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ビーチサンダルを売り出したことで、王都ではサンダルを履いている人を多く見かけるようになった。ここでも気温が高い日に靴を履くのは苦痛だったのだろう。その口コミ効果でサンダルを買って行く人も増え、営業日は随分忙しくなってしまった。
その季節商品の販売と共に、夏祭りの準備も少しずつ進めていった。
販売物を決めてからは露店で杏と野菜を大量に買い、時間を見つけてはアンズ飴と野菜の塩昆布和えを作っていった。事前準備のおかげでそれぞれ100コ以上のストックが出来た。
「う~ん…流石に作りすぎたかな? でも沢山売れれば嬉しいし、もし売れ残れば後日店で買い物してくれた人にプレゼントしてもいいかもしれない」
作り終えた物はマジックバッグに収納してあるが、野菜の塩昆布和えは夏祭り前日に冷蔵庫に入れて、味を馴染ませるようにする。
着々と準備が進んでいく中、塩昆布和えを販売するのにあたり、あることに気付いた。
「あっ!」
塩昆布和えを販売する際に、器として使い捨ての紙コップを用意していたが、どうやって食べてもらうかまでを考えていなかった。
そこで野菜を簡単に食べられる物があれば…と思い、刺すだけの楊枝のような物を街中で探した。露店で串焼きが売られているので、串も売られているはず…と探していると、やはり竹串のような長い物が売られていたのでそれを買った。これで手を汚さずに簡単に野菜を食べられるはずだ。
店の営業や屋台の準備でそれなりに忙しくしていた芽衣だが、その周囲ではいつの間にか奇妙なことが起こっていた。
それは夏祭りが始まる3週間前ぐらいから徐々に人が集まり始め、まだ当日までには日にちがあるのにも関わらず、王都内はいつも以上に賑やかになっていた。そのため揉め事などが起きないよう、治安維持のため多くの警備兵が街中に配置されていた。
そんな厳重警戒の中、何故か芽衣の店の前で倒れている人たちが多くなった。遠方から来ているので迷子になったのか、それともただ単に飲み疲れてその場で力尽きたのか…。とにかく深夜から明け方にかけて倒れている人が多いらしい。
見回りの警備兵が倒れている人たちをきっちり回収しているそうだが、警備兵から報告を聞くたび、毎回「何故私の家の前で!?」と思っている。
でもその倒れてしまった彼らにはちゃんと理由があり、芽衣が販売している変わった物をどうにか自分のところでも販売できないか?と、他の国や遠方の街に住む商人たちがごっそり商品を盗んでくるよう指示をしているらしい。けれどリーシャの張った防御結界のおかげで、不審者が家の敷地に入ると自動的に防犯魔法が発動される。それによって不審者は容赦ない攻撃を受け、芽衣の家の前で倒れる…ということを繰り返している。
警備兵が芽衣の家付近を巡回しているのも、開店祝いにギストルが模様を刻んでいるのが原因だ。ギストルが刻んだ模様は『王家の加護を受けた店』と警備兵たちに認知されていて、夏祭り前後はその店の周辺を巡回する時間を増やしているらしい。
そういったことを全く知らない芽衣は、毎回倒れている人たちの話を聞いて不思議がっていた。
そしてついに楽しみにしていた夏祭り当日がやって来た。
「さて、今日から2日間は夏祭り。今日は午前中だけお店を開いて、夕方ぐらいからは屋台でアンズ飴と塩昆布和えを販売するから、いつも以上に忙しくなるかな」
初めての夏祭りなので、屋台を始める前までは賑わう王都内を散策してみたい。
「今日も頑張ろう。それじゃ『OPEN』」
ワクワクした気分でドアを解除し、最初の客を待つ。
本日最初の客は他の街からやって来た冒険者だった。
「おはようございます」
「おはようございます。どうぞごゆっくり」
挨拶を交わすと冒険者は早速季節商品の棚へ移動し、じっくりと商品を見ていた。
