第37話:中ボス戦と姫の木の枝
「あーん、待ってよー! ケーキさん、逃げないでー!」
幻惑の迷宮が完全な崩壊(物理的解体)の憂き目に遭っていることなど露知らず。
万年レベル1の最弱吸血姫シルヴィは、目の前をフワフワと逃げ回る幻覚のショートケーキを追いかけて、ピカピカに磨き上げられた大理石の回廊を小走りで進んでいた。
片手には、道端で拾ったただの木の枝をしっかりと握りしめている。
タッタッタッタッ……。
「えへへ、あと少しで追いつくぞー! えいっ!」
シルヴィが木の枝を伸ばし、ついに幻覚のケーキをツンッと突こうとした、その瞬間だった。
フッ……。
先ほどまで空中に浮かんでいた美味しそうなショートケーキが、まるでシャボン玉が弾けるように、音もなく消え去ってしまったのである。
「あれっ!?」
シルヴィは目を丸くして、ケーキがあったはずの空間を手でパタパタと仰いだ。
「消えちゃった……。古代の遺跡のケーキ、幻だったのかなぁ。残念……」
彼女はしょんぼりと肩を落とし、ため息をついた。
実は、迷宮の幻覚システムが彼女の食欲(欲望)を読み取って投影していたこのケーキだが、背後で七人の従者たちが迷宮のメインシステムを物理的・魔力的に完全破壊してしまったため、ホログラムを維持できなくなり消失したのである。
「はぁ、お腹空いたなぁ……。あれ? そういえば、みんなは?」
シルヴィがここでようやく立ち止まり、後ろを振り返った。
常に自分の背後にピタリと張り付いていたはずの、過保護すぎる七人の猛者たちの姿がどこにもない。
シーンと静まり返る大理石の回廊。
「みんなー? はぐれちゃったのー?」
シルヴィがのんびりとした声で呼びかけるが、返事はない。
普通ならばSランク迷宮で一人ぼっちになれば絶望して泣き叫ぶところだが、彼女は「迷路だから道に迷っちゃったんだね。そのうち追いつくよね!」と極めてポジティブ(呑気)に解釈し、その場で待つことにした。
しかし、彼女が待つまでもなく。
ドッゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!!
シルヴィのすぐ背後にあった分厚い大理石の壁が、突如として内側から大爆発を起こし、粉々に吹き飛んだ。
「ひっ!?」
シルヴィが驚いてしゃがみ込むと、もうもうと立ち込める粉塵の中から、この世の終わりを体現したかのような、血走った目をした七人の化け物たちが雪崩を打って飛び出してきた。
「「「「「「「姫様ァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」」」」」」」
彼らは、完全に理性を喪失したバーサーカーのような顔つきで絶叫しながら、床にしゃがみ込んでいるシルヴィを見つけるや否や、全員が一斉にスライディング土下座の姿勢で滑り込んできた。
「おおおぉぉ……! 姫様! 姫様ァァァァッ!!」
獣人ロアンが、床に額を激しく打ち付けながら、滝のような涙を流して号泣し始めた。
「このロアン! 一生の不覚! 下劣な幻覚に気を取られ、我らが太陽である姫様から目を離してしまうなど! 今すぐこの大剣で自らの腹を真横に切り裂き、お詫びいたします!!」
「ロアンだけではありませんわ! 私もです!」
エルフのエランが、絶望に顔を歪めながらシルヴィのドレスの裾にすがりついた。
「姫様をたったお一人で、この薄暗く恐ろしい迷宮に数分間も放置してしまうなんて……! 姫様、さぞかし心細かったでしょう!? 怖くて、寂しくて、泣いておられたでしょう!? ああ、私の命を削ってでも、この数分間を無かったことにしたい!!」
「聖女様! この罪深き我々を、どうか聖なる光で浄化してください!!」
「アタシの不注意だ! 姫様、お怪我はないかい!? 息苦しくないかい!?」
「姫様が一人でお歩きになったせいで、足が疲れておられるはず! すぐにマッサージを!」
「紅茶です! すぐに心を落ち着かせるための紅茶を!!」
「俺の背中に乗ってください姫様ァァァッ!!」
セリア、マイラ、ルル、ノクティス、ダリウスまでもが、シルヴィを取り囲んで狂ったように泣き叫び、謝罪の言葉を口にしながら、極限の過保護モードを爆発させている。
