第12話-②
ユウキは屋根から踏み出すと、タカシの胴体部分へと飛び掛かる。そして大鎌がタカシの身体に食い込むと、ユウキはそれを力いっぱい振りぬいた。
「るおおおおっっっ!」
ユウキの渾身の一撃でタカシは建物をなぎ倒しながら吹っ飛んでい行く。ユウキは周囲の住民が避難していることを祈りながら、まずは倒れている母子からタカシを引き離すために、場所を移すことを選んだ。さらに今の一撃でユウキは”ある判断”がついていた。
「こいつ……さっき戦ったドラゴンよりも弱い……!? アンジュさんの言うことが正しいとするなら、取り込んだやつのステータスを足し算していくんじゃないのか……?」
ユウキが吹っ飛んでいったタカシに追い付くと、タカシは体勢を立て直す前に無理やりな態勢で爪をユウキに振っていく。しかしユウキはそれを難なく避け、今度はドラゴンの胴体部分に大鎌をめり込ませた。
「ぐああああっっっ!」
またも攻撃が直撃し、ユウキは先ほどの判断を確信する。
「やっぱりだ! こいつ、自分の身体を使いこなせていない! これなら……俺一人でも倒せるかもしれない!」
ユウキは速攻をかけようとさらにタカシに斬りかかる。
「今だ! ここで……!」
タカシは逃げるように空へ飛んでいき、大鎌が避けられる。しかしユウキは追いかけるように空に飛んで、タカシの背に着地した。
「終わらせるんだぁ!」
ユウキはタカシの背に思いっきり大鎌を振り直撃させる。タカシは飛んでいることができなくなり、地面に叩きつけられた。ユウキも8メートル以上は上空にいたものの、それ以上の高さから落ちたこともあるためか、慌てることなく着地する。地面に落ちたタカシは咆哮を上げて立ち上がる。それを見てユウキは舌打ちをした。
「ちっ……! 弱いって言っても、やっぱり元のドラゴンよりは頑丈か……でも、このまま続ければもうすぐ……!」
起き上がったタカシは辺りを見渡す。そして自分が”どこ”にいるか理解すると、その顔を歪ませた。急に笑みを浮かべ始めたタカシを見て、ユウキの足が止まる。
「な……なんだ……?」
するとタカシは近くの大きな建物に光線を放った。その建物は光線の衝撃で崩れだす。そして中から悲鳴が上がった。
「でへへへ……!」
その悲鳴を聞いてタカシはさらに顔を歪ませ、ユウキはタカシが何を目論んでいるのか理解して”しまった”。
「まさか……!」
タカシはもう一度光線をその建物――”避難民が大勢いる町役場”に放とうとする。次に光線が役場に当たったら、今度こそ役場は完全に崩落してしまう。ユウキはそれに気づくと、まるで時間が止まったかのように頭が回転しはじめた。
(今からタカシに攻撃を加えてあの光線が止まるか? いや無理だ。とるなるともう……!)
ユウキはその場から跳躍すると、タカシと役場の間の直線上に入った。そしてタカシから光線が放たれ、ユウキは大鎌を出現させて光線を防ぐが、防ぎきれずに身体に直撃する。
「ぐあああっ!」
ユウキは力をふり絞って大鎌を振ることで、光線を役場への直撃ルートからそらした。しかしその代償は大きく、ユウキは役場の壁に叩きつけられると、血反吐を吐きながら地面へ墜落していく。
「がはっ! ……こいつ……これを狙っていたのか……!」
光線の直撃をくらったユウキのダメージは深く、その場から身動きが取れなくなってしまう。タカシはユウキが動けなくなったことを確認すると、邪悪な笑みを浮かべながら近づいていく。
「ぐふっ……ぐふふふ……。バカが……! 俺をバカにしやがって……!」
ユウキはタカシと黎明亭の前で一度会っており、その時に抱いた印象が“あんまり頭の良くない会話の通じないやつ”というものだった。それは間違ってはいなかったが、一つだけ読み間違えがあった。――“悪意”だけは誰よりもどす黒いものを持っているという事を。
「だいだい左翼のクソ野郎が俺に歯向かうから行けないんだこんなやつどうせ女だだから感情的にしか考えられないんだ俺が悪いんじゃないこいつが悪いんだだいたいガイジの非国民のくせに税金も納めてないくせにどうせこいつブリ信者でソシャゲやってるようなゴミで差別漫画を全肯定してひかしんじなんか見て荒らしをしていて」
突然意味のわからない言葉の羅列を呟きだしたタカシに、ユウキは脂汗を流しながら呟いた。
「な……なに言ってるんだこいつ……?」
しかしその呟き聞いたタカシは、感情的に唾をまき散らしながらユウキに叫んだ。
「俺をバカにするなぁ!!!」
タカシはドラゴンの足でユウキを踏みつぶす。
「ぐはああああっっっ!!!」
全身の至る所で骨が折れる音がユウキの耳に入ってきた。激痛で涙が抑えられず、全身の穴という穴から体液が漏れだす。
「お前が悪いんだ! お前が! こいつらが!」
タカシはユウキを持ち上げると、思いっきり振り回してユウキを地面に叩きつける。ユウキは地面にめり込むほどの勢いで叩きつけられ、先ほどまで涙を流していた目からは血涙がにじみだしていた。
「あ……がは……」
異邦人のステータスの恩恵か、ユウキはまだ意識を鮮明に保っていた。そしてだからこそ考えなければならないことがあった。
(ぐほっ……! ヤバい……今はまだだけど、どれだけのダメージを食らったら俺も“消える”ことになるのか判断がつかない……!)
