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第3話-①

 ユウキたちに向けられたその顔つきは間違いなく日本人のものだった。それを見てユウキは異邦人に尋ねる。


「あなた……日本人なんでしょう? 教えてください……一体何がどうなってんですか!?」


 ユウキからの必死の質問を聞いて、異邦人は肩を震わせて笑う。


「クックック……! 何にも知らないって聞いてはいたけど、本当に何にも知らないんだな!」


「兄さん……話すだけ無駄だ……! こいつは会話をする気がない……!」


「そういや……なんでお前は俺が異邦人だってわかったんだ?」


 異邦人の男がシーラに尋ねる。シーラはその問いに、辺りに転がっている兵士を指さしながら答えた。


「……他の兵士が全員やられて、残ってる兵士だってそこのコニール含めて怪我を負ってるのに、お前だけ無傷なのはあからさまに不自然だろ? まぁそれだけじゃわかんねーけど。……まあお前がクソマヌケなおかげで簡単に答え合わせはできたが」


 ユウキとアオイは、自分たちと話している時とはまるで違う、冷徹なシーラの口調に怯えを隠せなかった。


「口悪っ」


「やっぱ不良少女ってやつなのねシーラさん……」


 呑気なユウキたちの会話を聞いて、シーラは顔をしかめながら異邦人の男に問いかける。


「てめぇの名前はなんだ? ……この二人を探しだすためだけになんでこんなことができる?」


 突然の核心をつくシーラの言葉に、ユウキもアオイも、異邦人の男も硬直した。


「え!? なんだってシーラさん!?」


「私たちを探し出すため……って!?」


 感情がモロ出しの二人に、シーラは苦い顔をしながら言う。


「色々駆け引きもクソも無くなっちゃうのでお二人は少し黙ってください……」


 異邦人の男はそんなシーラ達の様子を見て笑いながら答えた。


「ククク……いいだろう。俺の名前はライオネルだ。”レベル”は23で、能力名は”魔物召喚”。お前たちは……」


「ユウキだ」


「私はアオイ……、だけどなんなのよその名前。ふざけてんの? ……でもなんかどっかで聞いたことのある名前の気が……?」


「そんな事はどうでもいいですから……! 今はあの魔物をどうするか考えてください……!」


 シーラはユウキ達を窘めるように言う。ユウキたちもようやく目の前の魔物たちに目を向け、そして身構えた。


「そうだよな……! なんか凄い強そうだけど……!」


「くくく……行けえ!」


 ライオネルが右手を前に向けると、魔物たちが一斉にユウキたちに向かっていく。ユウキがみんなを庇うように前に出て、木の棒を前面に構えた。


「くそぉぉぉ!!! やるしかねえ!!!」


 ユウキは木の棒を振り回し、悪魔型の魔物に殴りかかる。すると次の瞬間、その魔物は顔を歪ませ、そして10メートル以上きりもみ回転しながら飛んでいき、近くの壁に叩きつけられた。その光景を見て、その場にいた全員が唖然としていた。


「え……な……何、今のは……」


 ユウキは自分が起こしたその光景がにわかには信じられなかった。確かに力いっぱい振り抜きはしたが、それでもこんな威力になるなんて想像がつかなかったからだ。それは敵であるライオネルも同じだった。


「ば……バカな……! そんな”攻撃力”……! ありえるのか……!?」


「”攻撃力”?」


 アオイはライオネルが言った言葉に引っ掛かりを覚えたが、そんなことを考えているうちに、ユウキは他2体の魔物も、全て一瞬で倒してしまっていた。しかもユウキは傷一つ負っておらず、息も乱れていなかった。


「なんだ……これは……!?」


 コニールはユウキの圧倒的戦闘力に目を見開いた。ライオネルも先ほどまでの威勢が消え去り、腰が引けている。


「そ……そんな……! スマホだって持っていないのに……まだ来たばっかりのはずなのに……一体何”レベル”あるんだ……!」


 ライオネルはユウキにスマホを向けた。そして調べた結果が出たのか、驚愕した表情で言う。


「ば……バカな……! レベル100……!? ”能力値”がカンストしているだって……!? そんな……こんなこと聞いてないぞ!」


「レベル……攻撃力……能力値……」


 アオイは反芻するようにそれらの言葉を繰り返す。”それ”はあまり言っていて気持ちのよい言葉ではなかったが――。


「……とにもかくにも、まずアンタを捕まえて色々話を聞くべきって事ね……!」


 アオイはライオネルに向かって歩いていく。


「や……やめろ……来るな……!」


「まずはアンタのスマホを取り上げる。……そうすればその”ギフト能力”ってやつは使えなくなるんでしょう?」


 アオイが近づいていく中、シーラはライオネルの行動に違和感を覚えていた。――いや”ユウキ”の行動にも違和感があった。


(なぜ……アイツは武器を取り出さない……? あと……なんで姉さんが向かっているんだ? 普通は兄さんが行くもんだろ?)


