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いつもより長文です

 芽衣が美月たちとバーベキューを満喫した後も、販売を始めたばかりの折りたたみ鏡やヘアーウォーターが売り切れる日々が続き、毎回その対応に追われて慌しく過ごしている。

 特に新商品の折りたたみ鏡は小さくて持ち運びも出来るし、何より安い金額で自分だけの鏡が購入出来る!という話が女性を中心にすぐに広まったため、販売個数を増やしても午前中には売り切れてしまう日々が続いている。

 そして折りたたみ鏡とヘアーウォーターをセットで購入していく人たちを見てみると、やはり圧倒的に女性が多かったが、意外にも冒険者や飲食店などの接客をしている人たちも購入している。接客業の人は分かるが、冒険者も身だしなみを気にしているのだということを知った。

 そこで後日常連の冒険者に話を聞いてみたところ、護衛などで依頼主と会う前に身だしなみを整えるために購入したとのこと。特に最初の印象で急に態度を変える人もいるそうなので、少しでも良い条件の報酬を得られるようにするには、やはり身だしなみを整えることが大事なことだそうだ。


「いつも以上に売れ行きが凄いですね」


 すでに販売を開始してから数週間経つが、それでも昼前には売り切れになってしまう現状にニコルは苦笑していた。


「そうですね…。やっぱり身だしなみを整えるだけで第一印象も違いますし、何より女性はいつも綺麗でいたいって気持ちが強いからですね」


「確かに…最近街中を歩いていると、綺麗な人が増えたな…とは感じます」


 芽衣の言葉にニコルは頷いていた。

 けれどどんなに購入数を制限しても、まだ手にしていない人が圧倒的に多すぎる。営業日の度に少しずつ販売個数は増やしているが、それでも店に来る全員が買えるわけではない。こればかりはどうしようもないので、少しずつ欲しい人たちの手に渡っていくのを待つしかない。

 そんな状況を知った鏡職人たちは、ようやく自分たちでも小さい鏡を作ることにしたという。けれど鏡を傷付けずに持ち運びが出来るような物を作り上げるまでにはまだまだ時間がかかるらしく、とりあえず現在販売している大きな鏡の4分の1サイズぐらいの鏡を販売することにしたようだ。

 しかも現在販売されているサイズよりもかなり小さくなった分、値段もグッと安くなったため一般家庭でも少しずつ鏡を設置する家が増えてきて、鏡職人たちも忙しい日々を送っているそうだ。




 そうして折りたたみ鏡の件で芽衣が慌しい日々を過ごしていくうちに、いつの間にか季節は秋へと移っていた。

 秋の最初はココの月と云い、地球でいうと9月になるようだ。このココの月の後半から各地の農民たちは収穫に向けて忙しくなり、ある程度収穫を終えた翌月のトオの月の後半では各農村で収穫祭を行うということを知った。

 収穫祭は一応ラスターニャ全土の街でも行われるらしいが、それでも街と現地――農村とでは熱気が違うようで、祭り好きの人は近隣の農村まで出向いて収穫祭を楽しんでいるという。

 その収穫祭というのは、各地域で今年の収穫を盛大に祝うイベントらしく、収穫祭当日は身分の差など関係無く、村にいる全員(その地域の領主や街からやって来た貴族も含む)が大いに騒ぐことの出来る無礼講の日でもあるそうだ。しかも屋台なども出るようで、どこの村でも明け方までとても賑やかな1日となるそうだ。

 本来はその土地や神に感謝をするために始まったと云われる収穫祭だが、農民たちの息抜きのためにはこんな日が1日ぐらいあってもいいだろう…ということで、現在のような大規模なイベントになったという。

 そんな収穫祭というイベントの話をニコルから聞いた芽衣は、これから忙しくなる人たちのために何か助けになれるような物はないか?と考えた。


「…収穫祭っていうことは、主に農家の人たちが忙しくなるんだよね…」


 そう考えると、芽衣が愛用しているプラスチックのタッパー型保存容器を販売してもいいかもしれないと思った。以前イルナも欲しがっていたので、こういった便利な物があれば、屋台で買った物を入れて持ち帰ることが出来し、食材の漬け込みや乾物などの保存にも使える。

 いくらマジックバッグがあるからといって、汁気がある物をそのまま入れるのは衛生上どうなのか…と以前から思っていたので、この機会に保存容器を広めることが出来るかもしれない。

 その便利なマジックバッグに食品を入れれば時間を遅延するとはいえ、その機能に安堵してしまい、数日後に取り出して食べてしまえば…最悪食中毒の可能性もあり得る。それに入れる時は何とも思わないだろうが、取り出した時にはその場に汁がボタボタと垂れて焦ってしまうだろう。

 そうならないためには事前に何かしらの入れ物に入れて…しかも忘れないうちに取り出せることが出来る保存容器みたいな物はないか?と思って街中を散策してみたが、中々良い入れ物に出会えなかった。

 しかしどうやってこの保存容器をルスタにプレゼンするか悩んでいた時にニコルから収穫祭の話を聞き、これはチャンスだと芽衣は思った。

 この保存容器があれば、忙しい人たちは時間に余裕がある時に料理をして詰めればいいし、何なら出来立ての惣菜を買って入れてもいいだろう。それ以外にも家で残った料理を詰めて、上手く条件が合えば2日以上は保存することが出来ると思う。

 種類の多い保存容器は人によって使い方も異なると思うので、正方形と長方形の2種類――各2コセットになっている物を用意して、芽衣は商業ギルドへ向った。

 早速保存容器のことをルスタに相談すると、これもすんなり了承してもらえた。どうやら前々からこういった食品を保存する容器が欲しかったようだ。


「木箱は野菜保存をするのは便利だが、調理済みの…特に汁気のある物を入れると隙間から漏れる心配もあるし、かといって石箱だと薄く加工するのに時間がかかって、その分代金が高くなる。しかし嬢ちゃんが持って来てくれたこの『保存容器』というやつは、フタもしっかり閉まるから漏れる心配もなさそうだし、何より軽くて丈夫そうだ」


