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 夏祭りが終わって数日が過ぎた。その間に遠方から来た人たちは徐々に帰って行き、街はいつもの日常へと戻って来た。

 その大勢の人が訪れた祭りの中で芽衣はあることに気付いた。


「そういえば買いに来てくれた人の殆どが革袋みたいな袋から小さな袋を取り出して、そこからお金を取り出していたような…。こっちにはお財布とかないのかな?」


 今までも店での会計時に袋の中から小さめの袋を取り出し、そこから硬貨を取り出している人が多い。気になって話を聞いてみると、硬貨袋をマジックバッグに収納しているからだという。

 だがそれだと袋から硬貨を取り出した瞬間、目的の硬貨を取り出すのが大変そうだと思った。実際会計時に袋を覗きこんで硬貨を探している人もいれば、硬貨をどっさりと掴み、その場で数え始める人もいる。こういう光景は日常茶飯事らしいので、金額が合うまで芽衣も大人しく待っている。

 それに市販のマジックバッグは容量制限があると聞いているのに、そんなに重い物を沢山入れていたら、買い物した物や本来入れたい物が入らなくなる可能性がある。

 それなら予め財布にある程度硬貨を入れておけば、見やすいので取り出しは簡単、必要な分だけを持ち歩けば、マジックバッグの容量も少し減るのでは?と思った。


「よしっ、久々に新商品を売り出してみよう!」


 早速異世界商店を起動し、財布を探す。小さいコインケースから、折りたたみ財布や長財布などがあった。


「こんなにいっぱいあるんだ…」


 今まで100円ショップで財布を購入したことがなかったので、種類が豊富なことに驚いた。


「だったらお金だけじゃなくて、小物入れでも使えるような物がいいかもしれない」


 そうすれば硬貨を入れるだけではなく、色々な使い道が出来る。

 商品画像を見ながら、どれがいいのかと悩む。例えば折りたたみ財布でも種類が多いので、色や素材などでまた悩む。


「う~ん…お財布にするか、ポーチにするか…」


 画像を見ながら悩みに悩んで、最終的に財布ではなく、カードが入るサイズのマチ付きマルチポーチと移動ポケットに決めた。移動ポケットはクリップが付いているので取り外しも簡単。それを衣服に取り付ければ、小物入れポケットとして使うことが出来る。これらをそれぞれ2種類ずつ用意した。


「あとは…夏で身体を拭いたりする機会が多くなると思うからタオルは多めに用意して…新しい物だと水分補給できる水筒とか?」


 コンパクトサイズになる袋型のウォーターバッグも便利そうだが、今回は水を入れるだけではなく、色々な使い道があるウォーターボトルを購入した。それと身体のケア用にボディクリームと化粧水を同じように2種類ずつ用意した。

 各商品を2種類ずつ用意した理由は、男性と女性では好みが違うからだ。男性だとどうしても落ち着いた色が好まれ、女性だと明るい色を好む人が多い。それとデザインも違う物を選んだ。出来る限り購入したい人が選べるようにしたいので、色で決めるか、デザインで決めるか、選択出来るようにした。これも夏祭り期間中にレベルが上がったので、購入数に少し余裕が出てきたから出来ることだ。


「商品のこともそうだけど、この世界のことを少しルスタさんに聞いてみよう」


 祭りの時にもう少しこの国のこと、この世界のことを知らなくてはいけないと思ったので、商業ギルドのマスターなら色々知っているだろと思い、ルスタに聞いてみることにした。

 商品を購入し終え、戸締りを済ませて商業ギルドへ向かう。

 ギルドに着くと、いつものようにエディルを探してルスタに会わせてもらう。忙しいルスタに簡単な挨拶をし、早速本題に入る。


「今日は新しい商品のことで相談と聞きたいことが…」


「新しい商品か…」


 ルスタは祭りでいつも以上に忙しかったのか、疲れ切っている顔で芽衣に「今度は何だ?」と聞いてくる。

 芽衣はマジックバッグから今回販売を考えている商品を取り出し、それぞれの商品について説明を始めた。


「まずこのポーチ。これはお金や小物などを入れる物です」


「…こんな小さいから用途は物入れぐらいだと分かる。けど、どうしてこれを用意したんだ?」


 何故ポーチを用意したのかルスタは首を傾げている。芽衣はマルチポーチからプレゼンを始めた。


「いつも疑問に思っていましたけど、買い物に来る人の大半はマジックバッグの袋を持っていますよね? その中に更に袋があって、そこにお金をジャラジャラ入れてるじゃないですか」


