第2話-①
戦いが終わり、ユウキたちは一旦家に戻った。先の戦闘で重傷を負ったディアナをベッドに運び、ディアナの指示の下、アオイとシーラは治療を行っていく。
「いつつつ……どうやら命に別状はなかったけど、大分引きずりそうねこの怪我は……」
ディアナはコルセットを巻いた腰を庇うように手をあてる。アオイはそのディアナの様子を見て驚いたように言った。
「でも凄いですね……。回復魔法ってやつで怪我を治療して、動けるくらいには治せるんだから……。日本じゃまだうんうん唸ってるところですよ」
ディアナは鎧人形にやられたあと、意識を取り戻して自分の怪我を自分の魔法で回復していた。しかしすぐに治るものではなく、身動きが取れない状態になっていた。
「あんたの世界は本当に魔法が無いんだねえ。……で、あんたの世界の人間はみんなあんな風に頑丈なのかい」
ディアナは壁際で待機しているユウキを指さしながら言った。アオイはユウキに目くばせをし、そして首を横に振ってこたえた。
「……いいえ。少なくとも私が結城葵だったころには、あんな身体はしてなかった。……ディアナさんすみません。”異邦人”って単語、聞いたことありますか?」
「……いいや。全くないね。ただ……」
「一連の文脈を考えると、”姉さん”みたいに異世界から来た人たちを、異邦人って言っているのかもしれないっすね」
シーラがディアナの言葉に続けるように言い、アオイはその言葉に引っ掛かりを覚えてシーラに尋ね返す。
「……姉さん? というかなんか口調変わってない?」
シーラは照れながら答える。
「……ん? いや……いいじゃないですか。兄さんも姉さんも私より年上なんだから」
「あ……俺も兄さんなんだ」
ユウキは困惑しながら言った。シーラは外していたユウキも会話に入れながら話を続ける。
「アイツから出た単語をまとめると、”異邦人””ギフト能力””そして”クエスト”……多分これは依頼ってことでしょうね。異邦人がさっき言った通りで、ギフト能力っていうのが姉さんが鎧を飛ばした奴のことでしょうかね?」
シーラはアオイの左手を指さして言う。アオイは無言で左手で近くにあったコップを掴むと、右手をユウキの方へ向けた。そして次の瞬間、アオイの左手からコップが消え、ユウキの手元に消えたコップが出現した。突然現れたコップにユウキは驚愕する。
「な……!? アオイ!? お前今いったい何したんだよ!?」
アオイは暗い面持ちでユウキに答えた。
「……わからない。さっきの鎧を相手にしてる時に、とっさにできるようになったんだ。あの異邦人ってやつがこの瞬間移動や鎧を操作してるのをギフト能力って言ってた。……ありがちだけどさ、もしかして異邦人にはこういった能力が与えられるんじゃないかな?」
ユウキは手元に現れたコップを弄びながらしかめ面をする。
「ははは……そんな漫画のような話が……って言いたいけど、もうこれは目の前で起きてる現実なんだよな……」
ユウキはコップをそのまま握りつぶした。
「……俺のこの力も、そのギフト能力ってやつなのかな?」
「う~ん……」
アオイはその言葉に微妙に同意ができなかった。確かにユウキの力は結城葵だったころにはないものではあったが、瞬間移動といった超常的な力と比較すると、けして特別なものではなかった。しかし確証が得られず言うか悩んでいる間に、ユウキが何か衝撃を受けて後ろにのけぞっていた。
「あんたねえ……私の家の家具をノリで破壊するんじゃないよ」
ディアナがユウキに魔法を放っていたのだった。
「す……すみません……」
ユウキは涙目になりながらディアナに謝った。それを傍目で見ていたシーラは話題を戻すように一度咳を入れた。
「……コホン。そして最後にクエスト……ってことだけど、これ兄さんたちが異邦人に狙われてるってことになりますよね」
そのシーラの推察にユウキもアオイも胃がうねるような感覚を覚えた。
「……これがよくわかんないんですよ。俺たちが一体何かしたのか?」
ユウキは納得いかないとばかりにシーラに言うが、シーラも肩をすくめて言った。
「私にもわかんないです……。でも一つハッキリしてることがある。その追手を倒しちまったってことは、もう交渉はできない。また追手を差し向けられるってことですね」