「え、ええっと……みんな、大げさだよ! 私、全然泣いてないし、怖くなかったよ?」
シルヴィが慌てて立ち上がり、ロアンたちが切腹するのを必死に止めた。
「ケーキさんを追いかけてたら、いつの間にかはぐれちゃっただけだから。みんなが無事でよかった!」
「あぁ……姫様……!!」
その、全く怒る気配のない、底抜けに優しく無邪気な笑顔。
それを浴びた七人は、再び「うおおぉぉぉ……尊い……!」と悶絶し、床の上で謎の連帯感を強めながら号泣を再開した。
「姫様は我々を責めるどころか、無事を喜んでくださる……! この宇宙で最も気高く、慈悲深き御方!!」
感動の嵐が吹き荒れる中、シルヴィは「もう、みんな泣かないで」と苦笑しつつ、ふと前方に視線を向けた。
いつの間にか、彼女たちは大理石の回廊を抜け、コロシアムのような巨大な円形の空間へと足を踏み入れていた。
その空間の中央に、『それ』は鎮座していた。
ズシン……ッ。
ズシン……ッ。
地響きのような重低音が、円形の広間に鳴り響く。
「あれ? なんだろう、あれ……」
シルヴィが不思議そうに指を差した。
その指の先には、高さが十メートルはあろうかという、全身が黒光りする鋼鉄で覆われた巨大な人型の兵器がそびえ立っていた。
【古代のアイアンゴーレム】。
この『古代賢者の試練場』の中ボスとして配置された、純粋な物理的破壊と殲滅を目的とする殺戮兵器である。
その全身は古代のミスリル合金で補強されており、並の魔法や剣撃など一切通用しない。両腕は城壁を粉砕するほどの巨大なハンマーとなっており、頭部の赤い単眼が、侵入者であるシルヴィたちを正確に捕捉して不気味に発光していた。
『——侵入者ヲ確認。コレヨリ、殲滅シーケンスニ移行スル』
機械的な無機質な音声が広間に響き渡り、巨大なアイアンゴーレムがゆっくりとその巨体を起動させた。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!! と、金属が擦れる凄まじい音が響き、ゴーレムの全身から高熱の蒸気が噴き出す。
「わあ、おっきいロボットさんだ!」
シルヴィが目を丸くする。
その瞬間。
先ほどまで床に這いつくばって号泣していた七人の従者たちの雰囲気が、一変した。
「……チッ。姫様との感動の再会に、土足で踏み込んでくる空気を読めない鉄クズが」
ロアンが、涙をスッと拭い、大剣『滅山』を構えてゆっくりと立ち上がった。その瞳には、完全なる『殺戮』の光が宿っている。
「姫様の視界を塞ぐなど、万死に値しますわ」
エランの杖の先に、空間を歪ませるほどの漆黒の魔力球が生成される。
「聖女様の御前だ。一瞬で浄化(物理的に粉砕)してやる」
セリアが聖剣を抜き放ち、純白のオーラを全身から立ち昇らせた。
マイラ、ダリウス、ノクティス、ルルもまた、一切の容赦のない、Sランクの古代兵器すらも一瞬で塵にするための【最強奥義】の構えに入った。
彼らにとって、アイアンゴーレムなど脅威でも何でもない。姫様の散歩道に転がっている、ただの『少し大きな邪魔な石ころ』に過ぎなかった。
「「「「「「「消し飛べ、鉄クズゥゥゥゥッ!!!!」」」」」」」
七人が同時に飛び出し、ゴーレムを原子レベルで消滅させようとした、まさにその時。
「——待って!!」
広間全体を震わせるような、凜とした声が響いた。
シルヴィであった。
「ひ、姫様!?」
七人の猛者たちが、空中でピタリと攻撃のモーションを停止させ、慌てて振り返る。
シルヴィは、いつもならダリウスの背中に隠れるか、怯えて目を瞑るところだが、今は違った。
彼女は、マイラ特製のドレスの裾をギュッと握りしめ、右手には道端で拾った『ただの木の枝』をしっかりと構え、アイアンゴーレムに向かって一歩、前へと踏み出したのである。
「私、決めたの。もうずっとみんなに守られてばかりの『お姫様』は卒業するって」
シルヴィの赤い瞳には、これまでにない真剣な光が宿っていた。
「私だって、戦えるようになりたい。自分の力で経験値を稼いで、レベルを上げたいの! だから……」
シルヴィは、十メートルある巨大な鋼鉄のゴーレムを見上げ、手にした木の枝(長さ約五十センチ)をビシッと突きつけた。
「このロボットさんは、今度こそ【私】が倒す!! みんなは手を出さないで!!」