 ただそれは単なる違和感であり、そういうもんかと思うことに否定する材料もなかった。そしてアオイがライオネルまであと5歩のところまで近づいた時だった。


「……バカが!」


 ライオネルは剣を抜いて突然アオイへと襲い掛かる。攻撃するなら魔物を召喚してからと思っていたアオイは面食らい、腰が引けて尻もちをついてしまう。


「アオイ!」


 ユウキは一瞬で跳躍すると、ライオネルがアオイに飛び掛かるよりも先に、アオイの目の前に立っていた。その速さにライオネルは絶叫する。


「な……なんなんだよお前はぁ!」


「知らねえよこっちが知りたいんだよ!」


 ユウキはライオネルに対し木の棒を振るう。ライオネルは先ほどの魔物たちの惨劇を思い出し汗が逆立つ。しかし木の棒が当たる直前、ユウキの動きが止まった。


「え!?」


 横で見ていたシーラは急なユウキの動きの止まり方に声を上げる。ユウキの額からは尋常でない汗が流れ、木の棒を持った右手を左手が押さえこんでいた。


「まさか……毒!? それとも他人を操る能力!?」


 シーラはその二つの可能性を疑いライオネルを見るが、その予測が間違っていることはすぐにわかった。ライオネルも何が起こったのかわからない顔をしていたからだった。


「なんだ……? でも……チャンスじゃん!」


 ライオネルは再び剣を構えなおし、今度はユウキへと振りかぶった。


「何が何だかわからないけど……死ねよ……!」


「ユウキ!」


 アオイの叫び声を聞いてユウキは我に返るが、すでにライオネルの剣は目前に迫っていた。


「しまっ……!」


 万事休すのその時、後ろから声が聞こえた。


「怪我したくなければ伏せろ!」


 その言葉を聞いて、ユウキは咄嗟に伏せた。そして何が起こったのか確認しようとした時、ライオネルの驚愕に固まった表情が目の前に現れた。――つまりライオネルが倒されたということだった。


「これは……?」


 ユウキが顔を上げると、コニールが残心を取っていた。


「うぐあ……コニール……隊長……!」


 ライオネルは掠れた声でコニールに手を伸ばすが、コニールはライオネルの胸に剣を当てる。


「まさかお前が裏切り者だとはな……残念だよ」


「そんな……俺は異邦人だぞ……! それに訓練の時だってそんな強さは……!」


 信じられないというライオネルに、コニールは胸に当てた剣を押し込んだ。


「訓練では実力を隠していたのか? ……だが残念だったな。それは私もなんだ」


 コニールは剣を持ち上げると、華麗に一振りした後に鞘にしまう。


「大丈夫かい? 君たちのおかげで助かった……礼を言う」


 コニールはユウキに礼を言いながら手を伸ばす。しかしユウキはその手を取ることができなかった。先ほどの騒動では気づかなかったが、落ち着いたことでコニールの事をじっくり”見ることができてしまった”からだった。


「……? どうした?」


「…………あ、や……やべ……」


 ユウキはコニールを見て惚けていたが、我に返ると赤面しながら自分の力で立ち上がり背筋を伸ばす。


「あ……ありがとうございます!」


 礼をしながらもユウキはコニールを直視できなかった。長くて綺麗な金髪の髪、流れるようなボディラインに豊満な胸。なにより今まで見た何よりも整った顔。


(や……やばい……こんな美人初めて見た……というか声かけられた……)


「さて……先ほどの裏切り者は殺してはいない。これから尋問を……」


 コニールはライオネルを捕えようと目を向けるが、すでにライオネルの足元から光がのぼりはじめ、身体が消えかかっていた。


「な……!? 何が起こっているんだ!?」


「ああ……やっぱダメか……。あの時と同じで倒されると消えちゃうのか……」


 アオイは肩をすくめながら言うが、コニールは驚きながらアオイに尋ねる。


「な……なにが起こっているんだ!なぜ消えて……!?」


 ユウキとアオイ、そしてシーラは3人で顔を合わせる。そしてどう説明すべきか悩んだのち、シーラがコニールに言った。


「……魔法でもない、特別な”能力”を持った奴らでね。私たちもよくわかんねえのよ」


「ふむ……にわかには信じがたいが……。だがこれは私が”調査”している異邦人と……」


「えっ!?」


「知ってるんですか異邦人を!?」


 ”調査”の単語が出て驚くユウキとアオイの二人に、コニールから尋ね返した。


「先の裏切り者も言っていたが、君たちも異邦人なのか?」


「あ……え~と……実は私たちもよくわかってなくて……」


 しどろもどろになりながらアオイが答えるが、女剣士はため息をつきながら言った。


「はぁ……わかった。まずはこの件に関して事情聴取も兼ねた話し合いをしようじゃないか。……そういえば自己紹介がまだだったな。私はコニール。コニール・ウェイライン。パンギア王国に仕える騎士だ」

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