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新しく雇ったニコルはとても頼りになる人だった。
親切な接客をしているからか評判がいいし、掃除や品出しも丁寧でしかも素早い。今まで全て芽衣独りで作業していたので開店の準備にそれなりに時間もかかったが、今はニコルが協力してくれるので半分ぐらいの時間で全て終えることが出来る。
「ニコルさんには本当に感謝だね」
更にこの世界のことやユイオン周辺のことなど色々と教えてくれるので、今まで図書館の本で勉強してきた芽衣からすると、本に書かれていないちょっとしたことを教えてくれるニコルが教師のように思えた。
そして今までより更に生活に余裕が出来たからか、芽衣は魔法の練習・実践をする時間が増えた。
そのおかげでレベルも上がり、1日に購入出来る量はグッと増えた。
ちなみに芽衣の現在のレベルは13。1日に購入出来る数は210コとなっているが、未だに100円ショップしか利用出来ないし、500円商品までしか買えない。
「あとどれぐらいレベルアップすれば、他のお店も使えるんだろう…」
100円ショップの品は種類が豊富なのと安くて便利なのでありがたいが、そろそろ他の内容も見てみたい。
「もっとレベル上げを頑張ろう!」
日々気合いを入れ、レベルを上げるために魔法の練習を行った。今までも休みの日は家で魔法の練習をしていたが、ニコルを雇ったことによって時間に余裕が出来たからか、街の外へ出て魔物相手に実践練習もするようになった。
「いつ、何があるか分からないからね。今のうちに魔物に免疫をつけておかないと…」
いざという時に何も出来ないまま…ということにはなりたくない。そのため時間を見つけてはちょこちょこと街の外へ出ている。
そうしてレベルを上げるために日々頑張りつつ、なんとかニコルも店に慣れてきたと思われるある日のこと。いつも準備時間(店舗の掃除や品出し)より少し早い時間に来ていたニコルが、今日は慌てた様子で店にやって来た。
「お、遅くなりました!」
「開店までまだ時間があるので大丈夫ですよ」
いつもきっちりとしているニコルが慌てて来たことで、芽衣は不思議に思いながらもニコッと笑った。
「ありがとうございます」
余程急いで走って来たのだろう。息を整え、身だしなみを整える。
「あっ…」
ニコルが身だしなみ――衣服を整えているのだが、芽衣はニコルの髪が跳ねていることに気付いて声を上げてしまう。
「?」
芽衣の声を聞いたニコルは首を傾げながらも、衣服ばかりに気をつかっていた。
(そっか…自分では気付いてないんだね…)
髪は誰かが注意しなければ気付かない。そして自分で気付くには鏡を見なければいけない。一応ユイオンにも鏡はある。だが鏡はとても大きいので、貴族の屋敷(リーシャ邸しか知らないが)や店などに設置されている物しか見かけない。鏡本体の大きさ故か値段も相当するらしく、金銭に余裕がなければ設置出来ないと聞いた。そのため鏡を設置していない家は沢山あるそうだ。実際に芽衣の店には店舗と2階の居住スペース共に鏡は設置されていなかった。
(もっと小さい鏡もあればいいのに…)
そうすれば持ち運びも出来るし、大きい鏡より金額もグッと安くなるはずだから家で使うことも出来る。
ハッと思い出した芽衣はニコルに「ちょっと上に行ってきます」と告げて、2階へ上がる。寝室から折りたたみ鏡とヘアーウォーターを手にし、下へと戻る。
すると身だしなみを整え終えたニコルは、早速商品を棚へと並べていた。
「ニコルさん、髪が跳ねてますよ」
「え?」
ちょっと気になったことを芽衣が口に出すと、ニコルは慌てた。
「ああ、どうしよう…」
接客業なのでニコル自身も常に身だしなみに気をつけていたらしいが、髪のことまでは指摘されるまで気付いていなかったようだ。
「ニコルさん、良かったらこれを使って下さい」
芽衣は2階から持って来た折りたたみ鏡とヘアーウォーターを差し出す。
「? これは?」
初めてみる物にニコルは少し戸惑っているようだった。そこで芽衣が使い方などを説明する。
「まずこれは鏡です。こうして開くと…鏡が見えるんです」
「おおっ! こんなに小さくて持ち運びが出来るだなんて!」
芽衣から折りたたみ鏡を受け取ったニコルは、ものすごく興奮していた。様々な角度から眺め、そして気に入ったようだった。
「しかもこれはフタをしているから、持ち運ぶ際にも鏡が傷つきにくくなってるんですね。ちゃんと使う人のことまで考えて作られているだなんて素晴らしいです!」
とニコルは云った。
「それでこっちはヘアーウォーター。これを髪に吹きかけることで、寝癖直しや櫛の通しをよくしてくれます」
「それは本当ですか!? そんな便利な物が!」
ヘアーウォーターを差し出すと、ニコルはとても驚いていた。
「私の使いかけですけど、良かったら試してみてください」
「是非!」
ニコルはニコッと笑う。芽衣はニコルに簡単な使い方を説明した。
「このレバーのような部分…ハンドルと云うらしいんですけど、ここを握ることによって中の液体が霧状になって噴射されます」
「面白いですね。では早速…」
芽衣の説明通り、ニコルはヘアーウォーターを空中へ向けてハンドルを強く握った。するとシュッと音と共に小さな水が吹き出た。
「わっ!」
驚くニコルに芽衣は説明を続ける。
「それでこのヘアーウォーターを髪にかけて…」
「はい」
今度は自身の髪にヘアーウォーターを近づけて、そしてハンドルを強く握った。シュッと音がした後、ニコルは不安そうな顔をしていた。
「これは本当にかかっていますか?」
「音がしたのなら、噴射されたのだと思います。確認のために髪を撫でるようにして触ってみて下さい」
ニコルは鏡を見ながら髪を撫でた。ちゃんと髪に噴射されたようで、ニコルが何度か撫でていると寝癖は消え、いつも通り――以上のサラサラ髪になったように見える。
「芽衣さん、ありがとうございました。これはとても便利ですね」
最終チェックと云わんばかりに鏡で髪を確認したニコルは、嬉しそうに笑っていた。
「この鏡とヘアーウォーターは売れると思いますよ。特に鏡。こんなに小さくて持ち運びが出来るんですから、誰もが欲しがると思います。それにヘアーウォーターは簡単に身だしなみを整えることが出来るので、忙しい人たちに人気が出ると思います」
新しい商品を使ったニコルは、その便利さを伝えてきた。
確かに鏡は身だしなみを確かめるのに人気が出そうだし、ヘアーウォーターも朝から忙しい人たちにとっては便利な物になるだろう。
「…そうですね。販売する方向で考えておきます」
「もし販売するとなったら、ちゃんと私も買いますからね」
こうしてニコルから「売れる」と推薦をもらった芽衣は、後日ルスタに相談しに行くことになった。ルスタもエディルも折りたたみ鏡に驚き、「これは大事な商談前に身だしなみを確認するのに便利だ」と云ってくれた。
そうして新しい商品として折りたたみ鏡とヘアーウォーターを販売したのだが、これも爆発的人気となり、暫らくはニコルと共に対応に追われるのだった。