その、あまりにも無謀で、しかし純粋で気高い決意宣言。
レベル1、筋力1、体力1の最弱少女が、木の枝一本で、数千年の歴史を持つ最強の鋼鉄兵器にタイマンを挑むという、狂気の沙汰。
だが、その言葉を聞いた七人の従者たちの心に去来したのは、常識的なツッコミなどではなかった。
(お、おおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!)
(姫様が!! 姫様がご自身の力で、強大な敵に立ち向かおうとされている!!)
(なんという気高さ! なんという勇気! これぞ真の王者の風格!! 私、感動で魂が口から抜け出そうですわ!!)
七人の狂信者たちは、シルヴィの言葉を【神の絶対命令】として受け取った。
「はっ……!! 承知いたしました、姫様!!」
ロアンが血の涙を流しながら大剣を下ろす。
「姫様の初陣、我々臣下一同、この目にしっかりと焼き付けさせていただきます!!」
エランが杖をしまい、祈るように両手を組む。
七人は、シルヴィの背後まで下がり、絶対に手を出さないという姿勢をとった。
(だが……もしゴーレムが姫様に指一本でも触れようとしたら、その瞬間にコンマ一秒で解体する!!)
彼らは表面上は手を出さないと言いつつ、ゴーレムの筋肉(駆動部)のわずかな動きすらも見逃さない、極限の警戒態勢を維持していた。
「よし! 行くぞー!」
シルヴィは、気合を入れると、短い木の枝を両手でしっかりと握りしめ、巨大なアイアンゴーレムに向かってトコトコと走り出した。
タッタッタッタッ……。
その足音は、全く殺気を感じさせない、完全に公園で遊んでいる子供のそれであった。
対するアイアンゴーレムは、赤い単眼でシルヴィを捉えていたが、彼女から『魔力』も『闘気』も全く検知できないため、脅威度を最低ランクと判定し、迎撃システムを起動させずにただ見下ろしていた。
シルヴィは、ゴーレムの巨大な鋼鉄の足元まで辿り着くと、大きく息を吸い込んだ。
「えええええええいっ!!!」
ペシッ。
シルヴィが全力で振り下ろした木の枝が、アイアンゴーレムの鋼鉄の足首に、小気味良い音を立ててヒットした。
当然ながら、魔法も付与されていない、ただその辺に落ちていた枯れ枝である。しかも振るったのは筋力1の少女。
ダメージ判定:【0】。
ゴーレムの鋼鉄の装甲には、傷一つ、凹み一つ、いや、汚れ一つすら付かなかった。
「あれっ? 全然効いてないみたい……?」
シルヴィが不思議そうに首を傾げ、もう一度、木の枝でゴーレムの足をペシペシと叩く。
ペシッ。ポカッ。
まるで、硬い木をマッサージしているかのような、平和な音が響き渡る。
しかし、アイアンゴーレムの古代の人工知能は、この行為を『明確な敵対的攻撃』とみなした。
『——ダメージ・ゼロ。シカシ、敵対行動ト判定。対象ヲ殲滅スル』
機械音声が響いた直後。
ゴーレムの赤い単眼が凶悪な光を放ち、城壁をも粉砕する超巨大な鋼鉄の右拳が、信じられない速度で高く振り上げられた。
そして、足元で首を傾げているシルヴィの小さな身体を、跡形もなく押し潰そうと、凄まじい風圧を伴って振り下ろされようとした。
「ひっ!?」
頭上に落ちてくる巨大な影に気づき、シルヴィが顔を上げて悲鳴を上げた。
————その、ゴーレムの拳が振り下ろされようとした【瞬間】であった。
シルヴィの『ひっ!?』という怯えの声。
そして、あろうことか、この宇宙で最も尊く愛らしい姫君に対して、巨大な鉄屑が【攻撃の意思を持って拳を振り上げた】という、決して許されざる究極の大罪。
背後で控えていた七人の猛者たちの脳内で。
【理性のストッパー】という名の鎖が、音を立てて粉々に砕け散った。
(姫様に……)
ロアンの瞳孔が縦に割れ、獣のオーラが爆発する。
(我らが姫様に……)
エランの周囲に、数万の古代精霊が顕現し、空間を歪ませる。
(その薄汚い鉄クズの腕を……)
セリア、マイラ、ダリウス、ノクティス、ルル。全員の殺意が、限界を突破して宇宙の果てまで到達した。
(((((((振り下ろすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!)))))))
