逆転
夜があける直前、俺達は動き出した。
長生を初めとする、腕に覚えのある精鋭たちを選りすぐった部隊を崖の上にのぼらせる。
張飛と、それを守るため頑丈な大盾を装備した兵達を俺が率いて正面に、その後ろに敵の混乱を突くための曹操の騎馬部隊、その後ろに劉備率いる歩兵部隊が布陣している。劉徳然と田豫は、劉備のすぐ側に控えて全体を見ている。
完全に配置を終えた頃、夜が明けた。既に、崖の向こうに敵兵が見える。
張飛が、大きく息を吸った。
「「黄巾族ども!!!劉備軍が、お前達を蹴散らしに来てやったぞ!!!」」
凄まじい大喝に、敵がにわかに慌てているのが見える。
にしても、凄まじい大声だ。張宝は術で増幅しているが、張飛は素でこれだから恐ろしい。
すると、敵の真ん中から道士があらわれた。張宝だ。
「「漢の犬め、性懲りも無くやってきおったか!我らの矢で退散させてやろう!放て!」」
「よし、今だ!益徳の前に出るぞ!」
飛んでくる矢を大盾で防ぐ。衝撃が伝わってくるが、万一のこともないように二重にしてあるので問題ない。鬼のように重いという欠点こそあるが。
「「どうしたどうした!そんなとこからビクビク矢を射るだけか!?見掛け倒しの腐れ道士め!」」
張飛は、あまり学が無いはずなのだが挑発にかけては天下一品である。
「「何だと・・・!?この地公将軍を愚弄するか!よかろう!者共、蹂躙してやれ!!」」
「「それでこそだ!迎え撃つぞ!!」」
張飛は蛇矛を構える。敵が谷の中頃まで来た時、長生率いる敵兵が姿を現した。
「敵は計にかかったぞ!ありったけの矢を食らわせてやれい!」
長生自身も弓を持ち、敵兵に射掛ける。突然のことに、敵軍は戻るもの、先に進もうとするもので乱れ始める。
戦闘経験も訓練もないと、こういう時に自己判断で動いてしまいやすい。
「今だ、孟徳殿!」
「わかってる!突っ込むぞ!」
曹操率いる騎馬隊が敵を切り裂く。曹操は味方の真ん中で指揮をとり、騎馬兵を導いていく。その動きは一体で、まるで龍のようだった。
続いて、入れ替わりで歩兵の指揮に加わった張飛と劉備の歩兵も突撃。先鋒は俺だ。
(徳然、見ていろ!お前の不安、必ず拭ってやる!)
槍をふるって敵を倒し、時に追い回し、ついに谷を突破することに成功した。
士気も練度もこっちが圧倒的に上。負ける要素などない。
「者共、鎮まれ!くそっ、このままでは・・・」
張宝の声が聞こえた。やはり条件が揃わないとあの大声は出せないか。
「そこだっ!」
声の聞こえた方に劉備が矢を放つ。矢は張宝の足に命中した。
「ぐっ!」
張宝は、懐にあった何かを口に入れ、
「「撤退だ!全軍撤退せよ!」」
と叫んだ。同時に敵軍は後ろを向き、撤退を始める。
それは、俺達の追撃戦開幕の合図でもあった。
「よし!敵を追撃する!」
劉備が駆けようとした瞬間、徳然が大声を出した。
「玄徳兄、そこまでの深追いは必要ありません!どうか踏みとどまってください!」
劉備は振り向いた。
「今を逃したら、次の好機がいつ来るかわからんぞ!」
「それはそう、それはそうですが・・・!」
「大丈夫だ、見てろ!全軍突撃だ!張宝を討ち取れ!」
崖の上にいた長生の部隊も降りてきて、全軍での追撃が始まった。
そのまま何時間も撤退する敵を追い回し、散々に敵を打ち破った。
そうして夜更け頃まで戦っていると、逃げる敵軍の向こうに軍勢が現れた。大軍である。
旗は・・・黄色。まさか。
「人公将軍、張梁である!朱儁、皇甫嵩が軍を打ち破り、兄上の加勢に参った!!」
主力を率いた朱儁、皇甫嵩の部隊が敗れた。その報は、俺達の士気を急激に下げるのに十分すぎるほど絶望的なものだった。
「全軍、掛かれ!漢の犬共を推し潰せえ!」
張梁の号令で、敵軍はこちらに反撃を開始する。
勝利の勢いに酔っていた俺達の足は止められてしまった。
さらに、潰走状態だった張宝軍も、反転して攻撃を加えてきた。
形勢が逆転した瞬間であった。