そのシーラの言葉に、ユウキとアオイはさらに落ち込んだ。そしてユウキとアオイは顔を合わせると、背筋を伸ばしてディアナ達の前に立つ。そして頭を下げながらユウキが謝った。
「……巻き込んでしまって本当にすみません……。追手が来るって言うならお二人に迷惑はかけられません。すぐに……」
「待った」
ユウキの言葉をさえぎるようにシーラが手を伸ばす。
「……さっき兄さんが壊したコップ。いったい幾らかわかります?」
「……?」
ユウキは先ほど握りつぶしたコップの破片に目をやる。
「ええと……300円くらい?」
「円ってなんですか……。まぁそれが兄さんたちの世界の通貨なんだろうけど、この世界ではリンって言うんですよ。……で、これはある陶芸家に作らせた逸品ってやつでしね。……3万リンするわけですよ」
「3万リン……? それってどんくらい……?」
状況を呑み込めてないユウキに、シーラは悪戯っぽく言う。
「ま……この家が3つ買えるくらいの値段ですね」
「いっ!!!???」
ユウキは額から汗が噴き出し、アオイは口をあんぐりさせながらシーラに言う。
「な……なんでこんなところにそんなコップがあるんですか!?」
アオイが尋ねると、シーラは自慢げに答える。
「お祖母ちゃんはロマンディ家という、この東大陸で魔法を修める一族の前当主でしてね。……まぁ、ありていに言えば大金持ちなわけですよ。このコップも東大陸一の陶芸家が知り合いにいて、そいつに贈り物としてもらったものなわけで」
シーラの説明を聞き、ユウキとアオイは何も言うことができず、ただモジモジするだけになってしまった。シーラはディアナに目くばせをすると、ディアナはため息をつきながらシーラの話に続けて言った。
「まぁ……シーラの言う通りさね。……なに、私も鬼じゃない。しばらくこの家で私の研究の手伝いをしてもらえればいいさ。……ほら」
ディアナはベッドの下から巾着袋を取り出すと、それをシーラに渡した。
「まずはシーラと一緒に町に買い物に言ってもらおうか。……買い物には男手が必要だからねえ。特にユウキ、あんたには今、妙なバカ力があるんだから、猶更頑張ってもらおうか」
「は……はい!」
必死に返事をするユウキを見て、シーラは苦笑をこらえるのに必死だった。そしてそんな孫を見て、ディアナは心の中で呟いた。
(全く……シーラもよくやるよ……。あんなあからさまな”嘘”をとっさに思いついて、この家に無理やりいさせる形にするなんて。そして私の目に狂いはなかったな。……あの二人は良い子たちだ)
シーラの言葉が仮に本当だとしても、ユウキとアオイはそれを無視して逃げ出せばいい。ディアナも重傷で動けないのだから、それは二人からしたら容易なはずだった。
しかし二人はそれを選ばなかった。単にお人よしなのか頭が足りないのか、ディアナは前者3割・後者7割くらいだと想像したが、むしろ好ましい感情を抱いていた。
それだけの子であるなら信じていい、そう思っていたからだ。
× × ×
ディアナの言いつけで買い物に出た三人は、町まで続く草原を歩いていた。数日間彷徨い歩いていたことを思い出したアオイは気分悪そうに胸を抑える。
「うえ……しばらく草原の光景がトラウマになりそうだわ……」
気分悪そうにするアオイにシーラは言う。
「運が悪かったですね。別にこの草原もずっと続いてる訳じゃないんですよ。なんなら途中で街道にぶつかることのが多いくらいですから。綺麗によけてたんじゃないかと」
「運が悪い……ね……」
アオイは自分の左手を見ながら呟く。訳の分からぬうちに訳の分からない世界に来て訳の分からない力を手に入れた。これが運が悪いのか否か。アオイにはよくわからなかった。
「で、姉さんに兄さん。ちょっと提案があるんですが」
「なに?」
アオイがシーラに尋ねると、シーラはアオイの左手を握った。今は女に”なっている”とはいえ、今まで女の子に手を握られたことが無いアオイは恥ずかしがって手を払ってしまうが、シーラは気にせず続ける。
「兄さんと姉さんが、一体どれだけ何ができるか、確かめといたほうがいいと思いませんか?」
「何が?」
「できるか?」




