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第12話-④

 ユウキは目を覚ますと、自分が木の床に突っ伏していることに気づく。全身が激しく痛み、辛うじて動けはするものの、もう戦うのは無理だと身体中の全ての器官が訴えていた。何とか身体を起こし、周囲を見渡すと自分が民家に落ちてきたことを理解する。天井はユウキが落ちてきたためか崩落していたが、それ以外にも先ほどタカシが暴れていたこともあり、建物全体が崩れかけていた。


「あぶね……早くここから離れないと……」


 そこまで判断できるくらい頭が回復してきて、ようやく今度はタカシの事を思い出す。タカシがどこにいるかユウキは辺りを見て探すと、それはすぐに見つかった。


「こいつ……! まだ……!」


 ユウキと同じように近く床に倒れていた。すでにドラゴンの身体は無くなっており、やせ細っただらしのない体格が露わになっていた。しかしまだ異邦人が消えるとき特有の光は発せられておらず、まだ健在であることがわかった。


「気を失ってるうちに……トドメを……!」


 ユウキはトドメを刺そうとタカシに近づいていく。――だが。


「うぅ……」


 ユウキの背後で弱弱しい声が聞こえ、ユウキは思わず振り向いた。そこには老人の男性がベッドで寝たきりの状態になっていた。それを見てユウキは絶句する。


「避難できなかったのか……! 動けなくて……!」


 そして天井からパラパラという音が聞こえ、ユウキは上を向いた。建物全体の崩落が始まりかけており、今にもガレキが落ちてきてもおかしくない状況だった。


 ユウキはタカシの方にも振り向く。あちらもいつ起きてもおかしくない。何よりトドメを指すのは今しかない。だけどいつ建物が――。しかしユウキは迷うことはなかった。


「…………ここは危険です。一緒に離れましょう」


 ユウキは老人に手を伸ばした。老人は涙を流しながらユウキに礼を言う。


「ありがとう……ありがとう……!」


 ユウキは微笑んで老人に返答した。


「いえ……落ちてきた俺が悪いんですから、天井も弁償しますよ。金持ちの友人がいるから、そいつに出してもらって……」


 そしてユウキが老人を背負った直後、その背後から“悪意”を持った存在が忍び寄ってくる。


「いひひひ……! バカが……! クソが……!」


 タカシの手には近くに落ちていた木材が握られていた。そしてユウキは老人を背負っており、タカシの接近に気づいていなかった。タカシは老人ごとユウキを叩こうと、木材を振りかぶった。


「バカがぁぁぁぁーーー!!!」


 ――――しかし、その木材がユウキに当たることはなかった。


 ドスン!という音が聞こえ、ユウキはようやく背後を振り返る。ユウキの背後に巨大な穴が開いており、さらにタカシの姿も消えてなくなっていた。


「な……何が起こったんだ!?」


 ユウキは先ほどまでなかった穴を覗くと、穴の下から光の粒子が昇っていた。その光の粒子に照らされて、下に落ちた巨大なガレキが見えていた。


「……まさか、俺を背後から襲おうとして、ちょうどのタイミングでガレキが崩れて、それに巻き込まれて消えてったのか……?」


 崩れた位置を見てユウキはゾッとした。もし自分が老人を助けるより、タカシのトドメを優先していたなら、崩落に巻き込まれていたのは自分だったからだ。逆にタカシはユウキを背後から襲うようなことをしなければ、崩落に巻き込まれずに済んでいたはずだった。


 最後の最後の決着は、それぞれの人間性を示すものだった。他者を助けることを優先したユウキは偶然に救われ、他者を害することしか考えなかったタカシがまさに“運命”に裁かれた形となった――。


× × ×


 そうして騒乱と破壊にまみれたクーデターは一夜で終わることになった。クーデター派の首魁であるエドワード王子は“流れ弾”で亡くなり、代わりにエドワード王子の“妃になる予定”であったコニールが、クーデターを“首謀”した犯人として責任をとることになった。


 しかし現体制派のルシアン王も逃げ出そうとしていたところを、城下町の関所付近で見つかってしまった。そもそも悪政を敷いていたことがクーデターが起きた原因であったため、そのまま王への弾劾決議が通ってしまい、王座から追われることになってしまった。更にルシアン王について汚職の限りを尽くしていた大臣その他も、まとめて縄につくことになった。


 クーデター派の面々については、コニールが全責任を負う形となりはしたものの、普通に略奪行為等を行っていたこともあって、犯罪を犯したものは閑職送りにされることになった。ウェインも同じく国の中枢から追い出されることになり、最果ての開拓地に送られる流刑扱いになった。


 ウェインが国を離れる際、コニールは会うことは無かったものの、ウェインに手紙を書いていた。コニールはウェインと敵対関係になってはしまったものの、騎士見習いだったころから世話になっていたこともあり、感謝している面もあったからだ。


 それを呼んだウェインがどう思ったかは定かではないが、ウェインは流刑になる際にも反論もせず黙ってそれを受け入れたのは、事実の一つであった。


 守護竜エルヴィスはタカシと分離したものの、すでに命は奪われており元に戻ることは無かった。しかしエルヴィスには子供がおり、その子供が新たなパンギア王国を守る守護竜になったこと。タカシがドラゴンの姿で破壊の限りを尽くしたことで、エルヴィス自身が行った破壊も全てタカシに擦り付けられていた。そのおかげで守護竜のおとぎ話は人々に否定されることなく、今も脈々と受け継がれている。


