鬼
盧植の授業のない日の劉備達の過ごし方は、それぞれ違っていた。
劉備は、暇さえあれば音楽を聞き、狩猟に勤しんで身体を鍛えたり、公孫瓚と遊びに行っていた。
盧植門下である事と、本人の人柄もあり、これまで交流のなかった名士層にも受けが良く、遊びの中で着々と人脈を広げていた。
劉徳然は、基本的に家で読書をしたり、劉備に付き合って狩りに出かける事が多かった。
簡雍は、劉備らと違って親戚筋の援助がないこともあり、商人としての知識をいかして薬草などを売り、ある程度の貯蓄を作っていた。
ある時、薬草を買いに来た二人組の男が、噂話をしていた。
「洛陽の北門に、鬼がいる」と。
簡雍は、何となく「北門の鬼」という単語に聞き覚えがあったので、男たちに話しかけることにした。
「なあ、北門にいる鬼ってなんのことだい?」
「おっ、気になるかい?鬼、って言っても化け物の類じゃないんだ。何ヶ月か前に、やってきた、新しい北部尉様の事よ。」
「それはそれは法に厳格で、偉い人間だろうと、金持ちだろうと容赦なく処罰するそうだ。」
「どんな人間でも処罰するおっそろしい人だってんで、皆「鬼」って呼んでるのさ。」
「へえ。そうなのかい。ちょっと会ってみたいな」
「やめとけやめとけ。あんたも処罰されるかもしれねえぞ。」
「違いねえな。」
「よくわかった、ありがとな。」
二人組の会計を終えると、簡雍は早めに店をたたんで家路についた。
夕刻、遅れて帰ってきた劉備らに、簡雍は先程聞いた噂話を共有することにした。
「なあ、「北門の鬼」って知ってるかい?」
「憲和も聞いたのか。俺達も、丁度その話をしていた所だったんだ。」
「先日街を歩いていたら、「北門の鬼」を題材にした演劇をやっていました。それほど恐ろしい人物なら、少し怖いですが会ってみたいですね。」
皆「北門の鬼」に興味津々である。
「じゃあ、次の休みに行ってみないか?」
「いいですけど・・・地位のある方ですし、突然行っても会えるでしょうか?」
劉徳然の懸念を聞き、劉備は少しいたずらっぽい笑みを浮かべて続けた。
「フッフッフッ、心配するな。俺にゃ秘策があんだよ」
「秘策?」
「ま、楽しみにしてろって」
簡雍と劉徳然は、顔を見合わせた。正直なところ、あまりいい予感はしない。
ー数日後ー
「やっぱ会えねえかあ」
「秘策って言うからなんの事かと思えば、「鬼とか言われてる北部尉に会わせてくれ」って真正面から言いに行く事だったのかよ!」
「期待して損しました・・・」
「真正面から行くことだって立派な作戦さ」
劉備は、相変わらずいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「まあまあ、飯奢ってやるから許してくれや」
「しょうがねえなあ」
劉備は、公孫瓚と遊び歩いているうちに、お金の稼ぎ方も教わったらしい。この間、「はじめて母上にお金を送ってやれたよ」と嬉しそうだった。
丁度昼時だったので、飯屋に入ってしばらく談笑していると、一人の男が近寄ってきた。
「相席、いいか?」
劉備が答える。
「おう、もちろんいいぜ。ここのメシは旨いぞ。」
「知っている。この辺りの事は、大体頭に入っているからな」
「へえ。そりゃ凄いな。。。俺は劉備玄徳、あんたの名前は?
「俺か?俺は曹操。曹操孟徳だ。」




