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43 閑話:エリザのポシェット

 今年の春頃、ユイオンの王都に新しい店がOPENした。その名も『ファンタズムショップ』。

 この店ではとても珍しい物を販売している…という噂通り、そこに並んでいるのは国中――もしかしたら世界中で売られている物たちよりも上質な品物や初めて見る品物たちだった。店内に一歩足を踏み入れれば、気付いた時には珍しさのあまり予定外の物まで買っている――という、所持金が少ない人たちにとってはちょっと恐ろしい店だ。


 そんな珍しい物を扱っているせいで仕入れが大変なのか、営業日は週に2回だけ。営業時間内でも在庫がなくなり次第閉店してしまうため、朝早くから並んでいる人もいるそうだ。

 営業日は少ないが、とても珍しくて良い物を販売している『ファンタズムショップ』の商品は瞬く間に人々の生活を随分楽にさせてくれた。

 例えば『インスタントスープ』。詳細を聞いた時は粉末がスープに?と疑問に思っていたが、まさか熱湯を注ぐだけで簡単に美味しいスープが完成することに感動した。…けれどOPENと同時に販売された食べ物で『海苔の佃煮』の使い方だけは未だ分からない人が多く、どうやって食べればいいのか悩んでいるようだ。


 そうして開店してから様々な商品を販売してきた『ファンタズムショップ』だが、新商品として突如保存食である缶詰を販売した時は国中に衝撃が走った。


 それというのも今まで市場で売られていた缶詰や干し肉などの携帯食はとにかく保存期間を優先し、味は…食べることが出来れば良い…と考えないようにしていた。そのため缶詰の中身は油だらけで味はしない、干し肉はただ硬いだけで食べるのに苦労する。それに比べて『ファンタズムショップ』が売り出した『サバ缶』と『クラッカー』は保存が効くのにとても美味しい。

『ファンタズムショップ』では保存食と云われているけれど、普通に食べて美味しい『サバ缶』と『クラッカー』の噂はあっという間に広まっていった。家庭では『サバ缶』がそのまま出され、飲み屋でも『クラッカー』や『サバ缶』を使った料理が出てきたり…。冒険者や商人など、移動の多い人たち以外にも美味しい『サバ缶』と『クラッカー』は人気になった。


 日常でも使えるそれらが人気になっていくと、今度は今まで売られていた保存食の売り上げが急に下がり、職人たちは皆頭を抱えてしまったそうだ。

 冒険者たちも一度美味しい味を知ってしまったので、今までのように美味しくない物をわざわざ買う必要がなくなり、保存食は安値で販売されるようになっていた。

 それでも少しでも売り上げを伸ばしたい、美味しい物を作りたい職人たちが試行錯誤を繰り返しながら努力し、味や保存期間を見直すことになった。そのため2ヶ月前と比べれば、ほんのり味もあるし若干食べやすくなっていた。


