が僅かにあったので、今日無事起きられたようだ。
(魔力の使い方には絶対に気をつけなくちゃ)
そうなると異世界商店での支払いは魔力ではなく硬貨がいいのだろう。果たして硬貨で購入してもレベルが上がるのかは謎だが…。
おおよそ聞きたいことを聞けたので、芽衣は礼を云う。
「魔法や魔力に関してはまた質問する時があると思います。教えていただきありがとうございます」
「そうだね。実践してみないと分からないこともあるだろうし。あっ、メイちゃんが魔法を覚えるんなら僕が教えてあげるからね」
「その時はよろしくお願いします」
フフッと互いに笑う。
折角宮廷魔術師のリーシャが近くにいるのだから、生活魔法で使えそうな物を教えてもらおうかな、と思った。