次にやって来たのは、常連の冒険者たちだった。彼らもサバ缶やインスタントスープを手にした後、季節商品の棚へと移動して行った。
そうして午前中の営業だけでも多くの人が買い物に来て、店を閉める時にはほぼ売り切れ状態だった。
昼食はどうせなら散策しながら食べようと思い、急いで戸締りを済ませて夏祭りでいつも以上に賑わう王都内を散策することにした。
「よし、まずはメイン通りに行ってみよう」
メイン通りは色々なお店があるので、屋台も沢山出ているだろうと思った。人混みの中、移動するのは大変かもしれないが、それもお祭り気分を味わうにはいい場所だろう。
ようやく辿り着いたメイン通りは予想以上に沢山のテーブルが並べられており、食べ物や工芸品などが売られていた。
早速端から順に見て回り、その中で最初に気になったフルーツジュースを注文した。果汁100%らしいフルーツジュースはすっきりとしていて、けれどほんのり甘さを感じて美味しかった。
他の屋台では串焼きや手作りパンなどが売られており、どれも美味しそうだった。その美味しそうだと思った物を次々と買って、タッパー型の保存容器や食材を入れるための専用保存袋に入れてからマジックバッグにしまった。
工芸品も魔物の素材を加工した置物やアクセサリーなどが並んでおり、1つずつ丁寧に作られたそれらを見て行くのが楽しかった。
時間を忘れてあちこち歩き回り、気付いたら夕方近くになっていたので、慌てて家へ戻る。
屋台用のテーブルは土魔法がまだ上手く使えないので、商業ギルドに依頼しようと思っていたが、どこからか芽衣が屋台を出すことを聞いたリーシャが数日前にやって来て、芽衣の意見を聞きながら立派なカウンターテーブルを作ってくれた。
「こういう感じにしたいんですけど…難しいですか?」
「それは今までやったことがないね。益々やる気が出てきたよ」
説明を聞いたリーシャはニコッと笑い、魔法を発動させた。
そうして芽衣の指示通りに作られたテーブルの下には段があり、そこにマジックバッグやお金などを置くスペースが出来た。
作ってもらったことへのお礼ではないが、リーシャには販売するアンズ飴と塩昆布和えを何個か渡した。リーシャ邸の皆で食べてもらえたら嬉しいということも伝えたので、イルナやトランたちにも行き渡るだろう。
そうして作ってもらった立派なカウンターにせっせと商品を並べていく。作った物全部は並べられないので置けるだけ置き、足りなくなればマジックバッグから取り出し、それをまた並べていけばいい。なので作業はとても早く終わる。
そろそろ屋台を始めようかと背筋を伸ばした時、遠くからこちらに向かってくる自転車が見えた。
「芽衣さん!」
「優真くん」
芽衣の店の前で止まった優真は、自転車を店のドア付近に置いた。
「遅くなっちゃいましたが、手伝いに来ました」
ニコッと笑う優真。
初めて会った時は人見知りが激しかったのか、素っ気無い感じだったが、何度か会う度にようやく気を許してくれるようになった。
「…本当にいいの?」
以前、芽衣が屋台を出すなら手伝うと云ってくれた優真は、芽衣が屋台を出すことを聞いて手伝いに来てくれたようだ。
「はい、俺は朝から祭りの雰囲気を楽しんできたんで。今日は芽衣さんの力になるため、一生懸命お手伝いします」
ニコッと笑う優真に芽衣は深々と頭を下げる。
「…ありがとう」
「いっぱい売れるように頑張りましょう!」
「うん!」
初めて見るアンズ飴と塩昆布和えに一時行列が出来たが、優真が手伝ってくれたこともあり混乱することなく、スムーズに販売することが出来た。
ようやく夏祭り本番です。暫らく夏祭りのお話が続きます
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タッパー型保存容器に変更




