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「えっと…商売についての話があると云われてきたのですが…」


 会議室に集まったメンバーを見たかき氷屋は、まさかギルマスのルスタを交えて話をするとは思っていなかったようで、とても驚いている様子だった。

 普通にギルド職員との話の場だと思って来てみたら、不意打ちでギルマスとの対面である。


(私がかき氷屋さんの立場だったら、何かやらかしたかも…って不安になっちゃうよね)


 芽衣の思っている通り、かき氷屋はルスタを見た後、強張った顔でドア付近に立っていた。


「まぁ楽にしてくれ」


 ガチガチに緊張している様子のかき氷屋に、ルスタは声をかける。


「は、はい」


 楽にしてくれと云われても、これから何を云われるのかが気になっているようで、かき氷屋は緊張を解くことはなかった。

 誰が見てもガチガチになっているかき氷屋の緊張を親切に解かしてやることもなく、ルスタは「早速用件を云う」と話し始めた。それと同時にエディルがシロップ水を用意し、かき氷屋の前に静かに置く。


「実はな、ここにいる嬢ちゃん――メイがシロップっていう、甘い物をかき氷にかけて食べると美味しいって云ってきてな。目の前のこれはそのシロップを水で薄めた物だ」


「へ?」


 どうやら思わず声が裏返ってしまったようだ。そしてかき氷屋はルスタの云ったことを反芻しているようで、下を向いてブツブツと何か云っていた。


「…」


 ルスタにもう一度説明をしてもらうようお願いしようと思った時、かき氷屋はバッと顔を上げた。


「え? 『ファンタズムショップ』の店主が? シロップなる物を?」


 かき氷屋はどうやら芽衣のことを知っているようだ。確認するように芽衣のことを見ると、「まさか!」と一気に青ざめた顔をしてルスタに訴える。


「そ、そんな物が! それがあったら俺の商売は…。シロップとか云う物を売るなら、俺に何かアドバイスを下さい!」


 そんな魅力的なシロップを販売されてしまっては、自分の売り上げが落ちてしまうと思ったようだ。芽衣には敵わないと思っているようで、ルスタに商売のアドバイスを懇願している。


(うん。自分の知らない商品と合わせて売れば、物珍しさで売り上げが減っちゃうもんね。しかもそれがいつまで続くか分からない…。そりゃ焦るよね)


 もし自分がかき氷屋の立場だったら、なんとか工夫をして商品を売り出すだろうが、それでも今までのように売れるか分からない。


「ああ…氷だけでの勝負はダメだったのか!?」


 焦っているかき氷屋にルスタは声をかける。


「まぁ落ち着け。結論から云うと…嬢ちゃんはな、そのシロップをあんたに売りたいんだってさ」


「…え?」


 ルスタの言葉が即座に理解出来なかったかき氷屋は、少し時間を置いてから不思議そうな顔をした。


「聞き間違いですか? その…シロップを俺に売る?」


「聞き間違いじゃないぞ。嬢ちゃんはお前さんにシロップを売る。そんでお前さんがシロップをかけたかき氷を売る」


「…」


 かき氷屋は云われたことを反芻しているのか、固まってしまった。そしてそれを理解した時、「え?」と発した。


「店で売るのではなく俺に? 俺に売ると? 絶好の商売になるのに?」


 信じられないという顔をしながら、かき氷屋は確認するように芽衣を見た。芽衣はかき氷屋と目が合うとコクンと頷いた。


「はい。私は独りで営業しているので、新商品を売り出すとどうしても対応が追いつかない時があります。なので今回は専門の人に買ってもらい、それを活かしてもらえればありがたいと思ったんです」


「でも数々の便利な商品を売り出してきたあなただったら活かせるのでは?」


「確かに私は多くの商品を売っていますが、例えシロップを売り出したとしても料理人ではないのでかき氷自体を販売することはありません」


「…」


 もし店でシロップを販売するとしたら多くの人たちが買い、自分たちで好きなようにかき氷を作るだろう。それと同時にシロップに関する問い合わせが殺到する…ということも見えている。完売続きになったら誰かしらが「金を払うから作ってくれ」と云ってくるかもしれないので、それだったら最初に売り先を決めてしまい、そこから先は相手に丸投げすればいい。そうすれば直接芽衣に数々の問いが来ることもないので、今以上に余裕が出来る。