 そういった庶民の人気を狙っていたのかは分からないが、結果的に庶民向けの生活改革をしてきた『ファンタズムショップ』は国内では注目の店だ。

 しかし在庫数と営業日が限られているので、少しでもそれに似た商品を作る職人や商人たちが増えてきているらしい。

 知り合いの陶芸家はオーダーメイドを受け付けているらしく、苦笑しながらも「注文が殺到して、色々なデザインの花瓶を作るのに忙しい」と云っていた。


 幸い、まだ服飾関係の物は販売されていないので、そういった改良点の話を聞いても、私…エリザは自分の仕事とは関係のない店…と思っていた。

 それが夏祭りを少し過ぎた後、まさか自分でも『ファンタズムショップ』の新商品を真似た物を沢山作って販売することになるだなんて、その時は思ってもいなかった。




 エリザが街中を歩いていると、何故か肩から紐のような物をかけている知人がいた。


「肩からかけているあれは何? 長い紐? それともここからでも随分太く見えるから、紐じゃなくて厚手の布なの??」


 あんなの見たことない…と、服飾の仕事をしているエリザはどうしてもその正体が知りたくて知人に話しかけた。


「こんにちはシェリー。その肩からかけているのは何?」


 すると話しかけられたシェリーは嬉しそうに笑っていた。どうやらそれの話をしたいようだった。


「これはね『ポシェット』って云うらしいの。『ファンタズムショップ』の新商品とかで、ここを開けると…ほら、色々な物が入るの!」


 ジジジッと音と共に布の中が見えるようになった。初めて聞く音の正体はどうやら留め具のようで、これで留めることによって中身が落ちないようにしているようだ。

 シェリーが布の中を見せてくれたので、遠慮なくエリザは中を覗いた。するとそこには折りたたんだ布袋と数枚の硬貨が入っていた。


「こうやってお金や小物を入れて持ち歩くことが出来るんだって」


「へぇ~便利そうね」


 硬貨と商品を入れる袋があれば、相当重い物を買わない限り、籠を持ち歩かなくてもこれだけで充分だと思う。それに籠を持っていない分、両手も使えてとても身軽だと思った。

 そのポシェットをエリザも欲しいと思ったが、そんな便利な物なら朝早くから並んでいてもすぐに売り切れてしまうだろう。暫らくは手に入りそうもないと考える。

 …すぐに手に入らないのなら、思い切って似たような物を自分で作ってみてはどうだろうか? 幸い仕事の関係で端切れなどは沢山残っている。それらを使って、自分だけのポシェットを作ってみてもいいかもしれない。

 そう思ったエリザはシェリーに頼み込む。


「もう少しだけ見せてもらってもいい?」


「どうぞ」


 ポシェットが買えたのが相当嬉しいのか、快くシェリーは見せてくれた。色々な角度から見たり、縫い目を確認したり…と僅かな時間だが研究をさせてもらった。




 ポシェットを見せてくれたシェリーに礼を云い、エリザはすぐに自宅へ戻った。家にある端切れを集めて、早速ポシェット作りを始める。

 端切れの色や形を1枚ずつチェックし、使えそうな物を選んではチクチクと縫い合わせていく。集中のあまり作業開始から随分時間が経っているのにも気付かず、休まずに何枚もの端切れを組み合わせていく。


「お腹空いたかも…」


 空腹だと気付いた時点で一度作業を止めて、夕食という休憩をとった。けれど食事をしていても頭はポシェットのことでいっぱいで、この後どう作業して行くのかをつい考えてしまう。


「それにしてもあのジジジッ…っていう金具はないから、フタをするような形にするとして…そうするとフタになる部分は手に入りやすいボタンを使うとして、あとは肩からかけるのに丈夫な紐か、厚い布も用意しなくちゃいけないし…」


 用意した食事の味も分からず、ポシェットのことばかり考える。折角シェリーに珍しい物――本物を見せてもらったのだから、時間がかかっても納得出来る物を作り上げたいと思った。

 それからエリザは試行錯誤を繰り返しながらも、昼は服飾の仕事のために所属している工房へ行き、そこで余った中途半端な端切れなどを安く購入しつつ、夜は自宅でポシェット作りに励んだ。


 その甲斐あってか、ポシェットを作り始めてから5日目。夜だというのにエリザはつい叫んでしまった。


「で、出来た~!!」


 作業途中で失敗しながらも、ようやく納得の出来る物が仕上がった。出来たばかりのポシェットを見つめ、エリザはニコニコと笑みを浮かべる。


「お店で売っている物と比べると…端切れを合わせて作ったから随分カラフルになっちゃった。けれど逆にこれなら遠くから見ても私の物ってすぐに分かるわ! だって私が作ったここに1つしかない物だもの! それにしてもあの金具はやっぱり見たことがないから、代用として少し見栄えのするボタンを使ってみたけど、目立ってしまうかしら?」


 ポシェットを見ながらエリザは製作過程のことや、出来上がった今の気持ちを言葉にする。


「ああでも肩からかける部分は端切れを何枚も重ねて作った厚手の布にするのには苦労したわ。しかも肩の布と中身を入れる袋部分が重さで取れないように、しっかり縫ったからこれなら簡単に千切れない…はず」


 ポシェットが完成したのが嬉しくて、エリザのテンションは高くなってしまう。


「ふふっ、明日からはこのポシェットがどれぐらい使えるのか――布が破れないかとかを確認してみなくちゃ!」


 明日、ポシェットと共に外に出ることが楽しみなエリザは、連日の作業の疲れもあって早々にベッドへ向かった。


 翌日は完成したばかりのポシェットをお披露目するという形で仕事場へ向かった。その道中、エリザの作ったカラフルなポシェットは『ファンタズムショップ』で売られている物とは違うと認識され、存分に人々の注目を集めた。そしてエリザはポシェットを付けたまま仕事場に入ってしまったため、あの工房で新作のポシェットが作られているという噂が流れてしまう。それ以降、工房にカラフルポシェットの問い合わせが殺到してしまい、数日後には服作りよりもポシェット作りが優先されることとなった。


 そうして徐々にポシェットのことが国内に広まっていき、便利な物が自分たちで作れるのなら――と、あちこちでオリジナルのポシェットが販売されるようになっていった。




暫らく不定期更新となります。

ごめんなさい(>_<)

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