殿
12月中旬辺りから、全文章のリメイクを考えております。
「あの二将軍が敗れただと!?」
曹操が珍しく声を荒らげる。
俺の記憶でも、あの二人は漢王朝最後の名将と言ってもいい人物だったはずだ。史実とは違う組み合わせとはいえ、そう容易に敗れる二人ではない。
だが、敗れていないのならここに張梁軍がいるはずはない。
その事実は、あまりにも雄弁に、二人の敗北を物語っていた。
形勢の逆転を見て、劉備は全軍に指示を出す。
「撤退だ!これから先は生き残ることだけ考えろ!」
その一言を待っていたかのように、全軍が敗走を開始する。
最も前線にいたのは曹操の隊だが、流石に反転も早かった。敵軍に一撃を加えて怯ませた所を離脱したのだ。
俺達は、生きるために死ぬ気で後ろに突っ走ったが、追撃の疲れと、迫り来る死の恐怖が俺たちの足を鈍らせた。
張宝の軍を立て直すのと、曹操の一撃や迅速な離脱のおかげで俺たちの軍と張梁、張宝軍とは距離があると言っても、このままではいずれ追いつかれる。
ここに来て、劉備軍と合流した曹操が、意を決して劉備に言った。
「玄徳殿。このままでは、我々は追いつかれて全滅するぞ。」
「わかってる!けど、どうすりゃいいんだ!」
「誰かを殿に置いて、敵を足止めするのだ。それしか手段は・・・ない」
「んなことできるか!」
「できないなら全滅するだけだ!」
劉備と曹操は、馬上で言い争いをしている。
誰も犠牲にしたくない。劉備も曹操もその想いは同じだった。
だが、今から全軍を取って返したところで、数も士気も圧倒的にあちらが上ではどうしようもないのが現実だ。
曹操は現実を見、劉備は理想を守るために足掻いていた。
俺も、劉備に向かって叫んだ。
「玄さん!俺だ!俺を殿にしろ!」
今、共に逃げている仲間達は、誰が死んでも歴史に大きすぎる影響が出る。張飛がここで死ねば、長板で劉備の命運は尽きる。
長生も、武器と本人の性格からして後に軍神とまで言われるあの男だろう。彼も劉備の天下のために、絶対に失えない。
史実では加わらなかった劉徳然もいる。俺の代わりは、彼が務めてくれるだろう。
そこまで考えて反転しようとした瞬間、劉備の悲痛な声が聞こえてきた。
「駄目だ!お前だけは駄目だ!」
「じゃあどうすんだ!ここで皆犠牲にするのか!」
「ぐっ、何とか、何とかならねえのか!」
「私が残ります。」
その時、名乗りを上げたのは劉徳然であった。
「今、生き残れる可能性が一番高いのは私です。玄徳兄、どうか私を殿に。」
「駄目だ!徳然も駄目だ!」
「・・・御免!」
劉徳然は、劉備の制止も聞かずに後ろに駆け出した。
「殿として残る!忠義あるものは、私についてきてくれ!」
劉徳然には田豫と、旅立ちから付き従ってきた護衛達や、かつて劉徳然の部隊にいたもの達の多くがついて行った。
「玄徳兄!どうかご無事で!!」
「徳然!戻ってきてくれ!」
劉備は本気で引き返そうとして曹操に止められていた。
俺も後を追おうとしたが、目で制されてしまった。
劉徳然の決断のおかげで、俺達は一日かけて無事に谷を通り抜け、元の陣地に戻ってくることができた。
だが、いくら待っても、最愛の弟弟子は帰ってくることは無かったのである。
陣地についた翌朝、傷だらけの田豫が帰ってきた。生存者は彼だけとの事だった。
劉徳然が生きているという望みは、これで断たれてしまった。
劉備は、声も出さず、ただ涙を流してそこに崩れ落ちた。
俺たちも、あまりのことに現実を受け入れられなかった。
だが、田豫だけは違った。あの時、俺たちと出会った瞬間のような強い意志を目にたたえ、話を続けた。
「私は、語り残さなければなりません。どうか、お聞きください。劉徳然様の、最期を。」