先の水を操る異邦人マイルと戦った際、マイルを不殺魔法のかかった大鎌で殴っても消えてしまっていた。シズクもHP――ヒットポイントのようなものがあることをユウキに話していた。もし死にはしなくとも、このHPが0になることで消えることになるとするなら、ユウキにあとそれがどれだけ残っているか、その判断がつかなかった。
(なんにせよ、これ以上もらうのはマズイ……でも身体が動かない……全身の骨が……)
結城葵は今まで骨折したことはなかったが、シズクから肩を2回も折られた経験と、激痛で身体が動かないことから、全身のあらゆる骨が折れていると感覚的に理解していた。タカシはドラゴンの手でユウキの腕を掴んで持ち上げる。そして自分の胴体の前にまでもっていくと、にちゃついた笑みを浮かべながら言った。
「お前も食ってやる……! シズクと同じ学校だったんだろお前……なら、俺の中で一緒になれるな……俺に感謝しろよ……!」
そしてタカシが自分の右手をユウキに近づけた瞬間、タカシの側頭部に衝撃が走り、ユウキを手放してタカシは倒れていく。地面に落ちたユウキは激痛で咳き込みながら、その衝撃が来た方向を見た。
「え……モモ……さん……?」
「大丈夫!? ユウキ!?」
そこにいたのはモモだった。モモはユウキに駆け寄ると、ユウキに手を当てる。
「今治してあげる! ちょっと待ってて……!」
「な……なんでここに……?」
ユウキはモモの回復魔法を受けながら尋ねる。
「それにこの魔法……? モモさん魔法使えましたっけ……!?」
モモは必死にユウキの治療をしながら答えた。
「あのドラゴンが暴れ始めて、店にいるのも危なくなってたから避難していたの。そしたら逃げてる最中にユウキが空を飛んでいるのが見えて追ってきたの。この魔法は……わからない。なんか気づいたら使えるようになってた」
モモは自分では気づいていないが、これはモモのギフト能力“魔法熟練”によるものだった。その能力は全ての魔法を訓練無しで素質関係なく使えるというもので、ユウキを治した回復魔法も、タカシにダメージを与えた衝撃魔法も、モモが無意識に使った魔法だった。
アンジュのものよりも遥かに高性能な回復魔法は、ユウキの全身骨折と打撲を“とりあえず”のところまで回復させた。しかしまだ完全に治り切ったわけではなく、ユウキは立ち上がりはするものの、痛みと節々の不安定さからよろけてしまう。
「くっ……でも動けるくらいには回復したか……」
ユウキは辺りを見渡す。避難民がいたと思われる町役場からは人の声が聞こえなくなっており、おそらく別の場所に避難していったであろうことがわかった。
「そういえばグレゴリーさんは?」
ユウキがモモに尋ねると、モモは首を横に振った。
「逃げてる最中にはぐれちゃった」
「そうですか……」
ユウキは更に周りを見渡す。そして自分の視覚がおかしくなったかと思い目を擦るが、やはり自分の目がおかしくなっていないことに気づき、脂汗を流す。先ほどまでタカシが倒れていた場所に、誰もいなくなっていたのだった。
「バカな……!あいつ……どこにいった……!?」
「どうしたの?」
モモが尋ねた瞬間、モモの背後から振動音が聞こえる。そして振り向くと、そこには異形のドラゴンが――タカシが顎を広げていた。
「あ……」
「モモさん!」
ユウキはモモに手を伸ばそうとするが、間に合わずタカシの身体はモモの上に覆いかぶさってしまう。その衝撃でユウキは吹っ飛ばされ、近くの民家の花壇にぶつかってしまう。そして何とか顔をあげると、先ほどまでモモがいた場所でタカシが高笑いをしていた。
「あっはっはっは!!! このバカが……! 俺を舐めるからだ!!! 俺をバカにするからだ!!!」
すでにモモは跡形もなくなっており、それが意味することをユウキは理解していた。
「あ……あああ……うあああ……!」
ユウキの脳裏にモモとの思い出が去来する。初めて会ったときの事、バイトで世話になったこと、逃げかえった宿屋で自分を庇ってくれたこと。そして一緒に洗濯をしたこと。
「あああ……うわああああああ!!!」
ユウキは立ち上がり、キレてタカシへ向かっていく。しかしタカシが尻尾を振ると、ユウキはそれに反応できず、左腹部に攻撃が直撃し、吹っ飛ばされる。
「がはっ……! な……なんで……?」
先ほどまではユウキに反応できない速度ではなかった。なんならユウキの方がタカシよりも素早く動け、圧倒していたはずだった。しかし今のスピードは先ほどより明らかに増していた。
「モモさんを取り込んだから……? いや、鈴木先輩を取り込んであの程度だったのに、モモさん一人くらいであそこまで変わるなんて考えづらい……まさか」
ユウキは先ほどまで、モモがマイル達に狙われていた理由を思い出した。町にいるはぐれ異邦人を全員狩るという“クエスト”があったということを。
「まさか……モモさんを倒したから、経験値が入ってレベルアップしたということなのか……!?」
タカシがそれを狙ったのかは定かではないが、今は一つの事実がその場面を支配していた。
――それはユウキが、もはや一人ではタカシに勝てないという現実が。