 誰にも迷惑をかけず、尚且つ対立や混乱することなく穏便に済ませるために、今回はこういう方法を取ることにした。


(本当は私独りだから対応が大変なだけなんだけどね)


 本心を隠しつつ、芽衣はかき氷屋に告げた。


「ですので美味しい物を作ってもらうには、それ専門の人に売った方が更に美味しくなると思っています」


 芽衣の言葉をしっかり聞いてから考え始めたようで、かき氷屋は黙ってしまった。

 交渉が成立するかどうか不安になりつつも、かき氷屋は悩んだ挙句決心したようで「決めました」と呟いた。


「で、どうする?」


 確認するようにルスタが訊ねると、かき氷屋は一呼吸置いてから答えを告げた。


「シロップを売って下さい!」


 かき氷屋が大きな声で告げると、ルスタはニヤッと笑った。


「そうか。それじゃ交渉成立だな。それを飲んでみろ」


 交渉が成立したのと同時に、ルスタはかき氷屋にシロップ水を勧めた。折角目の前に置いたのに、かき氷屋は一口も飲んでいない。それはルスタが声をかけなかったことも原因だと思うが…。

 かき氷屋は目の前にあるシロップ水を手にし、「綺麗な色だな…」と見惚れていたり、「本当に甘いのか?」と疑問を声にしながらも、覚悟を決めたような顔をしてシロップ水を飲んだ。そんなかき氷屋をルスタはニヤニヤと笑みを浮かべながら見守っていた。


「…んっ! 甘い!!」


「そうだろう? 今は水で薄めたが、これをかき氷にかければ…」


「売れますね!!」


 ルスタとかき氷屋は何やら盛り上がっている。


「これがあればシロップだけのかき氷だけでも売れるし、トッピングのフルーツももっと売れるかもしれない」


 どうやら早速メニューを考えているようだ。また下を向いてブツブツと何か云い始めた。

 商人は色々考えることが多いと聞くので、かき氷屋のことは放置し、ルスタと芽衣は互いに声を出して「良かった」と安心していた。

 そこでふと我に返ったらしいかき氷屋は、恐る恐る芽衣に聞いてきた。


「とてもありがたい話ですが、こんなに甘くて美味しいので…その…このシロップの代金は相当高いのでは?」


 肝心の代金に関してはまだルスタと相談していなかった。そのため芽衣はルスタを見て、「どれぐらいで?」とその場で相談し始めた。

 ルスタは「う~ん…」と唸り声を上げながら、シロップの卸値を考える。店を始める当初から金額は全てルスタに任せてきたので、今回も芽衣はルスタに丸投げした。


「そうだな…金額は1本銀貨1枚ぐらいが妥当じゃないか?」


 1本銀貨1枚=1,000円。100円商品だけど…と思いつつも、あまり安く売ってしまうと芽衣の方に利益は出ないし、逆に高すぎても相手側に利益は出ない。


「え? そんなに?」


 金額を聞いたかき氷屋は驚いた。

 するとルスタは現物であるシロップの瓶をドンッとテーブルに置いた。突然目の前に現れた瓶にかき氷屋は目を丸くした。


「これがシロップ本体だ。勿論水で薄まっていない物だ。これを1本で銀貨1枚。安いだろう?」


 幾ら量があっても、シロップなしのかき氷の販売価格は銅貨2枚。そこにシロップをかけて売ると、幾ら価格を上げてもシロップはすぐに使い切ってしまいそうだ。

 それをかき氷屋は心配していた。

 けれど芽衣とルスタは笑みを浮かべていた。


「このシロップをスプーン1杯かけるだけでも甘くなる」


「え?」


 云われた言葉にかき氷屋は固まる。


「今飲んでもらったシロップ水はスプーン1杯ぐらいだ」


「! それでも美味しいんですか!」


 スプーン1杯ぐらいと聞いてかき氷屋は驚いていた。コップの大きさにもよるが、今回は小さめのコップだったのであまり入れすぎると甘くなってしまうため、1杯弱にしたのだ。


「これだけの量があるんだ。丸々1本使い切るまでにどれだけ作れる? どれだけ売れて儲かる?」


「あっ!」


 ルスタの言葉で上手く使えば利益が出るということを悟ったようだ。

 そうして無事かき氷屋と交渉出来た数日後には、早速シロップがかかったかき氷が販売され、あっという間に人気のかき氷屋になったそうだ。




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