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 冒険者ギルドと同じ大通りにある『ラナイス食堂』という食堂で航太が働いている。

 ここの食堂は航太が働いているからか、常連客たちからは少し変わった美味しい物が食べられると評判の店だ。

 何度か食べに来たことのある食堂だが、今日は夏祭りということでいつもより並んでいる人が多い。


「何を売っているんだろう?」


 店の脇に設置されているテーブルへと近づいて覗いてみると、そこには色々な種類のサンドイッチが並んでいた。


「あれ? 確か去年はサンドイッチだったって聞いたような…」


 夏祭りだからといって、必ずしも新しい商品を売らなくてはいけないという決まりはない。

 そこで売られているサンドイッチ――丸いパンに具が挟まれている物――はどれも美味しそうだった。


「買ってみよう」


 早速列に並び、サンドイッチを全種1つずつ購入する。支払いをしようとした時、食堂から航太が箱を持って出て来た。


「あっ、芽衣さん。来てくれたんだね」


 芽衣に気付いた航太が声をかけてきた。


「こんにちは」


 忙しそうなので簡単に挨拶だけして帰ろうかと思っていたら、航太は持っていた箱から新しいパンを取り出して並べ始めた。そのパンの具材が麺類だと気付いた芽衣は思わず声を出してしまった。


「これは…」


「これは焼きうどんパン。焼きそばがないから、かわりに焼きうどんを挟んだパン」


 そして次に出てきたパンはひき肉とトマト、レタスなどの野菜を挟んだパンだった。


「こっちはタコス風のパン。パンがベチャッとしないようにするのが大変だったんだ」


 パンの説明をしながらも、航太は運んできたパンをどんどんテーブルに並べていく。その間に芽衣は追加で2つのパンを買い、無事支払いを終えた。

 買い物を終えた後、航太と少しだけ話をした。


「凄い売れ行きだね」


 パンを並べた直後にそれらがどんどん売れて行く。


「あの2つは新作だからか、売れ行きがいいんだ。けれど作り終わったらすぐ完売しちゃうから、延々とパンと具材を作り続けなくちゃいけない厨房は大変なんだ」


 航太は苦笑しながら教えてくれた。


「もし時間があるようなら中にもお祭り限定の焼きうどんやタコス風パスタなんかもあるから食べていって」


「それはとっても魅力的だけど、これから屋台販売を始めるから…ごめんなさい」


 焼きうどんもパスタもとても美味しそうだが、昨日の屋台のことを考えると少しでも早く屋台を始めた方がいいかもしれない。


「そっか。それじゃ仕方ないね…。また今度食べに来て」


「ありがとう」


 帰る前に航太にもアンズ飴を数本渡し、急いで家へと戻った。




 家に戻ると、既に数人が販売はまだかと並んで待っていた。


「すみません。すぐに準備しますね」


 本当はお昼過ぎから販売を始める予定だったが、既に並んでいる人たちがいるので急遽販売開始することにした。

 テーブルにアンズ飴と野菜の塩昆布和え、そして昨日は販売しなかったべっ甲飴を手早く並べ、最後にテーブル周りを確認してから声を上げた。


「お待たせしました。ただいまから販売を開始します」


 すると販売を待っていた人たちは喜び、それを見ていた通行人たちも興味を持ったのか、列に並び始めた。

 今日は助っ人の優真がいないので、少し戸惑うこともあった。それでも並んでいる人たちは文句を云うことなく、辛抱強く待ち続けてくれた。

 予想通りアンズ飴は売れ行きが良く、作っていた分は早々に完売した。


「すみません。アンズ飴は完売しました!」


 並んでいる人に向かって大きな声を出すと、後ろの方から「えー」「残念」「もう1回食べてみたかった」などという声が聞こえてきた。


「本当に申し訳ありません!」


 もう一度大きな声で云うと、アンズ飴目当てらしき人たちは列から抜けて行った。

 その後べっ甲飴もなくなり、僅かに残っていた野菜の塩昆布和えも綺麗に完売した。


「全て完売しました。ありがとうございました」


 まだ並んでいる人に向かって頭を下げると、皆残念そうにしながらも足早にその場を去って行った。本来なら文句の一つも云いたいだろうが、屋台や露店販売などは早い者勝ちだという認識があるようなので、売切れたら仕方ない、タイミングが悪かった、と潔く諦めてくれるらしい。これは事前に完売した時のことをルスタに相談したらそう教えてもらったので、間違っていないはず。

 完売後は簡単にテーブル周りを掃除し、2日間お世話になったテーブルを壊す。テーブルを作ってくれたリーシャから「『解除』と云えば壊れるように設定してあるから」と教えてもらったが、本当に壊れるのか半信半疑で「解除」と告げると、一瞬にしてテーブルはボロッと崩れて消えて行った。

 芽衣はテーブルが跡形もなく消えたのを見届けてから家の中に入った。

 真っ直ぐ2階に上がり、コップに注いだアイスコーヒーを一気に飲み干す。


「う~、終わった~!」


 無事夏祭りの販売を終えることが出来、ようやく芽衣はリラックスすることが出来た。2日連続で営業するのは初めてだったので不安もあったが、終わってみれば準備期間も含め、なんだか文化祭のようで楽しかった。


「あともう少しゆっくりしたら夜の散策に行ってみようかな」


 きっと昨日と違う雰囲気になっているかもしれない。そう思った芽衣は簡単な食事をしようと思い、航太のところで買った焼きうどんパンを食べてみることにした。

 取り出した焼きうどんパンはキャベツや人参などの野菜も入っていた。

 早速パンを食べてみると、パンは少し硬めで千切るのが大変だったが、具のうどんは丁度いいコシのある硬さに仕上がっており、硬いパンと食感を楽しむことが出来る。しかもうどん全体に醤油のようなあっさりした味付けがされていた。


「んっ! これは醤油…じゃないよね」


 あっさりした味付けは醤油に似て美味しかった。行儀悪いが、思わずうどんの匂いを嗅いでみる。そしてもう一度うどんを味わうと、醤油よりも強い塩気を感じた。


「これは…魚醤かな? 航太さんも工夫してるな…」


 このパンを考えたのは航太だろう。芽衣は感心しながらも焼きうどんパンをじっくりと味わった。




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