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第2話-④

 町の人々が避難していく流れの大元に、大きめの広場があった。広場に散らばる露店の残骸が、つい先ほどまで人が集まっていたことを示していた。そして今は露店の残骸だけでなく、倒れた兵士たちも転がっていた。もはや立っている兵士は3人しかいなかった。


「なぜ……!? なぜB級の魔物が……!」


 兵士の一人呻くように言う。その視線の先には体長が4mほどはある犬型の巨大な犬型の魔物――ガルカスと呼ばれる種の魔物が、口から血を滴らせながら兵士たちを見ていた。


「コニール隊長……!」


 別の兵士は縋るような口調で残る一人、長い金髪の女剣士の名前を呼んだ。


「くそ……この怪我がなければ……!」


 コニールと呼ばれた女性は、額、そして左腕から出血しており、息が上がっていた。傍らには小型犬を抱えた少女がいた。


「ご……ごめんなさい……私……」


 少女は声を震わせながら謝るが、コニールは優しく微笑んで言った。


「大丈夫……あんな魔物くらいお姉さんがすぐにやっつけてやるから」


 犬型の魔物がじわりと寄ってき始めた。コニールは右手だけで剣を構え、兵士と少女を守るように前に立つ。


「くそ……来るなら来い!」


 瞬間――。ガルガスの脇腹から鉄の棒が出現し、吹っ飛ばされていく。兵士の一人が驚きながら目を見開いてよく見ると、折れた街灯が先ほどまでガルガスがいた場所に転がっていた。


「間に合った……!」


 アオイは息が上がり、汗まみれにしながら駆けてきていた。どこかで拾ったのか大きめのトートバッグを肩にかけている。そして自分が吹っ飛ばした魔物に目をやった。


「はは……本当に魔物ってやつだこれ……。こんな犬見たことねーもん……」


「やっぱあの街灯ぶっ壊しといて正解でしたね!」


 アオイの横にシーラも汗を大量に流しながら手に斧を持っていた。いきなり現れた二人にコニールは驚きながら尋ねる。


「君は……!?」


 息を切らしているアオイはその質問に答えず、逆にコニールに質問した。


「うわ綺麗…………じゃなかった! 兵士さん! あの魔物の名前は!?」


「あ……ああ、あの魔物はガルガスというんだ。B級の魔物で爪や牙で……って君はそんなことも知らないでここに来たのか!?」


「……その女の子を助けてほしいって、その子の母親から頼まれましてね! ……しっかし準備は整えて正解だった……シーラさん!」


 アオイはバッグの中から瓶を3つほど取り出した。そしてそれらをすべて左手で掴む。アオイの攻撃の気配を察知したシーラは戸惑っている兵士たちの肩を叩きながら言う。


「姉さんがあの魔物に攻撃するから、巻き込まれないように早く逃げろ!」


「あ……ああ」


 兵士たちは戸惑いながらも少女と、怪我をしているコニールを抱えて下がっていく。


「飛んでけ……!」


 アオイの左手から瓶が消え、ガルガスが倒れている位置の上空に出現する。そして瓶がガルガスの身体に落ちてくると、それらがすべて割れて中の液体がまき散らされる。アオイは今度はマッチを取り出すと、それを全て擦って一斉に火をつける。


「ありきたりだけど、こんなんどうよ!」


 左手で握ったマッチが瞬間移動してガルガスの身体に着弾する。するとガルガスにかかった液体に火が引火し、ガルガスが燃え上がった。先ほど飛ばしていた液体は着火用の油であり、それが大量に燃え上がって火柱を上げていた。


「ぎゅああああああああ!!!」


「よし! クソ野郎!」


 断末魔をあげるガルガスを見てアオイはガッツポーズをするが、その表情はすぐに強張ったものに変わった。


「う……嘘……」


 ガルガスは燃え上がりながらも立ち上がり、アオイを睨みつけていた。その迫力にアオイは怯えながら後ずさる。


「燃えてんだからさっさと動かなくなってよ……! ちょっと待……!」


「うがああううう!!!」


 ガルガスがアオイに向かっていき、アオイは恐怖で両手を前に掲げて目を瞑った。


「きゃあああああ!!!」


「アオイィィィ!!!」


 次の瞬間、急に黒い影が目の前に現れ、ガルガスを地面に叩きつけられる。そして魔物はピクリとも動かなくなり、炎はさらに燃え上がった。ガルガスが燃え上がる炎を、黒い影からたなびくマントが振り払う。


