南華老仙再び
酒を夜までしこたま飲んだ俺達は、そのまま眠りについた。
ふと気がつくと、俺は雲に包まれていた。こうなった時、俺のところに来る人物は決まっている。
「やあ」
「お久しぶりですね、南華老仙殿」
「こっちでの生活には慣れたかの?」
「5年も経てば、流石に慣れますよ」
「そうかそうか。」
「それで、今回はどんな用件で?」
「うむ。お主は、この時代に飛ばされた理由を覚えておるな?」
「もちろん。召喚術が張角という弟子の失敗で失敗したんですよね。」
「そうじゃ。名前も知っておったのか」
「左慈殿が話してくれました」
「そうであったか。その張角なんじゃが、数年前に太平道を作っての。」
「太平道の祖は張角でしたか。」
最近、太平道の信者の数は驚くほど増えていた。
また、それと同時期に洛陽や各地の城門に「蒼天已死、黄天当立」と言う落書きが書かれるようになったのである。「漢王朝は既に死んでいる。黄天の世を今こそ立てるべきである」といった内容だ。
劉備はその落書きから、戦乱になることを予期して徒党を組み始めたのである。
「うむ。召喚術を邪魔された際、ワシも戦ってある程度力を削ることはできたが・・・あの男は、それを補ってあまりある執念で、以前より力を増しておる」
「もし張角が立ち上がれば、恐らくこの中華は大戦乱に巻き込まれよう。そうなれば、多くの人が死ぬことになる。」
「事前に止めることはできないのですか?」
「そうしたいところじゃが、ワシや他の仙人は、あの男に最大限の警戒をされておる。弟の張宝、張梁らも強く、そうそう手の出せる相手ではない。」
南華老仙でもどうにもならないなら、俺には何もできないのではないか。
「故に、まずは張角が乱を起こすのを待つ。そこで、お前達の力が必要になってくるんじゃ、簡雍よ。」
「えっ?」
「張角は仙術を極めており、同じように仙術の使えるものでなければ、まず倒すことは出来ん。じゃが、弟達は、手強い術者ではあるがまだ人の域を出てはおらん。」
「俺達に、張宝、張梁を討てと仰せなのですか?」
「そうじゃ。だがワシらは張角に近寄れん。故に、お主にこれを授けよう。」
そう言うと、南華老仙は小さな瓶を取り出した。
「これは?」
「この中には、ワシや左慈、于吉や神農殿の力を封じた丸薬が一粒入っておる。」
「見たところがらすみたいですし、戦ってる間に割れちゃいそうですけど・・・」
「術を掛けてあるから、泰山の頂上から地面に落としても割れんぞ。お主以外に開けられないようにもなっておる」
「そこまで厳重に・・・」
「この丸薬を飲めば、少しの時間ではあるがワシら仙人の力を使えるようになる。張宝、張梁を倒して勢力を削ぎ、張角と対した時にその丸薬を飲め。」
「・・・俺じゃなくても、劉備とか長生とか、俺より強い奴にお願いした方がいいと思います。」
「いや、彼らでは無理なのじゃ。確かに、彼らはお主よりも強い。じゃが、普通の人間ではこの丸薬の力に耐えられないのじゃ。」
「俺だって普通の人間ですよ」
「だが、普通ではないところがある。お主が転生者であるということじゃ。」
「それが、仙人の力とどう関係しているんですか?」
「お主は、簡雍の身体に呼び寄せられて入った。では、元あった魂はどこに行ったのかの?」
「・・・あっ」
「察しが良くて助かる。二つの魂が身体におるおかげで、お主の魂は強くなっている。故に、短時間ならワシらの力を使っても魂は壊れず、耐えられるのじゃ」
「俺にしかできないこと、ですか。」
「そうじゃ。やってくれるかの?」
「わかりました。」
「中華が平穏を取り戻すかどうかは、お主と、劉備らの活躍にかかっておる。よく劉備を補佐し、戦うのじゃぞ」
そう言って南華老仙は消え、俺は目を覚ました。
違和感を感じて懐を探ると、夢で渡された小瓶が入っていた。振ってみると、確かにカラカラと音がする。
張角の打倒。果たして、俺にそんな大役が務まるのだろうか。
重いプレッシャーを感じながら、俺は小瓶を握りしめた。




