初陣前夜
黄巾の乱の勃発寸前、劉備らは義勇軍として、鄒靖殿の軍に加わることになっていた。
表立って褒賞は出せないので、将校との繋がりを作ってやろう、という意図であろうか。
任地に赴く前に、俺達はそれぞれ装備を整えることにした。
洛陽からついてくるのは500人。張正平ら商人の援助があるとはいえ、さすがに全て揃えるのは難しかった。だが、致命傷を防ぐための最低限の装備と、将にあたる劉備ら5人と、騎馬隊分の馬はなんとかなった。
特に長生、張飛は力が強すぎて、普通の武器なら一撃でダメになってしまうため、特注の武器を作ることになった。
長生は、実家が鍛冶屋だったとかで洛陽の鍛冶屋と協力し、武器、防具作りに奔走してくれた。防具をある程度揃えられたのは、長生の力によるところも大きい。
そんな中で、長生は仲良くなった鍛冶屋の親父と共に、自分の力に耐えられる武器作りに励み、最終的に出来上がった最高傑作に「青龍偃月刀」と名付け、自らの武器にした。
刃が分厚く、凄まじく重い。長生の怪力に耐え、かつ相手を叩き斬る業物である。
張飛はと言うと、あの件以来すっかり付き合いの深くなった豚肉屋の店主の伝手で名工を紹介してもらい、自分の注文通りの、刃が複雑に曲がった槍を手に入れた。人はそれを「蛇矛」と呼んだ。
同じく張飛の怪力に耐えられる上、切れ味抜群の武器である。
劉備はというと、張正平が昔手に入れたという、名もなき達人の剣を譲り受け、劉邦の剣と合わせて「雌雄一対の剣」となった。
簡雍は少し高級な剣と槍、鎧を貰った。業物など持てるほどの腕はないと自覚していたのでこれでも満足である。
装備を揃えた頃、黄巾の乱が勃発した。各地の官軍が必死で対応しているようだ。
校尉の鄒靖殿より要請があり、劉備軍も即座に任地に向かった。
洛陽を出る彼らを見送ったのは、今まで助けてきた洛陽の人達であった。
「玄徳殿ー!美味しいご飯作って待ってるから、またいつか遊びにおいでよー!」
「張飛ー!また飲もうなー!」
「長生さん!また勉強を教えてくださいね!」
「簡雍!頑張れよー!!」
「徳然ちゃん!怪我だけはしないようにねー!」
それぞれ、暖かい声援を受ける。
ああ、俺達はこんなにも洛陽の人々に愛してもらっていたのか。洛陽に残ることになった仲間達も、目に涙を浮かべながら手を振っている。
いよいよ、太平道との戦いが始まる。これからが正念場だ。
手綱を握る手に、自然と力が入った。
任地に着くと、校尉の鄒靖が陣幕の外に出て待っていた。
「劉備殿だな!話は聞いている、校尉の鄒靖だ。」
年齢は30代前後で、将軍らしく逞しい体躯をしている。
「この度はよく来てくれた。戦中故ささやかではあるが宴を用意してある。話はそこでさせてくれ。」
陣幕に案内され、義勇軍は料理を楽しんだ。
簡雍はここで久しぶりに米を食べた。美味い。中国人に生まれ変わっているとはいえ、中身は日本人である。米がとてつもなく美味しく感じるのであった。
料理が進んできたところで、鄒靖が話を切り出した。
「今、我々が対峙しているのは、太平道の将軍・程遠志だ。随分前から決起の用意をしていたと見え、随分と装備もしっかりしていて、中々崩せない状況にある。」
(程遠志、か。俺の記憶だと、劉備の最初の相手だったな。)
「そこで、新しくやって来てくれた貴公らに、先鋒をお願いしたい。できるかな?」
劉備は自分たちの役割が先鋒と聞くと、一瞬目が鋭い光を放ったが、すぐに柔和な表情に戻った。
(最も危険な役じゃねえか。使い捨てにしようって魂胆だな。)
鄒靖の意図を的確に見抜いたのだった。
「わかりました。」
だが、劉備は感情を表には出さず、真顔のまま了承した。
「おお、それは助かる。では、明日にでも攻勢をかけよう。兵たちをよく休ませておいてくれ。それでは。」
鄒靖は、そのまま席を立ってしまった。
簡雍は、沈黙に耐えられずに話し始めた。
「・・・玄さん、あいつ、俺達を捨て駒にするつもりだぜ」
「わかっている。しかし、断る訳にもいかないだろ」
この宴会も、無茶な要望を聞き入れさせるために用意したものだ。
自ら志願した義勇軍である彼らに、敵前逃亡は許されない。それがわかっていてこの要求とは、鄒靖は中々食えない男のようだ。
「ま、早速活躍の機会を得たと思えばいいさ。すぐに軍議をはじめるから、皆を呼んでくれ。」
「わかった。」
仲間達を呼び、軍議を行った。
先頭は張飛。次鋒は長生。中堅が簡雍と劉徳然で、最後に劉備だ。
「よし!一先ず今日は寝て、明日の戦いに備えろ!俺達の第一歩だ、必ず勝つぞ!」
「おう!」
義勇軍は初陣の緊張感の中、眠りについた。




