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第12話-③

 タカシ――井上崇は実年齢42歳であり、日本にいたころは20年以上引きこもっていた。そして家で何をやっていたのかというと、ネットで誹謗中傷を繰り返すいわゆる“荒らし”であった。


 それも悪戯という度を完全に超えた、数多くの被害者を出していた荒らしであり、やっていいラインを完全に超えてしまっていた。そのせいで誹謗中傷で様々なところから、開示請求をくらうことになってしまっていた。


 しかしタカシはそれでも辞めなかった。自分を訴えてくるということは都合が悪いことなんだと、ず抜けた他責思考で自分の都合のいいように認知を歪めていた。


 そしてとうとうタカシからネットが取り上げられることになった。タカシは発狂し、自分を認めない有象無象への殺意を募らせていった。そして通り魔殺人の計画を立て、いざ実行しようとした直前にそれは阻止されることになった。――“母親”の手によって。警察に通報され、連行されることになった。


 そして連行される最中、タカシは光に包まれてこのエルミナ・ルナに来ることになった。最新最強の第五世代の異邦人として――。


× × ×


 タカシはこの世界に来ても、どこからも、誰からも受け入れられることはなかった。それは間違いなく本人のせいであるが、本人からしたらすべて他人が悪かった。タカシにとって町への破壊は“正義”の復讐であり、正当な行いだった。


 だからこそ自分は被害者であり、自分は何をやっても許されると都合のいい解釈を行っていた。モモを食ったのも単に目の前にいたからにすぎなかった。自分が突然強くなったという自覚もなく、ただユウキを簡単に倒せるようになったことにタカシは歓喜していた。


「アッハッハッハ!!! 俺は! 俺は最強だぁぁぁ!!!」


 尻尾により吹っ飛ばされたユウキは立ち上がろうとするが、今度は左肩が折れてしまっていることに気づく。全身ボロボロで息も絶え絶えであったが、それでも闘志は失っていなかった。


「こいつは……“邪悪”だ……! ここで止めないと、気の向くままに破壊を広げる……!」


 ルシアン王も、エドワードも、他の異邦人も、自分の欲望に沿って動いていたがまだ理性があった。しかしタカシはその理性が完全に壊れてしまっていた。ユウキもここにきて、相手が“生かしてはいけない”存在だと気づかされてしまった。


「俺が……止める……こいつを……“こ”……!」


 次の瞬間、タカシの真上に巨大ながれきが出現し、タカシの脳天に落ちてくる。防御もできなかったタカシは頭を押さえて悶絶し、辺りを見渡した。


「どこだぁ! どこにいる!」


 そして2つ、3つとがれきが出現し、それぞれがタカシで向かっていく。今度はタカシも防御をすることに成功するが、その隙にタカシの背後から火球が飛んできて、タカシの胴体部分で爆発が起こる。タカシはのけぞるものの、いまだに健在であった。


「しまった……!」


 タカシの背後にあった建物から魔法を放っていたアオイは、タカシに対して放った魔法が全然効いていないのを見て驚愕する。そして逃げようとするが、その前にタカシはアオイのいる建物に向かってパンチを放とうとする。


「ふざけるなぁ!」


「ふざけてるのは貴様だ!」


 タカシの足元にコニールが潜んでおり、タカシの足を切り刻む。タカシはバランスを崩すものの倒れることはなかった。しかしアオイへの攻撃は中断され、その隙にアオイは逃げ出すことに成功する。


「アオイ……コニールさん……!」


「何とか間に合いましたか……!」


 そしてユウキの背後からシーラとアンジュが現れる。アンジュは泣きながらタカシのスマホを取り出して、ユウキに話す。


「シズクさんのスマホの通話が途切れました。……シズクさんは、あいつに消化されちゃったんですね……」


 アンジュのその言葉を受け、ユウキは胸のポケットに入れていたシズクのスマホを確認する。するとあるはずのスマホが跡形もなく消えていた。


 タカシの“食肉同値”について、取り込まれた人間はまだしばらく生きているという話はアンジュから聞いていた。シズクが寄こしたスマホも、シズクが消化されるまでは使えるとの判断の下、渡されたものであると。


