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「さて嬢ちゃん、俺から一つ云わせてもらうぞ」
「何でしょう?」
かき氷屋との交渉が無事終わり、会議室に残った芽衣にルスタが話しかけてきた。
「そろそろ人を雇った方がいい」
「…そうですね」
それは芽衣も前から考えていた。けれどどうやって雇えばいいのか分からない。
(店先に『従業員募集』って貼り紙をすればいいのかな)
日本で見かけていたバイト募集の貼り紙を浮かべてみる。
「募集の貼り紙をすれば誰かしら応募してくれますかね?」
芽衣がルスタに相談すると、ルスタは驚いた顔をしていた。
「もしかして貼り紙で募集するつもりか?」
「それが一番無難じゃないんですか?」
あとは広告を出すことも思いついたが、こっちにバイト募集の広告雑誌みたいな物があるか分からないので口にしなかった。
「普通の店ならそれでもいいんだが…」
どこか慌てているルスタに対し、芽衣は驚いてしてしまう。
「え? うちも普通の店だと思いますよ?」
確かにこの世界ではちょっと珍しい食品や雑貨を売っているが、どれも適正価格で販売しているので、芽衣自身は普通の店だと思っている。
はっきりと答えると、ルスタはハァと短い溜め息を吐いた。
「…嬢ちゃんのところは確かに質のいい珍しい物ばかり扱っているからな。そんな募集の仕方だったら、どうにかして仕入先を探そうとしたり、商品をくすねたりする奴だって応募して来る可能性が高くて後々問題になりやすい。そうならないためには…予めこっちで人を絞ってやるよ」
確かに芽衣の――日本の商品は安くて質が良いので、ルスタが云うような悪さをする人を雇ってしまう可能性もあるだろう。芽衣のことをしっかりと考えてくれているルスタに感謝しつつ、求人の件もルスタに任せてしまおうと思った。
「お願いしてもいいんですか?」
「ああ。嬢ちゃんも相手の身元がちゃんと分かっている方が安心するだろう?」
「そうですね。…それじゃお願いしてもいいですか?」
芽衣が頼むと、ルスタはニヤッと笑った。
「ああ。任しときな」
こうして新しく従業員を雇う話は終わった。
ルスタに従業員募集を任せて2日が経った。連絡が来るまでそれなりに時間がかかるのでは?と思っていたところ、予想よりも早く呼び出されて商業ギルドへ向かった。
案内されてルスタに会うと、早速候補者を3人までに絞ったと聞かされた。
「ルスタさん、仕事早いですね」
思わず声に出してしまったが、候補者を絞るのにもそれなりに時間はかかるはず。元々の人数がどれぐらいだったかは分からない――逆に少数だったら悲しいが、それでも早く仕事をしてくれたことに感謝した。
「従業員のことは前々から思っていたことだしな」
どうやらルスタはもっと早い段階で従業員のことを考えていたらしい。
(そこまで考えていてくれただなんて…)
ルスタの言葉に芽衣は思わず感激してしまう。ルスタには今までだって沢山世話になっているので、今度何か差し入れを持って来ようと芽衣は思った。
そこからは提示された候補者たちの情報を貰って誰にするかを考えた。誰か1人を選ぶだなんて出来なくて、でも全員雇うことも今の芽衣には出来ない。そうして時間をかけて悩んだりルスタと相談した末、やっと1人を決めることが出来た。
時間をかけて芽衣が選んだ人はなんとこの商業ギルドで雑用として働いている男性だった。その男性は芽衣の店が従業員を探しているという話を知り、自分からアピールしてきたそうだ。
雇う決め手となったのはやはり商業ギルドで働いているからか、計算や会話が得意だということ。即戦力になる人だが、そんな人をルスタが手放してしまっていいのか?と芽衣は思った。
「本来なら数年かけて奴を鍛えて行くつもりだったんだけどな、本人が嬢ちゃんの店で働きたがっているからな…」
その人にはルスタも期待していたようだった。でも無理強いはしたくない、ということで、今回の候補に挙がったそうだ。
「で、早速奴と顔合わせした方がいいだろう」
情報だけで決めた人だが、何か問題やクセが強かったり…もしかしたら相性が悪かったり生理的に受け付けない人かもしれないので、雇う前に実際に会った方がいい。
「お願いします」
芽衣が即答すると、エディルがその人を呼びに行った。
待っている間、本当にダメだと思ったら他の候補者に変えようと心の中で思い、エディルが戻ってくるのを待った。
暫らくするとエディルが「連れて来ました」と云って室内に入って来た。エディルの後ろには従業員になるであろう男性がいた。
男性は芽衣の姿を確認すると、ニコッと微笑んだ。
「初めまして。私はニコルと云います。ここ商業ギルドで働いています」
「初めまして。『ファンタズムショップ』店主の芽衣です」
立ち上がって挨拶を交わす。
挨拶を交わしただけだが、ニコルの姿勢や言葉遣いは綺麗で、この人だったら一緒に働いても大丈夫だと思った。
「それで私がここに呼ばれたということは…」
芽衣と一緒にいるルスタを見たニコルは、もしかして…と期待しているようだった。
ルスタは一度芽衣を見て、芽衣が頷いたのを確認してから口を開いた。
「ああ。お前を嬢ちゃんのところで雇うことになった」
ルスタが結果を伝えると、ニコルはとても喜んでいた。
「本当ですか? ああ…これで珍しい物を一番最初に見られることが出来て、とても光栄です」
どうやらニコルは珍しい物や新しい物が好きらしい。そのため芽衣の店員になることを希望したそうだ。
「…コイツは新しい物好きだが、物覚えも良いし、接客対応も良い。嬢ちゃんのところでは即戦力として働けるだろう」
「うわ~ありがたいです!」
そんなことを聞いてしまうと、ついニコルを期待の眼差しで見てしまう。芽衣の表情を見たニコルは苦笑していた。
「あはは…頑張りますよ」
「それじゃ早速詳しい条件だが…」
早く自分の仕事に戻りたいルスタはさくっと次の話題を口にしてきた。給料などの細かいこともほぼルスタに任せたことで、あっという間に雇用形態は決まっていった。
「それじゃよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
こうして芽衣はやっと従業員を雇うことが出来た。