 一時的に王位が空白になったパンギア王国ではあったが、結局人の営みというものはそう変わるものではなく、すぐに別の有力な王の候補から新しいパンギア王が決まっていた。そしてその王はルシアン王の政策を全て見直すことを宣言し、この一連のクーデターは関わった人間が誰一人得することなく終わっていったのだった――。


× × ×


 ――クーデターが終結してから3日後。


 ユウキは全身包帯ぐるぐる巻き状態でベッドに寝ていた。ベッドは窓際に配置されており、開いている窓からは爽やかな風が吹いていた。ここはシーラが出資しているホテルの1室であり、クーデターが終わってからはここに匿われていた。


 ユウキの怪我の具合はかなり深刻であった。もはや負傷していない箇所を探す方が早いくらいには全身ボロボロであり、回復魔法や魔法薬を併用しても、全治まであと2週間はかかるとのことだった。


「我ながらよくここまで頑張ったもんだよ……ねえアンジュさん?」


 ユウキは隣で寝ているアンジュに声をかける。アンジュも意識不明の重体であり、ユウキと共に看病を受けていた。タカシの光線を防ぐ防御魔法を展開した際に、限界を超えて魔力を使いすぎてしまい、全てが終わった後に意識を失ってユウキと共にここに運び込まれていたのだった。


 部屋の扉が開けられ、アオイとコニールが大きな荷物を持って入ってくる。アオイは普段通りの恰好であるが、コニールは帽子をかぶり、サングラスもかけて変装をしていた。しかし二人とも身体中の至る所に包帯が巻かれており、まだ怪我が治っていないことを覗わせた。


「ユウキ~ただいま~。着替えやら食事やら色々買ってきたよ~」


「ただいま。はぁ……なんか道行く人々が私のこと見てきてるみたいだよ……」


 コニールはクーデター派の首謀者として指名手配を受けることになってしまっていた。責任者としてクーデターを終わらせる宣言はしたものの、流石に牢屋にまで入るのは勘弁願うとのことで脱走していたのだった。コニールの愚痴を聞いて、ユウキは苦笑する。


「ははは……まさか俺も指名手配されるというか、コニールさんとペア扱いになってるなんてね……」


 指名手配を受けていたのはユウキもであった。守護竜による破壊がタカシに擦り付けられたとはいえ、守護竜自身を倒してしまっているのは多くの人に見られてしまっており、その罪はしっかりと記録されてしまっていた。


「クーデターを止めて、悪い王様を降ろして、悪いドラゴンから町を救って、全身包帯だらけになったけど、結局何にも得られなかったわけか……」


 ユウキは少し憂いを帯びた表情で呟く。するとまた扉が開けられ、今度はシーラが入ってきた。


「そんなこともないですよ。きっちり“得られたもの”はありました」


 部屋に入ってきたシーラにアオイは笑顔で手を振る。


「お帰りシーラ。……で、どうだった?」


「姉さんの推測どおりでしたよ。ビンゴでした」


 シーラはみかんが大量に入った紙袋を持っており、それを近くのテーブルに置く。そして部屋にいるそれぞれにみかんを配りながら話を続けた。


「次の目的地が決まりました。“オレゴン自治領”です」


「オレゴン自治領……?」


 ユウキはどこかで聞いた覚えのある言葉を必死に思い返す。そしてみかんを見て、その言葉をどこで話したかを思い出した。


「そうだ! 黎明亭のみかんジュースの仕入れ先!」


「正解。よく知ってましたね」


 シーラはユウキを指さし、みかんの皮をむき始めた。


「オレゴン自治領は40年前からずっとある領主が治めているんですが、実はその領主、過去に“勇者”って呼ばれてたことがあるんですよ」


「勇者……?」


 ユウキは馴染みはあれど、まず口にすることはない単語に引っかかりを覚えた。そのユウキの疑問にはコニールが答えた。


「これは40年前の歴史の話になるんだが、まだ東大陸に多くの魔物がいた頃、魔王と呼ばれる魔物たちの王がいたんだけど、その魔王を倒して平和を取り戻したのがその“勇者”だって話だ。……たしかにオレゴン自治領の領主が過去のソレっていうのは私も聞いたことがある」


 今度はアオイがコニールに続いて話しはじめる。


「私が鈴木先輩に監禁されてた時、過去に“勇者”って呼ばれた異邦人がいたって話を聞いたの。それでシーラに頼んで、そのオレゴン自治領の領主の過去を調べてもらった」


 シーラは皮をむいたみかんを取り分けると、さらに乗せてユウキのベッドの方にまで来た。


「で、調べたところビンゴだったわけで。40年前に魔王と戦う前の過去が、その領主にはなかったんです。当時20歳くらいだったのに。“突然現れた”くらいの記載しかありませんでした」


 シーラは取り分けたみかんをユウキの口にまで持っていってあげた。話の流れの中でみかんを差し出される形になり、ユウキは頭を下げながらそのみかんを食べる。


「どうです? 美味しいですか?」


「うん。美味い。美味いっていうか……」


 ――どこかで食べたことがある味だった。そして何よりも。


「……種が無い?」


「ええ。そうです。この“ウンシュウミカン”は種が無いんですよ。そしてこれを栽培したのがそのオレゴン自治領の領主“トスキ”ということでした」


 それを聞いてユウキは合点がいった。食べたことがある味なのは当たり前であった。なぜならそのみかんはユウキの出身地である九州で育てられた――。


「ウンシュウ……“温州ミカン”か……。なるほど、そのトスキって人に会いに行く価値はありそうだな……!」


「ええ……。あと、もう一つ。私たちが戦って得られたものがありました」


「もう一つ?」


 ユウキがシーラに尋ねると、シーラは微笑みながらユウキに答えた。


「はい。モモさんが目を覚ましました」


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