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お礼のお菓子を焼きます

電車で先に降り、大樹くんと別れたあと、私は悶々としながら歩いていた。


我に帰った時にはもう家の前だった。


「あれ?見たことないマフラーしてる」


玄関を開けたお母さんが早速見慣れないマフラーに驚く。


「友達が貸してくれた。」

「洗う?」

「明日までに乾くかな?縮んだりしない?」


首から外して軽く畳んでお母さんに見てもらう。


「この洗濯表示ならおしゃれ着洗いで浴室乾燥使えば大丈夫よ。じゃ、すぐ洗っちゃうよ?」


すぐに洗濯機に向かうお母さんの背中にお礼を言うと


「いいから夜ごはん食べちゃいな〜。次はこんな遅くなる時は連絡してねー」


と軽いお叱りが返ってきたので素直に大きい声で返事をする。


たしかに、時計を見ると19時半を少し過ぎている。


普段帰宅部の私が友達と遊びに寄るわけでもなくこんなに遅くなることは文化祭シーズンぐらいだ。

運動部ってすごいなぁと尊敬の念が湧いてくる。

台所で残してくれてある夜ごはんをモソモソ食べていると、オーブンが視界に入り、良いアイディアが浮かんできた。


「お母さん、残ってる松の実使ってパウンドケーキ作っていい?」


もう洗い終わったのか、お母さんが洗濯機の上でマフラーを干しながら「いいよー。今度買ってきといて〜」とのこと。


うちに大樹くんのマフラーが干してある光景にむず痒くなりながらも、私は台所に戻ってキッチンスケールと小麦粉を取り出した。


このレシピは去年のホワイトデーにえみりんに作ってあげたら(えみりんはホワイトデー欲しさにバレンタインに大量の袋菓子の友チョコを配る)

大いに気に入って何度も何度も再配リクエストをされたせいで何度も作り過ぎて分量も暗記している。


小麦粉と砂糖を計って、くるみ、かぼちゃの種、松の実、炒りごま、何かしら家にあるドライフルーツ、ごま油、ベーキングパウダー、シナモン、クローブ、クッキングシート、パウンドケーキ型を準備する。

オーブンを予熱して、小麦粉をちゃんと篩《ふるい》に掛ける。

やばい初回以来の丁寧さ。

手慣れたお菓子を無心で作っていると、波立っていた心が落ち着いてくる。


「いい匂い〜」

2階からお風呂に降りてきた雪花ちゃんが鼻をひくつかせながら、台所を覗きにくる。

「もう焼けた〜?」

「あ、ごめん、これ家用じゃなくてあげる用。」

「残念無念〜」

と歌いながら雪花ちゃんはお風呂に向かった。


焼き上がったパウンドケーキを型から外して、ケーキクーラーの上で、上から横からジロジロ焼きが足りないところが無いか確認していると、今度は舞花ちゃんが台所に入ってきた。


「それさー、えみりんのじゃないでしょ」


いきなり図星を刺されて、あからさまにギクリとしてしまう。


「そうだけど、なんで?」

「姉の勘」

「へー」


私はケーキが冷めてきたことを確認して、花柄の袋に入れる。袋はまだ閉めずに、台所の隅に避けると、リボンだけ側に置いて、エプロンを外す。


「大樹くんでしょ。」

「?!」

「そしてあのマフラーも!」


真実はいつも1つとでも言いだしそうな表情で、舞花ちゃんは私を指さしていた。


「そして、2人は付き合い始めた!」

「いや、違うよ。」


「えー?!違うのー?だから彼マフラーしたりお菓子使ったりしてるんじゃないの?」

「マフラーは親切で貸してくれて、お菓子はそのお礼だよ。あとおねえちゃんのお菓子を食べた弟に、また作って!と言われたいから。」


「げぇ、友ちゃんまだそれやってるの?」

「まだって、はじめたばっかだし。」


「友ちゃん、なんで大樹くんが弟やってくれてるか考えてる?」

「…うん。」

「まぁ、友ちゃんだし、考えてるよね。友ちゃんは弟な大樹くんと一緒にいるの楽しいの?」

「うん!」

「そっかー。…じゃあ、いいのかなぁ?」

「わかんない。」


舞花ちゃんは私の頭を数回撫でてから台所を出ていった。

私だって、何も考えてないわけではないけれど、まだ分からないのだ。




夜寝る前に大樹くんに


『マフラー明日返す!』

『朝練さらに寒くしてごめん』


と送ったら


『明日は朝練ない』

『上着の襟めっちゃ立てるし大丈夫』

『朝、友達と行ってたりする?』


と即返信がきた


『朝は特に誰とも待ち合わせてないよ。』


と慌てて返事をすると


『学校の駅で待ち合わせられる?』


と。


「一緒に行くってことか…」


布団の上で、うーんと考える。帰りに一緒に帰ってもそんなに人目もないし、まぁそんなに周囲も意識しないけど。


朝か〜。朝時間合わせて一緒に登校している男女は付き合ってる彼氏彼女くらいだし、さすがに弟なんていう珍妙なことさせておいて、周りに大々的に誤解させるようなことするのもな〜と思い悩む。


でも、マフラー無いと、朝の通学寒いよなぁ。


『マフラー無いと、朝寒い?』


と質問に質問で返してしまう。

一瞬で既読がついて


『寒すぎて無理。』

『ねーちゃんお願い』


と。

おぉ…、こ、断れねぇ。


時間だけ決めると、私は明日は絶対なブローできる時間に起きることを決めて、手早くお風呂に入ると早々と布団に入って電気を消した。


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