第2話-②
ユウキとアオイの二人は町までの往路の中で、様々な実験をすることになった。そしていろんなことがわかっていった。
アオイが近くの石を3つ拾うと、それをすべて左手に持つ。そして右手を草原の先に向けると、3つの石がすべて20m先の空中に現れた。それを見てシーラが考えるように顎に手を当てながら言う。
「姉さんの”瞬間移動”は射程距離が20mか……。そして20m先で慣性を失って落ちるか、もしくは移動の慣性がついたまま飛んでいくかは、姉さんの操作次第で選べると。飛ばせるものに関しては重量の制限を受けず……」
アオイはシーラの肩を左手で触り、そして右手を進行方向の先に指す。そして気合を込めると、シーラが10mほど先に瞬間移動していた。
「……飛ばす距離については微調整は可能であると」
「はえー……なんかすっごいわねこれ」
アオイは自分の右手を見ながら感心するように言った。そして今度はシーラはユウキの方を見る。ユウキは後方100mの位置におり、走り出す直前の構えを取っていた。
「じゃあ兄さん! 合図しますからお願いしますよ~!」
シーラは右手の指を三本立てて掲げる。
「3! 2! 1! スタート!」
合図したとたん、ユウキはシーラ達の方へ向かって走り出した。尋常でない速さであり、おおよそ人間のだせるスピードを遥かに超えており、アオイはその動きを見て気味の悪い合成映像のような感覚を抱いた。ユウキはシーラの横に着くと、ぴったりと停止してシーラの顔を覗き込む。
「ゴール! ……で、何秒だった?」
シーラはそのユウキのスピードを見て、ドン引きしながら答えた。
「ご……5秒です……100mを……5秒……」
「100mが5秒って……! 車より速いじゃない!?」
アオイも驚愕しながら言う。
「100m5秒ってことは、1分で1200mで、時速で換算すれば72kmでしょう!? しかもまだ余裕あるような状態で!?」
「に……兄さん。ちょっとその場で思いっきり上に飛んでみてもらっていいですか?」
「え? うんわかった」
ユウキはその場で膝をまげて屈むと、一気に上に跳躍する。すると2m、3mというような高さではきかず、グングン上に飛んでいく。ある程度飛んで行った段階でユウキも飛びすぎたことに気づき、空中で慌て始めた。
「や……やばっ!? こんなの着地む……!」
しかし重力には逆らうことができず、今度は落ちて行ってしまう。しかし着地する体勢を取っておらず、腕から派手に落ちてしまった。
「いってえええええ!!!」
「大丈夫!?」
ユウキは派手にもだえ、アオイが心配してユウキを抱き起こすが、シーラはそれを無視して今の結果を考え込んでいた。
「なるほど……10m以上は飛んでたか……これ……もしかして……」
「ちょっとシーラさん! ユウキのことを少しは心配……!」
「え? だって別になんも怪我してないでしょう?」
シーラがあっけらかんと言い、アオイは落ち着きなおしてユウキの身体を見る。
「……あ、本当だ。かすり傷もついてない……」
「……痛いことは痛いんだけど……」
ユウキは泣き言を言うが、シーラは何かをひらめいたのか、指を鳴らしてユウキたちに向きなおった。
「そうだ兄さん姉さん! 面白いこと思いついたんだけど!」
楽しそうなシーラにユウキとアオイは肩をすくめながら言った。
「シーラさん……俺たちをなにか楽しいオモチャだと思ってんのか……?」
「私たちより私たちで楽しんでるよね……」
× × ×
そしてそうこうしながら1時間歩いていると、町までたどり着いた。そして町の大通りまで出ると、シーラが元気よく手を振りかぶって、ユウキたちに町を案内する。
「じゃじゃーん! ここがオルレアの町です! 人口はおおよそ4000人ほどの大きくも小さくも無い町ってことですね。パンギア王城まで歩いて2日くらいの距離のところなんで、宿場町として栄えた~って感じですね」
シーラの説明を話半分に聞きつつ、ユウキとアオイは町並みを見て感嘆していた。
「うわ~思った以上にファンタジーな町並みだな~」
「ほんと…ゲームで見たやつそのまんまだ」
木造とレンガで建てられた建物が並び、道路は石畳、そして当然車は通っておらず、人や馬車が行きかう往来。まさしくユウキたちが想像する中世ファンタジーまんまの風景だった。
「さっきからファンタジーだのゲームだのって言葉をよく言いますね。ゲームってチェスとかのことじゃないんですか?」
シーラがユウキたちに尋ねると、アオイは苦笑しながら言う。
「ごめんごめん。私たちの世界では、ゲームって言うとテレビゲームのことを指すのが殆どなの。テレビっていうのはガラスの板に映像が映るものでね……。その映像で遊ぶものなんだ」
アオイの説明を聞いたシーラは唸りながら腕を組む。
「う~ん……要領を得なくてよくわからんですが……まぁ実際に見てないとわからんやつですねそれは。そんなことより、せっかく町まで来たんだし、色々遊んでいきましょうか」
「遊ぶって……ディアナさんの買い物は?」
「べっつにお祖母ちゃんの買い物なんてこうしちゃえばいいわけですよ」
シーラは近くにあった露店に駆けこんでいく。そして露店の商人にきさくに声をかけた。
