30 ギストル 視点
芽衣がリーシャの家の料理人たちにレシピを教えると聞き、それが一体どんな料理なのか気になって突撃訪問してみたら、リーシャとソマリに随分怒られた。これは約束もなしに訪ねたギストルが悪いので仕方ない。
料理人たちは突然増えた訪問客に対して悪態を吐くことなく、楽しそうに料理を作ってくれたらしい。
目の前に並べられた料理を食べてみると、どれも美味しかった。そこでこの料理について芽衣に聞いてみると、教えたレシピはこの料理以外にまだあるらしい。しかもアレンジ方法も料理人たちに教えているので、食材を変えるだけで何通りか出来るとのこと。
これは是非城の料理人たちにもそのレシピを教えて欲しいと伝えると、話を聞いていた芽衣は困惑していた。
「えっと…」
困った顔をしている芽衣に気付いたリーシャから、「トランたちでよければ明日の午後にでも城へ向かわせるけど?」と云われてから気付いた。
例えギストルが許可していても、一般人である芽衣が城内にいるのを目ざとく見つけた貴族たちは、絶対に上から目線で説教を始めるだろう。貴族全員がそのような酷い対応をすることはないが、一部虚勢を張って偉そうにしている連中もいる。万が一、そんな貴族たちに見つかり、心無いことを延々と云われて芽衣が傷ついてしまったら…と思うと、それ以上何も云えなくなった。
そうしてリーシャの提案通り、トランたちにも話をつけ、料理を教えてもらうことを約束してもらった。
食事の後は用意されたお茶を飲みながらユイオン内での料理について話していると、芽衣から「もっと色々な調味料があれば」という声が出た。
確かに使う調味料1つ違うだけで味が変わってくる。それはギストルも分かっている。けれどどうしても他国から仕入れているため、輸送費や人件費などがかかってしまい、それらを国内で販売するとなるとどうしても高くなってしまう。そのため比較的大量に仕入れている塩やコショウを使った料理が多い。
輸送などのことで悩んでいると、更に芽衣から「ハーブや塩を作ってみては?」と云われた。
(!)
確かに今までは他国から仕入れることばかり考えていて、国内で作ろうとする動きはなかった。過去に何か作れないかと模索していたというような記録はあったが、現在も仕入れてばかりいるということは計画は頓挫したのだろう。
芽衣からハーブの栽培や塩の作り方を聞いたギストルは、とりあえず一度試してみる価値はあると思った。何故なら、成功すれば美味しい物が増えるからだ。
けれど塩は他国から仕入れている状況なので、もしユイオンで塩作りが成功したとしても、それを他国で売るのは難しい。
そんな状況を打破するように、芽衣は塩とハーブを混ぜ合わせたハーブ塩という物を教えてくれた。
初めて聞くハーブ塩とやらは、料理や美容関連などでも使えるらしい。それならば新しい商品として他国に売り出すことも出来るだろう。早速大臣たちを集めて話をしようと、城に戻ったギストルは明日の朝に会議を開くことを伝えた。
翌朝の会議で芽衣から聞いたハーブの栽培と塩作りについて話をした。最初はギストルが何を話すのか不安だったらしい重役たちは、ギストルから「調味料を自分たちで作れないか?」という話に随分驚いていた。
よく使う塩は他国から仕入れているが、それを自分たちでも作れないかと他国に探りを入れてみたが、詳しい話は分からずじまいだった。辛うじて採掘所から塩が採れるという話を聞いていたらしいが、ユイオンには塩の採掘所がないため断念していた。
そんな中、ギストルからの調味料作りの話に重役たちは驚いていた。
「しかしその方法で本当に調味料が増えるのでしょうか?」
一人の重役が不安そうな声を出す。
「けれど今までそれを試したことはない。ハーブの栽培なら費用がそんなにかからないので、試してみてもいいのでは?」
「塩を作るのには費用と時間が随分かかりますね…」
「製作する人をどう集めるか…」
重役たちはギストルの話を聞いて、控えめだが率直に思ったことを口にした。そこへギストルの補佐である大臣が声を上げた。
「確かに我が国では調味料を作っていない。それを一から始めるのだから、時間と費用がかかるのは仕方ない」
「…」
「王自らがこのような貴重な情報を手に入れて下さったので、私は一度試してみる価値はあると思います」
大臣の静かな声に他の重役たちも考え始めた。
「そうですな。最初は小規模で試してみて、それが成功すれば規模を大きくしてもいいのでは?」
「ハーブの採取は森へ狩りに行く冒険者ギルドに依頼してみては? 報酬金は低くて申し訳ないが、狩りのついでに採取してきてくれるかもしれない」
「塩は少人数で実験してみましょう」
どんどん意見が出てきて、それらを詳細にまとめていく。
重役たちの話を聞きながら、ハーブ塩のことを思い出したが、今は栽培などを成功させることが優先なので、それはまた落ち着いた頃に話そうと決めた。
そうしてハーブと塩を一度試してみよう、ということになった。
まずハーブの栽培。これは冒険者ギルドに採取の依頼をし、それを実験的に栽培してみる。もし成功するようなら、ユイオン内の全ギルドに採取依頼をしたり、栽培してくれそうな村に交渉したりする。
塩作りはギストルが大まかな作り方を説明していたので、それを実行してみる。塩が完成するまで時間はかかるが、最初は説明通りに試してみることにした。その後実際に作ってみて、もう少し改良する部分があればその都度試して、より作りやすい塩作りを試してみることとなった。
「それでは早速冒険者ギルドへの依頼と、ハーブ栽培で土地を貸してくれそうな農村への交渉、港町付近の土地を使用する書類の作成を。全て了承を得次第、いつでも動き始められるように準備だけしておくように」
「はい」
大臣の声で重役たちはそれぞれの仕事に取り掛かった。
重役たちが部屋を去って行った後、ギストルは大臣と話をした。
「それにしても突然会議と云われて驚きましたが…まさか調味料を作るとは…」
「メイがもっと調味料があれば、作れる料理が増えると云っていたからな」
「…」
大臣はギストルが城で出される料理に飽きていることを知っている。なので異世界からやって来た芽衣の話に飛びついたのだと思った。
「なんとか成功させたいですね」
「ああ。…そういえばメイからハーブの種をもらった。これを庭園にでも植えて俺たちも様子を見てみるか?」
芽衣からもらった種を大臣に渡す。
「…そうですね、半分は庭園に。残りの半分は栽培に協力してくれる農村へ渡しましょう」
大臣はギストルから受け取った袋を大事にしまう。
後日、王宮の庭園の一部に関係者以外立ち入り禁止と書かれた立て札が設置され、そこでは珍しいハーブを大事に育てているということを極一部の人しか知らされていなかった。




