黄巾の乱、勃発
目をつぶってから数秒が経った。簡雍はまだ生きている。
不思議に思い、おそるおそる目を開けた。
そこには、頼もしい親友の背中があった。
「よくやったな!憲和!」
「玄さん!」
劉備が、あれほど大きな風の刃を防いだのだ。
「憲和殿、よくぞ耐えてくれた」
「中々やるじゃねえか。見直したぜ!」
長生と張飛も駆けつけてくれている。
「間に合って良かった!」
(お前は本当に頼りになるやつだよ、徳然。)
言葉にはならなかった。
「ば、馬鹿な・・・どうやって防いだ!?」
劉備はニヤリと笑った。
「俺のこの剣にゃ、先祖代々の想いの力が込められててな。お前のまやかしなんぞ、効きゃしねえんだよ!」
「・・・ならばっ!!」
馬元義は、長生と張飛にも刃を飛ばす。だが、二人は素手でそれを打ち消した。
「何だあ?そよ風か?」
「義を失った人間の刃など、この長生には届かぬぞ!」
規格外の二人の強さを目の当たりにし、簡雍は驚きとともに大きな安堵を覚えた。
「お前ら!こいつらは俺達の仲間を殺ろうとしやがった!容赦はいらねえ!存分に叩き潰せ!」
「「「おう!!!」」」
長生と張飛が一気に敵を吹き飛ばせば、仲間達がトドメを刺す。
劉備に襲いかかってきた敵も、一瞬で武器ごと叩き切られていた。
張飛と長生の戦い方が鬼神のそれなら、劉備は舞を舞っているようだった。
数も将の強さも逆転し、10分も経たないうちに、敵方に残っているのは馬元義だけになっていた。
劉備は、剣を抜いたまま、馬元義に近寄った。
「な、なんだお前らは・・・こんなヤツらがいるなんて、聞いてないぞ・・・」
「じゃあ聞かせてやる。俺の名は劉備玄徳。中山靖王の末裔で、漢王朝を救う者だ。」
「漢王朝を・・・?フッ、できるものなら、やってみるがいい。」
「おうよ。あの世から見てろ。」
劉備の剣はそのまま馬元義の腹を貫き、馬元義は意識を手放した。
「・・・止め、刺さないのかい?」
「ああ。あとは朝廷に任せるさ。連絡は済んでるしな。」
気を失った馬元義を縛り、俺達はその場を去った。
外に出て、仲間の安否を確認した。
最初に突入した仲間達は傷だらけだが、死者は出ていない。
ひとまず安堵し、傷の多い、もしくは深いものについては医者に見せることに決め、俺達は帰路についた。
「俺達も色々と探索してたんだが、各方面の中心に怪しい札が貼ってあってよ。何かあるなと思ってたら、徳然の使者が飛んできたって訳だ。」
「私の足では、どうしても遅くなりますから。護衛たちに頼んで、馬でひとっ走りしてもらいました。」
「徳然のその判断がなければ、今頃俺は墓の中だ・・・本当に、ありがとう。」
「変な札しか見つからなくてイラついてた所に、活躍の機会が舞い込んできたからな。俺達も楽しかったぜ。」
数日が経ち、朝廷から発表があった。
唐周の「密告」により、馬元義は捕えられて処刑されたとの事だった。
劉備らは秘密裏に功を称えられ、鄒靖という校尉のもとに、義勇軍としてつくことになったのである。
鉅鹿・張角の根城
「馬元義が・・・!誰にやられたのだ。」
頭に黄色い鉢巻をまいた、威厳ある初老の男性が驚きながら使者を詰問している。
男の名は張角。太平道の開祖にして頂点である。
「と、唐周が裏切り、朝廷に密告したとの事です。」
「あの男が裏切るはずはない。恐らく、何者かが馬元義を捕らえ、朝廷に引き渡したのであろう。」
張角の右隣に控えた壮年が口を開く。
「その事ですが兄上。私の方で馬元義につけていた密偵によれば、馬元義は名もなき徒党に捕えられたそうです。徒党の首魁は、「劉備」と名乗ったそうで。」
「劉備・・!聞いたことも無い名だが。」
今度は、左隣に控えた、武人然とした30代ぐらいの男性も口を開いた。
「馬元義が敗れる程の男です。我らの戦いに、必ずや立ち塞がってくるでしょう。」
「そうであろうな。ともかく、馬元義が倒れ、計画が漏れた以上、既に時間の猶予は無い。」
「では・・・」
「やりますか。」
「ああ!全国の信徒に通達を出せ!今こそ、立ち上がる時だと!」
「「大賢良師様のお心のままに!」」
鉅鹿から全国に飛んだ早馬は、中華全土の信徒達を暴動に走らせた。
人々の暮らしは奪われ、城は焼かれ、尊厳は踏みにじられていく。
黄巾の乱が、ここに始まったのである。