「よぉ。調子はどう」
シーラに話しかけられた商人は、シーラを見ると目を見開き、そして額に汗を浮かべながら応対する。
「ど……どうも……今日はどのような用件で……?」
シーラはディアナから受け取っていた巾着袋を商人に渡す。
「とりあえず4人分の食料を1ヶ月分と、多分その袋の中にメモが入ってるから適当に揃えといて。夕方になったら取りに来るからうまい具合にまとめといて。帰りはあの兄さんが一人で持っていくからそのつもりで」
「え……? 一人でって……?」
「いいからやっとけよ」
「は……はい!」
商人はシーラから巾着袋を受け取ると、すぐに行動に移り始めた。そして話が終わったシーラは笑顔でユウキたちの下へ戻る。
「お待たせしました~」
しかしユウキとアオイはシーラを怯えた目で見ており、不思議がったシーラはユウキたちに尋ねる。
「……? どうしたんです?」
「いや……シーラさん怖すぎ……」
怯えるユウキに、シーラが大きく笑いながら言った。
「いや~さっきのはちょっとした知り合いってやつでしてね! 別にあれがアイツの仕事ですから気にしなくていいですって! ……あと」
シーラはアオイに指を指して言う。
「別に私のことはシーラでいいですよ。兄さん姉さんたちより年下なんですから」
「女の人にタメ口で話しかけたことないんだよな……」
ぼそりと呟くユウキにシーラは目を細めて言う。
「に……兄さん、そんな非モテ男みたいなこと言わんでくださいよ……」
「いや……モテたことないしな俺……」
「まぁいいや……とりあえず、まず食事でもしますか。二人ともお腹すいたでしょう?」
ユウキとアオイは互いに顔を合わせ、そしてお腹に手を当てながら言った。
「確かに……」
「そういえば家を出てから何にも食べてなかったな……」
シーラは微笑みながら二人の手を掴み、大通りの方へと足を進めていく。
「じゃあその辺の露店で昼飯でも買いましょうか!なんでも食べてくださいね!」
× × ×
ユウキとアオイはシーラに連れられて大通りにある露店をそれぞれ見て回っていた。そしてそのどれもが新鮮味にあふれていた。
「うわ、見ろよアオイこれ」
ユウキは露店の一つを指さした。するとそこは肉屋であったのか、串に通されたマンガのような肉が何本を熱せられていた。
「うわ~すごい。マンガ肉を生で見るなんて……」
「うおっ! アレすごいぞアレ! なんかでっかいお餅みたいのが!」
ユウキが別の露店を指さすと、非常に大きな餅みたいなものが、鍋からあふれんばかりに膨らんでいた。
「見てみてユウキ! 向こうはたこ焼きみたいのもあるよ!」
「え!?」
アオイが指さした方を見ると、そこではたこ焼き器まんまの器材でたこ焼きのようなものが焼かれていた。
「しかも店の前にソースと……マヨネーズもある!?」
「え!? シーラさん……こっちの世界にはマヨネーズあんの!?」
ユウキが尋ねると、シーラは呆れながら答えた。
「え……マヨネーズくらいありますけど……。あ、でも開発されたの60年くらい前とか聞いたな……そんな古い歴史は無いんですよね。……そんなにあるのが不思議でした?」
「いや……こういう異世界では無いっていうのがお約束だったから……」
「少なくともマヨネーズを開発して無双って線は潰されたわね。……作り方知らないけど」
「ふふ……そうですか。お二人共、ほんと遠慮せずにガンガン買っちゃっていいですからね」
「「りょ……了解です!」」
二人はシーラに敬礼すると、露店で目についたものをかたっぱしから買い始めた。
「この饅頭美味そうだな……アオイお前も一つ食う?」
「焼きそばもあんの!? こっちにはフルーツ飴もあるよ! ……何か見たことない果実の」
「あ、アオイ俺荷物持つよ。……あとこれ食べたいなら、俺が半分食べるから買っちゃっていいよ。こっちも食いたいんだろ?」
二人は――というより結城葵は日本にいたころ、祭りには行ったことはあったが、屋台で何かを頼むということを殆どしたことがなかった。家は子供のころから貧乏で結城葵もそれをわかってか、母親におねだりすることを遠慮していたからだ。
そして成長してからは一緒に祭りに行く友達もおらず、仮に行ってもそんなお小遣いもなかった。そういうこともあってかユウキとアオイの二人にとって、この買い食いは初めての経験だった。
そして二人の様子を横から見ていてシーラはユウキに感心していた。アオイの荷物を常にユウキが持つように配慮しており、なによりユウキは自分が食べたいものよりも、アオイの食べたいものを優先して選ばせるようにしていた。
(私が二人に分裂する機会なんてまずないだろうけど、もしそうなったらあんな風になるもんなのかね。……それにしてもまぁ仲が良いことで)
シーラは声に出さず内心で呟いた。その仲の良さに少し思うことがあったが深く考えることはせず、二人が落ち着いてから声をかける。
「よし、じゃあ飯は買いましたかね。それ食ったら今度は真っ先に必要なものを買いに行きましょう」
「真っ先に必要なもの?」
ユウキはシーラに尋ねるが、シーラはユウキの服装――学ランを指さしながら言う。
「ええ、そうです。まずはその服なんとかしましょう」




