決死
太陽が闇夜を照らし始める頃、俺達は目を覚ました。いよいよだ。
作戦はこうだ。
俺達は寡兵。鄒靖は、俺達を敵を崩すために使い、見捨てるつもりと思われる。
救援が見込めない中で俺達が生き残るには、敵将を討ち取るしかない。
そこで、張飛を先頭に据えて全軍で敵将目がけて突っ込む。
敵軍は約5万。対してこちらは500人。何人が生き残れるか分からない、捨て身の作戦だ。
「一人で100人倒しゃいけるんだろ?楽勝じゃねえか」
「「お前基準で考えるな!」」
張飛が素っ頓狂な意見を述べ、長生と劉備に突っ込まれていた。いつもと変わらない風景に、仲間たちの心は一時、和んだ。
劉備が、俺たちの方を向く。
「俺達が生き残れる道は、前にしかない!皆、必ず生き残れ!そして、俺と一緒に平和な世を見るんだ!」
「「おう!!」」
わずか500人。決死の作戦が幕を開ける。
張飛と長生の脇を、馬に乗れる数人が固めた。
陣形が構築し終わった頃、太陽は高く登っていた。敵が目の前に見える。
この太陽が沈んだ頃、自分は生きているかわからないのだ。戦闘が始まる前の、気を抜けば消し飛ばされそうな緊張感があたりを包んでいった。
「行くぞ!」
静寂を突き破ったのは、張飛の大喝だった。
雄叫びをあげながら、猛然と敵に突っ込んでいく。
「グオオオオオ!」
凄まじい張飛の大喝に、先頭で槍を構えた敵兵が一瞬怯んだ。
その勢いのまま、張飛は敵兵をはねとばす。その直後、体制を整えようとする敵兵を長生が切り裂いた。
「程遠志!!どこだぁ!出て来やがれ!」
「我は長生!腕に覚えのあるものはかかってこい!」
5万もの敵兵の中で、長生と張飛は必死で奮闘している。
次は俺たちの番。
「徳然、行くぞ!」
「はい!」
先鋒の後を追い、仲間たちと共に敵陣に突撃する。こちらは歩兵だが、槍衾の迎撃は張飛たちのおかげで受けずに済んだ。
「死ぬわけに・・・行かねえんだよ!」
先日の戦いとは桁が違った。斬っても斬っても、敵が右に左にあらわれる。
目の前の敵を斬れば、すぐに新たな敵があらわれる。
右の敵兵を斬り、左の敵兵を槍でついた。大きく開いてしまった胴体に、敵の刃が迫ってきた。
「くそっ!」
「危ない!」
鋭い金属音。
「このおっ!」
徳然だ。彼が俺をかばい、切り返してくれたのだ。
「憲和殿、ご無事ですか!」
「ああ!ありがとな!」
このまま敵に翻弄され続けていては、どんどん先に行く長生達に追いつけなくなってしまう。それは即ち、俺達の死を意味していた。
なら、前だけ見ればいい。
「皆!敵に囲まれることを恐れるな!前だけ見て突き進め!」
「おう!」
振り向いた刹那、馬元義の館に共に突入した仲間が倒れているのが目に入った。感傷に浸る暇はない。すまん!即座に前を向き、俺は敵に突っ込んだ。
「「りゃああああ!」」
俺達は眼前の敵を跳ね除け、前に向かって走り出した。
敵を見る眼を、振り下ろされる剣の音を聴く耳を。全ての感覚を振り絞り、全身に力を込めて剣を振り抜く。
そうして、俺達は釘を木に打ち込むように、敵陣深く突き刺さるような陣形となった。
俺たちの通った後に残ったのは、敵軍の屍だけだった。
敵が俺たちに恐れをなし始めた、その瞬間。
「行くぞぉぉぉ!!」
最後の劉備隊。俺達の中でも選りすぐりの精鋭で編成された部隊が飛び込んだ。
複数人で小さな部隊を作り、敵陣に飛び込む。
劉備らは敵の肩に足をのせ、次から次へと敵の間を飛び回って陣を撹乱した。
「兄貴が来たか!ならそろそろ本気で行くぞ!」
張飛はより一層大きな声を上げ、馬を加速させる。長生は、張飛が打ち漏らした敵を仕留めていく。
その後、敵が長生達の背後を塞ぐ前に、俺達が続く。
敵軍はいよいよ混乱した。長生らの刃から逃れようと逃げる者、立ち向かおうとするものが入り乱れ、陣形はすでに保たれていない。
目指すは程遠志。どこだ、どこにいる。
敵を切り裂く。剣を突き刺す。右に剣を振り抜き、返す刀で左の敵を薙ぎ払った。
それでも届かない。程遠志は姿すら見せない。
体が限界を迎えかけた刹那、後ろから声があがった。
「敵が乱れたぞ!全軍突撃!」
官軍だ。鄒靖が動いたのだ。
予想外の援軍に、俺達は活力を取り戻す。
「よし!これで勝てるぞ!」
戦場はにわかに乱戦となった。
お互いの陣形は崩れ、個人の武勇がものを言う。
俺たちだけは陣形を崩さず、そのまま敵陣深くに切り込んだ。
瞬間、敵を縦横無尽に切り裂いていた張飛の蛇矛が受け止められた。
「貴様ら・・・!好き勝手やってくれおったな。」
「お前が程遠志か!俺は張飛!相手しやがれ!」
「よかろう!匹夫め、私に挑んだことを後悔するがいい!」
二人は距離を取ったと思うと、お互いに雄叫びをあげながら迫った。
すれ違いざま、程遠志の首は宙を舞った。張飛が勝ったのだ。
「敵将、程遠志!討ち取ったりいいいい!!!」
「「うおおおおお!!!」」
総大将が討たれたことを知り、太平道の信徒達は勢いを失った。彼らが官軍に飲みこまれるのに、そう時間はかからなかった。
「勝ったぞ!」
劉備が大声をあげる。
「「おおおおお!!」」
俺達も、天に向かって雄叫びをあげる。
既に太陽は傾き、星が俺達の勝利を祝うように瞬いていた。




