洗ったの、がっかりだよ、(残り香的な意味で)
翌朝鏡の前で、ブローし終わった髪をチェックする。
少し早起きして時間をかけた甲斐もあって綺麗にできている。
けど、
"結んでるの似合うね、可愛い"
「違う!そっちじゃない!」
勝手に脳内で再生されたセリフに赤面する
"友花ねーちゃんが結んでるの可愛いよ!"
そう、こっち。
弟に褒めてもらったし、今日も結ぼうかな。
せっかくブローしたけど、昨日と同じように1つに結んでシュシュをつけてみる。
なんかヘアアレンジの動画とか見ようかな。
時計を確認して、台所でしっかり湿気の抜けているパウンドケーキを確認して、リボンで袋を結んで家にあった比較的変な柄じゃない紙袋にすっかり乾いたマフラーと一緒にいれる。
特に混雑する路線ではないけれど、紙袋が潰れないようにいつもより慎重に動きつつ、学校の最寄り駅に到着する。
は、早過ぎたかも。
スマホを見るとまだ待ち合わせまで、10分以上ある。
うわー、めっちゃ鏡見たいけど、知り合いに見られたら、なんかめかし込んでると思われそうだし、ていうか時間あるならせめてメイクでもしてくればよかったのでは?いつも通り日焼け止めとリップしか塗ってない。
いやでも、と1人問答してると、急に肩を叩かれて、ビクッと身体が揺れる。
「反応が、おもろい」
振り向くと笑いを堪えている大樹くんが立っていた。
「ちょい早いからまだ人少ないね。」
そのまま歩き出してしまうので、慌てて後ろを追いかける。
「あ!マフラー!」
「そうだった。」
「え、…寒すぎて無理なんじゃ。」
「ほんとそう。ねーちゃん早く。」
手渡したマフラーを渡すと、なぜか大樹くんは昨日の私と同じように鼻に当ててスーハーして首を傾げている。
「洗剤の匂いしかしない。」
「ちゃんと洗ったよ。」
「えー!!!…がっかりだよ。ありがとう。」
大樹くんは絶望しながらお礼を言った。
意味が分からない。
「あ!あとお礼に、これ。」
私はパウンドケーキの入った紙袋ごと渡す。
「なにこれ?」
大樹くんは受け取った紙袋の中を見て、パウンドケーキを取り出した。
「美味そう!そして、でか!」
「!!」
言われてみれば確かに、人にあげる場合パウンドケーキってカットして何切れかを包んで渡すのでは?
私は何度もえみりんに頼まれるうちに
「もう切らないでいいからそのままちょうだい」
と昼休みに型から出したままのパウンドケーキを、パンのごとく食べるえみりんに慣れすぎて麻痺していた。
「た、確かに!えみりんサイズだった!多かったら残して!」
「いや!めっちゃ嬉しいよ!なんかすげぇいい匂いするし!石田にも作ってるの?」
「えみりん、バレンタインくれるから。ホワイトデーに。」
「いいなぁ、俺も欲しいなぁ。バレンタインあげればいいの?」
「え、それは私があげるのでは?」
「え?!くれるの?」
すごく期待の籠った目を向けられて、思わず頷くと
「やったぁー!」
と歓声をあげる。
そのあとの道中は、大樹くんは意外と料理が好きなのか、パウンドケーキの作り方を熱心に質問してくるので、それに答えているうちに学校に着いた。