 そこでユウキはある発想が閃光のように脳裏によぎった。


「シーラ……聞いてくれ。あいつにモモさんが食われた」


「えっ!?」


 上手く逃げ出したコニールとアオイもユウキに合流し、その話を聞いていた。ユウキは拳を握りしめながら言う。


「鈴木先輩のスマホが消えるまで30分ほどだった。……モモさんが食われたのは5分前だ。今すぐあいつをすぐにぶっ倒せば、まだモモさんは助かるんじゃないか?」


 タカシは体勢を立て直し、咆哮を上げてユウキ達に向き直った。


「お前らぁ! ぶっ殺してやる! それもただ殺すだけじゃない! 死ぬ前に楽しんでから殺してやるぅ!」


 ユウキの目には迷いがあった。しかし意を決して皆に言う。


「……俺はあいつを“殺す”ことになるかもしれない。でも、もう止めないとどうにもならない。……俺は……!」


 悩むユウキの背をアオイが左手で叩いた。


「さっき、電話でギリギリ拾えた音声の中で“異邦人狩り”になるって聞こえたけど」


「うっ……まぁ……そうだけど……」


 ユウキは少し恥ずかしがりながら答えるが、アオイは笑顔で答えた。


「別にからかってるわけじゃないって。ただ、ユウキが異邦人狩りになるなら、それは当然“私”もでしょう?」


 ユウキは目を見開いてアオイを見た。アオイは目線をぶらさずにまっすぐにユウキを見ながら言う。


「なら、ユウキの背負う罪も、私も一緒に背負う。私は……俺私おれたちは二人で一つでしょう? 相棒」


 ユウキの目にはもはや迷いはなかった。ユウキは右手に大鎌を出現させると、力強い声でアオイに答えた。


「ああ……。そうだな相棒!」


「私たちも忘れられると困るんですが」


「ここまで来たんだ。付き合わせないなんて、言わせないからな」


 後ろからシーラとコニールもユウキに声をかける。ユウキは彼女たちにも微笑んだ。


「シーラ……コニールさん……」


 ユウキは足に力を込め、アオイは右手の照準を合わせ、シーラはアオイの側に付き、コニールは剣を握りなおした。


「みんな! 行こう!」


 ユウキの姿が消え、タカシの背に瞬間移動が行われる。突然自分の背に乗ってきたユウキに、タカシは身体を揺らして落とそうとする。しかしその瞬間、タカシの立っていた地面が陥没する。


「なっ!?」


 アオイが地面に手を当てており、タカシの地面にまで続く石畳を瞬間移動させていたのだった。そこにドラゴンの身体の重量が重なり、タカシのいる場所のみ陥没していた。そしてそれはシーラの作戦であった。


「これでドラゴンの身体は封じた! そして……!」


「胴体が地面に寄れば、私の出番だ!」


 コニールがタカシに向かっていき、タカシの胴体を切り刻む。しかし身体はかなり頑丈になっており、多少の傷を与えることはできたものの、致命傷には至らなかった。しかしそれも想定通りであった。


「うおおおっっっ!!!」


 その隙を狙ってユウキがタカシの脳天から大鎌を突き入れようとする。しかし、タカシが大人しくしていたのはここまでであった。タカシが強引に翼を羽ばたかせると、その風圧でその場にいた全員が壁に叩きつけられる。


「殺す! 殺す! 殺すぅぅぅ!!!」


 タカシはそのまま空に飛びあがると、光線の準備をし始めた。ユウキ達は起き上がろうとするが、レベルアップしたタカシの風圧は無傷で済むものではなく、全員が重傷を負っていた。


「が……くそ……!」


 ユウキは這いずりながらもアオイの下へ向かう。アオイも意識はあるが、壁に叩きつけられたダメージで身動きが取れずにいた。


「あと10秒あれば……!」


 しかし無常にも光線はユウキ達へと放たれる。絶体絶命の中、ユウキ達の前に立ったのは――アンジュだった。


「アンジュ!?」


 思いもよらない人物の存在にシーラが声を上げる。アンジュはシーラに微笑みながら言った。


「あんたは大っ嫌いだけど、シズクさんの後輩さんたちや、コニールさんは嫌いじゃないんでね」


 アンジュは手を上げると、防御魔法を展開してタカシの光線を防ぐ。しかしタカシの光線の威力は強く、アンジュは膝をつき、鼻血を出しながらも防御魔法を止めなかった。それを見てシーラは叫んだ。


「アンジュ! もうやめろ! 死ぬぞ!」


「まだ……まだよ……! まだもう少し……!」


 アンジュの顔色が急速に悪くなっていくが、それでもアンジュは魔法を止めなかった。そしてタカシの光線が止まると、アンジュは気絶するようにその場に倒れる。それを見てタカシは舌打ちをした。


「ちっ! 無駄なんだよ! うがああああ!!!」


 タカシはさらにもう一撃、光線を撃つ準備を始めた。――しかし。


「もういい加減にしろ!!!」


 ユウキが空を飛ぶタカシの目の前に現れていた。アンジュが防御魔法を展開している間に、ユウキがアオイの下にたどり着いたのだった。そして今のユウキは大鎌を”持っていなかった”。代わりに右拳が強く握りしめられていた。


「うわああああああ!!!」


 ユウキは叫びながらタカシの顔面にパンチを入れた。不殺魔法の掛かっていない、全身全霊の拳がタカシの顔面にめり込んだ。タカシは歯が欠け、鼻血を噴き出しながら叫び声を上げる。。


「ぎゃあああああ!!! い……痛いぃぃぃ!!!」


 ユウキは落ちないようにタカシの首根っこを掴む。そしてもう一撃加えるために、もう一度拳を握りなおした。それを見てタカシは怯えた表情でユウキに言う。


「な……お前に俺を殴る権利があるのかよぉ! 俺は……俺は悪く……!」


「うるせえよ」


 ユウキはフードを深くかぶり、表情は見えないが眼の光だけが月明りに照らされていた。そして深く暗い声でタカシに言い放つ。


「さっきから散々何かほざいてるから、俺からお前に”真実”を言ってやる。……誰のせいでもない、全部”お前が悪い”んだ!」


 ユウキはタカシの顔面にもう一撃パンチを加え、タカシは一体化していたドラゴンの身体から引きずりだされていった。そして二人一緒に10メートル以上の高さから、近くの民家へと墜落していった――。

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