ゴーレムの拳がシルヴィの頭上に届くよりも、遥かに、天文学的なレベルで速い【コンマ0.0001秒】の世界。
七人の化け物たちは、姫様との「手を出さない」という約束など完全に忘却の彼方へ放り投げ、各々が持つ【最大・最強・最悪の究極奥義】を、一切の手加減なしで、同時にゴーレムへと叩き込んだ。
「消え失せろォォォッ!! 【獣王・天破両断】!!!!」
ロアンの『滅山』から放たれた、山脈を二つに割るほどの黄金の超巨大剣圧が、ゴーレムの右半身を空間ごと両断する。
「灰すら残しませんわ!! 【古代精霊・星屑の殲滅雨】!!!!」
エランの杖から放たれた、数万の超高熱プラズマ弾が、ゴーレムの装甲を原子レベルで融解させる。
「浄化の光に焼かれよ!! 【聖絶・神罰十字】!!!!」
セリアの聖剣から放たれた極大の聖なるオーラが、巨大な十字架となってゴーレムを貫く。
「ひき肉にしてやるぜェェェッ!! 【オリハルコン・メテオスマッシュ】!!!!」
マイラが跳躍し、百キロのハンマーに全魔力を込めてゴーレムの頭部を完全に叩き潰す。
「我が主の御前だァァッ!! 【滅竜の極大ブレス】!!!!」
ダリウスが竜の姿となって放った、すべてを塵に帰す熱線のブレスがゴーレムを包み込む。
「影の彼方へ消え去れ……! 【暗殺奥義・無明の刃】!!!!」
ノクティスの放った無数の影の刃が、ゴーレムの内部回路をズタズタに引き裂く。
「姫様を怯えさせた罪、万死に値するわ!! 【真紅の血界】!!!!」
ルルの放つ紅蓮の魔力が、ゴーレムの構造そのものを内部から爆破する。
ドズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッッ!!!!!!!!!!