「まぁ袋に金を入れるのは普通だな」


 袋から硬貨を取り出す様子を思い浮かべているのだろう。ルスタは頷く。


「その中から使うお金を取り出すのって難しくありません? 例えば銀貨の物を買うのに、袋を覗いたら銅貨ばかりで探すのが大変とか」


「あ~、それはあるな。中々見つからなくて、結局大量の銅貨で支払うことに…」


 それはルスタにとって銅貨が減って軽くなるだろうが、店側としては大量の銅貨に迷惑してしまうのではないだろうか…。


「例えばこれに銀貨だけを入れて仕分けておいて、今までと同じように銅貨と同じ袋に入れる」


 硬貨袋を想定したビニール袋にポーチを入れる。


「で、銅貨ならそのまま取り出せばいいし、銀貨ならこのポーチから取り出せばいい」


「ほう…分かりやすいな」


 実際に動きを見せながら説明したからか、ルスタとエディルは感心していた。


「他にもお金だけじゃなくて小さな魔石を入れたり、小物を入れたりすることも出来ます」


「…だがマジックバッグ1つあれば、このポーチは必要ないかもしれないな…」


 世間ではマジックバッグに入れたい物を直接入れて使用することが普通なので、芽衣が提案したような分けて使うという方法は誰もしていないという。


(受け入れてもらえるかと思ったんだけどな…)


 ちなみに芽衣は以前からポーチを財布代わりに使ってる。なので、他の人も財布みたいに使って欲しいと思ったのだが、そう上手くはいかないようだ。

 ポーチでダメなら、移動ポケットも受け入れてもらえないかもしれない…と思っていると、エディルが「それは売れます!」と声を上げた。


「マジックバッグは小さな物でもそれなりの金額なので、全員が持っている訳ではありません。なので、食材を買いに行く主婦や子供たちには売れると思います。それに食材を買いに行くのに全財産持って歩くのも…」


 エディルの言葉に芽衣は驚いた。


「え? マジックバッグを使っている人はあそこに全財産入れているんですか?」


 万が一マジックバッグを落としたりしてしまったら…そんな恐ろしいことを考えていると、ルスタは当然だというように頷く。


「本当は銀行に預けるのが一番安心なんだが…まだ一般には銀行が便利だということが伝わっていない。だから家に置いておくよりも自分で持っていた方が安心出来る…って考えなんだ」


(うわっ! だから皆ジャラジャラお金が鳴ってたのか…)


 ようやく大量に硬貨を持っている意味が分かり、芽衣は驚きのあまり目を見開いてしまった。


「え? じゃあ子供がお使いに行く時は…」


 まさか子供に全財産預ける訳じゃないよね!?と心配になっていると、エディルが「マジックバッグは高価ですから、家にある籠を使います」と教えてくれた。


「ですが落としてしまう可能性があるので、これは女性向けになってしまうかもしれませんね」


 詳しく聞いてみると、籠の中に硬貨袋を入れて市場へ行くのだが、途中で走ったり籠を振り回して袋ごと落としてしまったり…ということがあるらしい。


「それだったらポシェットも用意しますか?」


 ポシェットの説明をしながら、その場で子供用に動物の形をした可愛いポシェットを用意すると、エディルが「素敵ですね」と声をかけてくれた。


「…そうだな。これらは色々と使い道がありそうだ」


 ポーチとポシェットを見たルスタは頷き、同じような使い方の移動ポケットの説明もし、2つの商品の販売許可を得ることが出来た。




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