「それにツルツルしているので、洗い易そうですし…」


 エディルも保存容器に興味を持っており、フタを開けたり閉めたり、内側を触ったりしている。


「そうですね。洗ってしっかり乾かせば何度でも使えて便利ですよ。けれど保存容器を直接火にかけてしまうと容器が溶けてしまうので、温める時は必ず鍋に移し変えてもらうこと。それと調理済みの物を入れて保存する場合は冷蔵庫に入れてもらって、なるべく早めに食べ切ってもらうことに注意してもらえれば…」


 ラスターニャにも電子レンジがあれば、保存容器に入れたまま食材を温めることが出来るが、ここで温める調理方法はコンロとオーブンしかない。かといって、保存容器を直接コンロなどに置いて温めてしまうと、ドロドロに溶けたり焦げてしまうだろう。

 それに屋台などで買った物を冷蔵庫に入れずに数日放置して、それを食べて体調不良――最悪の場合、食中毒になってしまっては大変だ。


「まっ、そこら辺は注意が必要だな」


 芽衣から説明を受けたルスタは頷いた。

 そうして商品の説明カードや購入時に直火禁止と冷蔵庫保存、早めに食べるように呼びかけるようにすることで、新商品として売り出すことになった。

 いつものように値段も決め、家に帰ったら早速大量に仕入れをしなくてはいけない。


「また忙しくなっちゃうかな…」


 次の営業日には新商品を発売するの予定なので、また暫らくは忙しい日々が続くだろう。


「頑張ろう!」


 芽衣は気合いを入れながら家へと戻って行った。

 



 そして次の営業日に早速保存容器の販売を開始した。

 いつも通りニコルと新商品の説明を確認し合い、注意書きを書いたポップを付けることも忘れない。


「しかしこの保存容器はいいですね。これはマジックバッグを持っていない人でも屋台で買った食べ物を入れて持ち運べるので便利ですね」


 試供品として渡した保存容器を早速使ったニコルは、そんな感想を告げてくれた。


「それに家で余った物も入れられるので便利です」


 ニコルは今日のお昼にと持参した保存容器をチラッと見せてくれた。中身は昨日屋台で購入した串焼きのようで、「串付きのままでは入らないのでバラしてきました」と教えてくれた。


「もう少し大きいサイズがあれば便利だと思うんですけど…」


 独り暮らしのニコルがポツリと呟く。


「そうですね…そこら辺は少し様子を見てからにしましょう」


 開店準備をしつつニコルと世間話をしていると、いつの間にか開店時間になっていた。


「あっ、そろそろ時間なので、お店開けますね」


「はい」


 2人でざっと店内を見回し、異常がないことを確認してから姿勢を正す。


「今日は新商品の発売なので、いつものように忙しくなると思います。ニコルさんにはかなり負担をかけてしまうと思いますが、よろしくお願いします」


「はい、頑張ります! こちらこそよろしくお願いします」


「それじゃ…OPEN!」


 芽衣の声でドアの鍵がカチッと開いた。鍵が解除されたのを確認したニコルは、そのままドアを開け、外にいる人たちに向かって「ただいまから販売を開始します」と声をかけた。

 するとその声を待っていた人たちがドッと店内に押し入る。


「すみません、順番にお願いします」


 まるで新商品を手にするのは早い者勝ちという風に、一度に大勢の客が流れ込んでくる。それをニコルが上手く整理し、数人ずつ入店出来るようにした。

 それでも保存容器は物凄い勢いで売れていく。来店客のほぼ全員が保存容器を手にするので、多めに用意しておいた在庫もどんどん減っていく。


「すみません、本日分の保存容器は品切れです。また次の営業日までお待ち下さい」


 昼前には保存容器が品切れになったので、ニコルは外に並んでいる客に声をかけた。すると保存容器目的だったらしい数人は列から出て行ったそうだ。

 新商品の保存容器は売り切れてしまったが、他の商品はまだ在庫があるのでこのまま営業を続ける。途中でニコルと交代で昼休憩を取る以外はしっかりと働く。

 そうしてようやく閉店時間になり、本日の営業は無事終了した。


「ありがとうございました」


 最後の客を見送り、芽衣はフゥと息を吐く。

 互いにヘトヘトになりながらも、最後の力を振り絞って店内の掃除をする。

 そして掃除を終えた後、芽衣はミニキッチンへ移動して冷蔵庫に入れてある麦茶を取り出した。


「ニコルさん、お疲れ様です」


 コップに注いだ麦茶をニコルに差し出せば、ニコルはコップを受け取って嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。それにしても…今日も凄い人数でしたね」


「本当に。まぁ暫らくは今日みたいな日が続くと思いますが…」


「そうですね。保存容器を購入出来なかった人が多いのと、今日購入した人がまた買いに来る可能性もありますし、暫らくは…忙しいでしょうね」


 麦茶をクピッと飲んだニコルは苦笑していた。


「当分は忙しいと思いますが、今後もよろしくお願いします」


「はい。こちらこそ」


 最初と比べて随分レベルが上がったおかげで仕入れる数も増えたからか、新商品の販売開始日はどんどん忙しくなっている気がする。

 そう考えると本当にニコルが居てくれて良かったと思う芽衣だった。




手直しをしているうちに長文になってしまいました(^-^;

途中を区切って、次回にしても…とは思ったのですが、50話目記念ということで(*^^*)

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