広間の中央で、太陽が爆発したかのような、凄まじい閃光と轟音が巻き起こった。
七人の最強奥義の【同時直撃】。
それはもはや、ただのオーバーキルという言葉すら生ぬるい。一国の軍隊をまるごと消滅させるほどの理不尽な破壊エネルギーの塊であった。
数千年間、無数の冒険者を殺戮してきた無敵の古代兵器『アイアンゴーレム』は。
反撃の拳を振り下ろす間もなく、痛みを感じる暇もなく。
文字通り、一瞬にして【原子レベルで消滅】し、跡形もなく、影も形もなく、ただの熱と光となって宇宙の彼方へと消え去ったのである。
爆発の衝撃波すらも、ノクティスの相殺魔法とエランの絶対防壁によって完全に吸収され、シルヴィの髪の毛一本すら揺らすことはなかった。
カァァァァァ……ッ。
強烈な光が収まり、広間に再び静寂が戻った。
「う、うゆ……? まぶしかった……」
シルヴィが、目をギュッと瞑っていた状態から、恐る恐る目を開けた。
彼女の視界に映ったのは。
先ほどまで目の前にそびえ立っていたはずの、高さ十メートルの巨大なアイアンゴーレムの姿が、『完全に消えてなくなっている』という光景であった。
床には、ゴーレムが存在していた証拠など何一つ残っていない。綺麗さっぱり、空間ごと削り取られたように消失しているのだ。
「あれ……? ロボットさん、消えちゃった……?」
シルヴィは、ポカンと口を開けて周囲を見回した。
そして、自分の右手に握られている、拾ったばかりの『ただの木の枝』を見つめた。
先ほど、自分はこの枝でゴーレムの足を叩いた。
その直後、凄まじい光と音がして、ゴーレムが消滅した。
その二つの事実を、現代日本の一般人であるシルヴィの思考回路は、極めて短絡的に、かつ最高に平和な解釈で結びつけてしまった。
「……えっ!? ま、もしかして……!!」
シルヴィの赤い瞳が、信じられないほどの大きさにピカッと見開かれた。
彼女は、持っている木の枝を両手で高く掲げ、歓喜の声を上げた。
「すごーーーいっ!! 私の木の枝、すっごい威力だぁぁぁぁっ!!!」
勘違いである。
純度百パーセントの、盛大にして究極の勘違いであった。
彼女は「自分が放った木の枝の一撃が、タイムラグを経て超絶クリティカルヒットとなり、ゴーレムを爆散させた」と思い込んでしまったのだ。
「みんな見て見て!! 私、やったよ! 私の木の枝、伝説の武器だったみたい!! 一撃でロボットさん倒しちゃった!!」
シルヴィが、満面の笑顔で、後ろに控える七人の従者たちに向かって木の枝を自慢げに振り回した。
七人の従者たちは、直前まで「約束を破って手を出してしまった(しかも全力で)」という事実に対して、姫様に叱られるのではないかと冷や汗を流していた。
しかし、シルヴィが「自分の手で倒した」と完全に勘違いして大喜びしている姿を見た瞬間。
彼らの狂信回路は、即座に都合の良い『辻褄合わせ』を完了させた。
「お、おおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ロアンが、滝のような涙を流して天を仰いだ。
「見ましたか皆様!! 姫様が! 姫様が放たれたあの神速の枝の一振りが! あの巨大なゴーレムを、跡形もなく消し去ってしまったのです!!」
「ええ! ええ!!」
エランが激しく首を縦に振り、狂信的な笑顔を浮かべる。
「あれこそが真祖様の真のお力! 物理法則をも超越した、究極の一撃! 私たちの出番など、一ミリもありませんでしたわ!!」
「さすがは我らが聖女様!! あの一撃の美しさ、一生忘れはいたしません!!」
セリアが聖剣を放り投げて歓喜の祈りを捧げる。
「ヒャハハハ! 姫様、その枝はアタシがオリハルコンでコーティングして一生の宝にしてやるぜ!!」
マイラが鼻血を吹きながら拍手喝采する。
「おめでとうございます、姫様!!」
ノクティスとルルが、完璧な礼を尽くして深々と頭を下げる。
「姫様の初陣、見事な大勝利にございます!! これでまた一つ、姫様の伝説が刻まれましたな!!」
「えへへ……! やったぁ! 私、強くなっちゃったかも!」
シルヴィは、全く経験値が入っていない(自分がダメージを与えていないため)ことなど知る由もなく、最強の伝説の木の枝(※ただの枯れ枝)を抱きしめて、ご満悦の笑顔を浮かべていた。
最強の従者たちによる、最高に過保護で理不尽なオーバーキル。
そして、それによって生み出された『レベル1の吸血姫が、木の枝一本でアイアンゴーレムを一撃粉砕した』という、新たなハリボテの伝説。
こうして、中ボス戦という名の「壮大なコント」は幕を閉じ、一行は遺跡の最深部、ダンジョンコアの鎮座する部屋へと、意気揚々と進んでいくのであった。




