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商業ギルドから戻ってくると、家の前でリーシャとイルナが待っていた。
「おかえりメイちゃん」
ニコッと笑顔で声をかけられ、芽衣は慌てて家へと走る。
「今日はどうしたんですか?」
特に会う約束もしていないので、二人揃って芽衣の家に来ているのが不思議だった。
「ほら、この間魔物と戦ったでしょ? その時の肉を持ってきたんだよ」
「そういえば…」
大きな鳥を倒した時にリーシャが素材云々とそんなことを云っていた。どうやらそれらを届けに来てくれたようだ。
「ありがとうございます。今鍵を開けますから」
芽衣はドアに向かって「解除」と口にすると、すぐに店の中に二人を招きいれた。
「どうぞ」
二人を案内したのは応接室。素材の受け渡しやお茶ぐらいならここでも大丈夫なはずだ。
「今お茶を用意しますから」
そう告げて簡易キッチンで湯を沸かし、その間に100円ショップで売られている紅茶のティーバッグを用意する。お湯が出来たらカップを温め、温かくなったら新しいお湯とティーバッグを入れて1分程放置し、色が出てきたタイミングでティーバッグを捨てた。
「お待たせしました」
今日はアップルティーを用意した。ふんわりと林檎のいい香りが漂ってくる。
リーシャとイルナの前にカップを置き、芽衣は対面に座る。
「ありがとう」
「いい匂いですね」
二人はアップルティーを楽しそうに飲んでいた。
「それで、魔物の素材のことなんだけど」
紅茶を飲んで落ち着いたのか、リーシャが話し始めた。
「お肉とか素材でしたっけ?」
「そう。それで一応解体してもらった物は全部受け取ってきたんだけど、それの確認をしてもらいたいんだ」
「? 私が倒したのは鳥だけですよ?」
鳥の素材といっても、表面は焦げているので、肉しかないだろうと思っている。
「何云ってるの? レッドボアの分もあるよ」
てっきり芽衣が倒した大きな鳥の肉だけを受け取るのかと思っていたら、どうやらレッドボアもきっちり残してくれているらしい。
レッドボアはリーシャが倒したので、味見程度にそのお肉を少し譲って貰えないかな…と思っていたので、その話を聞いて芽衣は驚いた。
「え? でもレッドボアを倒したのはリーシャさんだから、レッドボアの分はリーシャさんの物になるんじゃないんですか?」
最後に止めを刺した人の物になると思っていたので、芽衣にも権利があると云われてとても驚いた。
「他の人…冒険者たちがどうかは分からないけれど、メイちゃんは逃げずに頑張って魔法を何度も放ったじゃないか。それに最終的にメイちゃんに何も云わずに魔法を放ったのは僕なんだから、それって他から見たら横取りと同じだよね?」
「…」
芽衣が危険だということで咄嗟に助けてくれたが、他の人ならば確かにそう思われる可能性もある。
「それにあの肉を消費するのも大変だし、少し手伝ってもらいたいんだ」
確かに倒したレッドボアは立派だった。
「それでこれがレッドボアの肉」
マジックバッグから氷付けにした大きなレッドボアの肉を取り出し、隣にいるイルナに手渡す。
出て来た肉は芽衣の肩幅ぐらいの…両手を使わないと持てない大きさだった。それを見て芽衣は慌てて紅茶を移動させ、テーブルを片付けた。
「イルナさん、良かったらここへ」
「ありがとうございます」
イルナは早速テーブルの上にレッドボアの肉を置く。
(これは数人で食べる量だ)
実際にレッドボアの肉を見ると、確かに消費するのは大変そうだ。
「あとは牙と毛皮ぐらいかな。メイちゃんが倒した鳥…グラスバードは肉だけだけど」
大きな鳥はグラスバードという名前らしい。
それらもマジックバッグから取り出し、テーブルの上に並べる。
こっそりレッドボアを鑑定してみると、『程よく運動しているので豚肉よりあっさり』という結果が出ていた。
こんなに大きな肉があるのなら、生姜焼きやポークソテー、ミンチにしてハンバーグや肉団子、薄切りにしてしゃぶしゃぶなんかもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、リーシャが声をかけてきた。
「それでグラスバードは丸々メイちゃんの物。レッドボアの肉は3分の1の大きさにして持ってきたけど、それでいいかな?」
「え?」
レッドボアの肉を貰えるのなら、グラスバードの肉も半分にするべきでは? その前にレッドボアの肉を3分の1というのは貰いすぎだ。
「えっとこれで3分の1なんですよね? 貰いすぎなんですけど…」
「でもメイちゃんもちゃんと攻撃したんだから、これぐらいは貰う権利があるよ?」
「それでも私は独りなので、そんなに沢山あっても…。それにレッドボアの肉を貰えるのなら、グラスバードの肉も半分にするべきでは?」
そう云うと、イルナが申し訳なさそうな顔をして話始めた。
「もしメイ様のお時間があれば、このレッドボアの肉を使ったレシピを教えていただきたいのですが…」
「え?」
「普段はこのまま焼いて、塩を振りかけて食べているのですが、毎回そればかりだと飽きてしまって…。それにこの倍量ですし、何日同じ料理が続くかと…」
「…」
確かにずっと同じ料理だと飽きてしまう。
「…でも私もそんなに詳しく知りませんよ?」
家で料理の手伝いはしていたが、完璧な作り方は覚えていない。所々アレンジしたり、こんな風だったような…という物しか作れない。
「それでも是非お願いします!」
イルナに懇願され、どうしようかな…と悩んでしまう。もし航太のような料理人ならばちゃんとしたレシピを教えられるだろう。けれど芽衣の料理は食べられればいいや、という物なのだ。
芽衣が困っていると、リーシャも「この間の料理も美味しかったし、またメイちゃんの料理が食べたいな」と云ってきた。
「…分かりました。そのかわり、口に合わなくても責任は取りませんからね」
料理のプロではないので、文句を云われても困る。
「大丈夫。メイちゃんの料理は全部僕かソマリが食べちゃうから」
「ありがとうございます」
料理はイルナの希望でリーシャの屋敷で作ることになった。なんでも料理人も芽衣の調理工程を学びたいと云ってきたとか。
「それじゃ今から行こうか」
「え?」
急に押しかけて料理人も大丈夫なのか?と思っていたら、どうやら連れて来ると話をしていたらしい。
芽衣が戸惑っていると、リーシャとイルナにやや強引に外へ連れ出され、どう調理するか悩んでいる間にリーシャの屋敷に着いていた。