「うおっ! マントに燃え移った!? あっつ! あっつ!」


 目の前の黒い影に、アオイは目を見張りながら言った。


「まさか……ユウキ……!?」


「ふーっ! ふーっ! ……へへ、ごめんな。遅くなって」


 現れた黒い影はユウキだった。手にはどこからか拾ってきた木の棒が握られていた。


「どうしてここに……!?」


 アオイがユウキに尋ねると、ユウキは照れながら答えた。


「いや……。実はアオイを探して最初は避難所に行ってたんだけどさ。そこではぐれた子供を探しているって人と会って……。そしたら似たような見た目している女の子が助けに行ったって話を聞いてさ。……多分アオイの事かと思って」


「……それだと私たちよりかなり遅く出てない……? 私たちも向かう前に準備してたから時間かかったけど、それでも追いつくには……」


 アオイの問いにユウキは上を指さしながら言った。


「屋根を伝ってここまで来たんだ。ここに来るまでの実験で、10mくらい軽く飛べるのはわかってたろ? だから屋根まで飛んで、上を走ってきたわけ」


「ははは……滅茶苦茶するなぁ……」


 ユウキとアオイは互いに笑いあい、そしてしばらくしてユウキが頭を下げた。


「……ごめん、アオイ」


 その声には一切のふざけた感情が含まれていない、真剣なものだった。


「お前の気持ち……わかってたはずなのに。何やっても許されるって勘違い……いや、単純に俺が人と話す時に何にも考えてないだけだよな。……アオイと話してそれを気づかされた」


「……いいよ。別に」


 アオイはユウキの手を取った。


「私だって……あんたなんだから、同じことをしちゃうだろうし……それに言うでしょ?人のふり見て……って今回は我がふり見て我がふり直せ……だけど」


「……ふふ。そうだな」


「兄さん! 姉さん!」


 事態が終わったことを察してか、逃げていたシーラ達がユウキ達の方へ駆け寄ってくる。


「すごいじゃないですか! B級の魔物をたった二人で倒すなんて! そんじょそこらの兵士じゃできませんよそんなの!」


 シーラは横にいた兵士たちを指さしながら言う。その傍らには犬を抱えた少女もいた。


「お兄さん……お姉さん……ありがとう……」


 少女はユウキ達に礼をする。ユウキとアオイは恥ずかしがり顔をそむけた。そして話題をそらそうとユウキは先ほどの魔物について尋ねる。


「そういえば魔物がB級とか何とか? ……じゃあさっきのやつ弱い方なのか?」


 ユウキが不安がりながら言うとアオイは捕捉して言った。


「どうやらAが一番上でBは上から二番目みたいよ。つまり結構なやつってこと」


「へえ……マジか……」


 ユウキは自分の手をまじまじと見た。


「……全く苦労しないでこんな力をもらっていいんだろうか……」


 そのユウキたちの様子を”兵士の一人”が見ていた。そして心中で呟く。


(そうか……こいつらが……)


 ――そしてその様子を、”怪しんでいた”シーラは見逃さなかった。


「あ、あんなとこにスマホが落っこちてる」


 その言葉を聞き、ユウキとアオイと”兵士の一人”が咄嗟に反応し、横で聞いていた別の兵士とコニール、そして少女は何も反応できなかった。


「何を言っているんだ……?」

「……スマホ? なにそれ……?」


 コニールと少女の反応を見て兵士はしまったと口を開き、シーラはしめたとばかりにユウキ達に言う。


「兄さん! 姉さん! 今だ!」


 しかしユウキ達も何が起こったのかわからず呆然としていた。


「……え?」


「スマホなんてどこに落っこちてるの……?」


 全く動く気配のない二人を見て、シーラは絶叫した。


「何やってんすか二人ともおおお!!!」


「くそっ……!」


 1番早く反応できたのはコニールではあったが、怪我をしている身では対応が遅かった。剣をスマホに反応した兵士に振りかかるものの、避けられてしまう。


「へ……へへへ……残念だったな……召喚!」


 その兵士は懐からスマホを取り出すと、前面に振りかざす。するとスマホから光が3つ飛び出し、兵士の前にその光が降り立つ。犬型の魔物、ゴブリン型の魔物、悪魔型の魔物の3体が現れた。それを見てユウキとアオイもようやく事態を理解する。


「あ!まさか!」


「こいつが異邦人だったの!?」


 兵士――の恰好をした異邦人が兜を捨て、顔を振り、黒い髪の毛から汗がはねる。兜を脱いだ兵士の顔が嗜虐的な笑みで醜く歪んでいた。


「まさかバレるとはな……! なら予定変更だ……ここで全員殺す!」

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